第十四話 これはいつものこと
レオン様の看病を任された私は、レオン様の部屋で丸一日一緒に過ごした。
看病と言っても、私がすることなんてほとんど無く、ただ一緒に過ごして、無理をしそうになった時に、制止をするくらいしか役目がなかった。
「レオン様。朝起きてから、ずっと書類仕事をしてますけど……体は大丈夫なんですか?」
「ああ」
「…………」
「そんな顔をするな。俺がケガをしていたって、仕事が自然に無くなるわけじゃない」
「それは、そうですけど……」
レオン様はこの国の王であり、騎士でもあるのだから、多忙なのはわかってる。
でも、それじゃ仕方ないですね! ケガしてるけど頑張ってくださいね! なんて、口が裂けても言えないよ。
「あの、少し休憩しませんか? お見舞いで、たくさんの果物が届いてますから、私が剥いてあげます!」
「いや、俺は……」
「……そうですよね。迷惑、ですよね。ごめんなさい、心配でつい……」
「……少し、腹が減ったな。せっかくだから、もらおうか」
「っ……! はい、任せてください!」
私は、リンゴを手に取ると、果物ナイフを使って、皮を剥き始める。
「あれ……お、思った以上に難しい……ウサギさんの耳が、片耳になっちゃいました……」
せっかくだから、可愛らしい形にしようと思ったのだけど、リンゴはガタガタだし、耳は片耳だしで、お世辞にも成功とは言えないものになってしまった。
「うぅ、リンゴの皮を剥くのが、こんなに難しいなんで、思ってませんでした……」
「最初はそんなものだ。聖女の力を使うのだって、最初からうまくはいかなかっただろう?」
「それは……そうですね。レオン様も、そうだったんですか?」
「当然だ。何年も欠かさずに剣を振り、魔法を学び続けた」
てっきり、レオン様は天才で、最初から強いものだと思っていたけど、とんだ勘違いだったみたいだ。
魔物を軽々と倒す腕になるまで、一体どれくらいの時間がかかったんだろう? 私には、想像もつかないよ。
「時には、逃げだしたくなったこともある」
「そうなのですか? レオン様は真面目だから、少し意外です」
「幻滅したか?」
「いいえ。むしろ、なんていうか……親近感が湧きました」
「そうか」
文句の一つも言わず、ただ己に課せられたものを果たすために頑張る。
それはとても凄いことだし、尊敬できるけど、どこか雲の上の存在のようにも思ってたから、人間味のある話を聞いて、親近感が湧いたのかもしれない。
「レオン様、どうぞ」
「お前も食え」
「えっ? これは、レオン様へのお見舞いの品ですから、私はもらえませんよ! それとも、こんなのじゃ嫌ですか……?」
「そんなことは、一言も言っていない。お前が空腹で倒れられたら、俺が困るだけだ」
「……それじゃあ、遠慮なく。えへへ」
私は、レオン様に返されたリンゴを貰い、そのままかじりついた。
私、果物の中でもリンゴが特に好きなんだ。故郷でも、よく食べていたっけ……懐かしいなぁ。
「ん~、見た目はあれですけど、甘くておいしぃ~!」
「そうか。まだたくさんあるから、遠慮せず食え」
「いいんですか!? それじゃあ……じゃなくて! ああもう、私のバカバカ……これじゃあ、ただ食べに来ただけみたいだよ……!」
「俺が良いと言っている」
もらうか我慢するかの葛藤をする中、レオン様の後押しもあって、私はリンゴをたくさんいただいた。
もちろん、罪悪感はあったけど……レオン様がくれたことや、一緒に食べられたのが、とても嬉しかった。
「ごちそうさまでしたっ。おいしかったですね」
「ああ。俺は仕事に戻るから、何かあったら声をかけろ」
「あっ……用事、ありますよ!」
「なんだ?」
本当は、用事なんて無い。ただ、このまま仕事に戻ったら、また無理をしてしまうかもしれない。
そう思ったら、咄嗟に嘘を……うぅ、どうしよう……あっ、そうだ!
「一つ、聞きたいことがあるんです!」
「聞きたいこと?」
「村に行ったあの時……私のことを、どうしてリアって呼んだのですか?」
あの日、純粋に思ったことを投げかけると、レオン様は少し視線を逸らしてから、すぐに私に向き合った。
「気のせいじゃないか? それか、突然のことだったから、前半の部分を省略してしまった可能性もある」
「その可能性は、確かにありますけど……」
うーん……切羽詰まった状況だったし、本当に気のせいだったのかもしれない。
「何か問題があるのか?」
「小さい頃に、私のことをそう呼んでいた子がいたんです。それを思い出しちゃって」
「そうか。他になにかあるか?」
「ほ、他ですか? えーっと、えーっと……」
次の話を必死に考えている私に、まるで救いの手を差し伸べるかのように、部屋の扉が開いた。
「レオン、頼まれていた薬を持ってきてやったぞ。って、なんだお前ら。もしかしておじゃま虫だったか?」
「叔父上。いえ、特に邪魔というわけでは」
「ならいいけどよ。ほれ、薬。それ飲んだら、包帯取り替えんぞ」
ユリウス様は、手に持った瓶を渡してから、ダラダラと包帯や別の薬の準備に取り掛かる。
こ、これだ! ゆっくりやれば、その間レオン様は休める! それに、お手伝いも出来るし、まさに一石二鳥だよ!
「あの、私にもお手伝いさせてください!」
「おー、そりゃ助かる。こんなでかい図体の男の包帯を取り替えるのは、おっさんには重労働なもんでな。それに、レオンもその方が嬉しいだろ?」
「…………」
「身内のおっさんよりも、可愛い女子にペタペタ触られながら替えてもらう方が、嬉しいだろ?」
「叔父上。そういう発言は、彼女に失礼かと」
「かーっ、これだから堅物は困るぜ。ほんと、そういうところは兄貴に似ているよな」
兄貴って、レオン様のお父さんのことかな。噂で聞いたことがある……先代の国王様とお后様は、事故で亡くなったと。
だから、まだ若いレオン様が、国王様として、たくさん頑張っているんだね。
「んじゃ、まずは上半身からだな。包帯をゆっくり取ってくれや」
「わかりました」
なるべくレオン様の体に負担がかからないように、そーっと包帯を取ると、火傷の他にも、多くの傷跡が露見した。
何度見ても、痛々しいその姿に、思わず目を逸らしそうになった。
でも、それはなんていうか……レオン様の苦労と頑張りからも目を逸らしているみたいに感じたから、絶対に目は逸らさなかった。
「レオン様、私……あなたがもうケガをしないように、聖女の仕事を頑張りますから! たくさん……たくさん頑張りますから!」
「…………」
「あっ、もちろんこの前の時みたいな、無理はしませんよ! またレオン様に怒られちゃいますし! え、えへへ……」
「わかっているならいい」
「だから、レオン様も無理はしないでくださいね」
「……善処はする」
善処じゃなくて、しっかりやってほしいところだけど、今日のところは、まあいいかなと思いながら、レオン様の包帯の交換を無事に終えた。
「昨日よりは、傷は治ってきているな。ふん、さすが天才魔法薬師、ユリウス様が作った薬。効果は抜群だな」
「ええ。これなら、今夜のパーティーへの参加は問題無さそうです」
「うんうん、ケガをしたままパーティーなんて、大変ですし……パーティー!?」
あまりにも自然に話すものだから、私も普通にしちゃったけど……今の話だと、完全には治ってないよね!?
「完治していないのに、パーティーに参加するんですか!?」
「今回が初めてではない。だから、一々騒ぐな」
「騒ぐに決まってるじゃないですか! 寝てないと駄目ですよ!」
「嬢ちゃんの言うことはもっともだけどよ。王様ってのは、そう簡単には休めねーんだよ」
「そんな……」
いくら回復に向かっているとはいえ、一人で行かせるのは、心配でしかないよ。
「……そうだ! 私が一緒にパーティーに参加します!」
「セシリア?」
「ほら、私が近くにいれば、何かあった時に対処できますし、無理をしそうになったら、その都度止められますし! 社交界の心得もありますから、邪魔にはなりませんよ!」
「しかしだな……」
「まあいいんじゃねえか? デート気分で、連中に婚約者自慢でもしてこいや」
「で、デートって……私達は政略結婚ですから! そんなことを言ったら、レオン様に失礼です!」
「……ああ、そうだな。セシリア、よろしく頼む」
同意を求めるように、レオン様に視線を向けたら、どことなく寂しそうに見えたのは、私の気のせいかな?
うーん、今の会話に寂しくなる要素はないし……多分気のせいだね。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
読んでいただいた方々に、お願いがございます。5秒もかからないので、ぜひ☆による評価、ブックマークをよろしくお願いします!!!!
ブックマークは下側の【ブックマークに追加】から、評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタッチすることで出来ます!




