第十三話 故郷の異変
■プリシア視点■
お姉様がいなくなって二日。今日も、愛しのギルベルト様とイチャイチャ生活……なんてことは出来ないくらい、大変なことになっていた。
「聖女様、各地で魔物の被害が次々と報告されています!」
「一刻も早く、聖女の結界を!」
「うるさいわね、今やってるわよ!」
鬼気迫る様子の兵に急かされながら、私は聖女の結界を張るために、力を振るう。
――大変な事態とは、各地で聖女の結界を超えて、魔物の襲撃が相次いでいることだ。
もちろん、私は手は抜いていない。なのに、聖女の結界は正常に機能せず、次々と魔物の侵入を許している。
今は、各地に兵が赴いて、魔物の討伐に当たっているけど……長年聖女の結界に頼り切り、鍛錬を怠っていたらしく、次々と返り討ちにあっているそうだ。
「どうして、こんなことになったの……!? この前、確かに魔物が侵入したって報告はあったけど……!」
どうして、お姉様がいなくなった途端、こんなことが? 何か関係があるの?
「……いや、ないわね。お姉様がいなくたって、私一人で十分なのよ! さあ、聖女の結界よ! 醜いゴミ共を一匹残らず消しなさい!」
私の声に応えるように、魔法陣が赤く光りだす。
これで、とりあえずなんとかなったかしら……はぁ、疲れたー……動くのも億劫だわ。少し休んでから、ギルベルト様に褒めてもらおうっと。
「報告! 聖女の結界の発動が確認されました!」
「当然じゃない。私が丹精を込めて作ったものよ。今までで一番の結界になったでしょう?」
「それが……お伝えしにくいのですが……現地の兵によると、確かに結界が張り直されましたが、今までの結界よりも縮小し、結界に触れても魔物が消滅しないそうでして……」
「……はぁ?」
なによそれ……そんなの、完全に今までの結界の劣化じゃないの!
「失礼します! 王都に侵入した魔物は、次々と破壊活動を繰り返している模様! ギルベルト様からプリシア様に、大至急現場に急行し、直接魔物を倒すようにとの命を受けました!」
「冗談じゃないわよ! 私みたいな、か弱い聖女に、前線に来いっていうの!? そもそも、私が行ったって、何の役にも立たないわよ!」
「ぷ、プリシア様……?」
いつもなら、人前では猫を被っているけど、へとへとに疲れ切った私に、そんな余裕は一切無い。
「そ、そういう命令ですので……」
「プリシア様。このままでは、間もなく王都に大きな被害が出てしまいます。恐れる気持ちは重々承知ですが、ご決断を……!」
「知らないわよ! 私は絶対に行かないわよ!」
「…………」
私の仕事は、結界を張ること。それ自体は達成できたんだから、あとは知ったことじゃないわ。どれだけ犠牲が出ようと、魔物を倒すのは、兵の仕事!
……だというのに、このゴミ共は私の両手をがっしりと掴んで、聖女の部屋から連れ出した。
「なにするのよ! 離しなさい! 私を誰だと思っているの!?」
「申し訳ございません。ですが、これも命令でして……」
「命令に逆らえば、私達も家族の首も、まとめて飛ばされてしまうのです」
「知らないわよ、そんなの! 民が一人二人死んだところで、私には何の関係もないわ!」
なんとか振りほどこうと思ったけど、男二人にか弱い女が勝てるはずもなく、そのまま馬車に押し込まれてしまった。
そうして連れていかれた先では、多くの兵が魔物と戦う、戦場のど真ん中だった。
「ギルベルト様! 新手が王都の外縁部を突破しました!」
「西門も突破されたとの報告が!」
「ええい、どんな手を使ってもいい! 魔物共を一匹残らず駆逐しろ! くそっ、どうしてこんなことに……」
「ギルベルト様! 私をこんなところに呼び出すなんて、何を考えているのよ!?」
「プリシア! 貴様……!」
前線で指揮をしていたギルベルト様は、私に詰め寄ると、怒りの形相を浮かべながら、胸ぐらを掴んできた。
「一体どうなっている!? なぜ聖女の結界が突破されている! 答えろ、プリシア!!」
「そんなの知らないわよ! 私は、今まで通りにちゃんと仕事はしたわ! だから、私は悪くない!」
「貴様の感想など、誰も聞いていない! 現にこうして、魔物が王都に攻め入ってきている! これは、貴様の責任だ!」
「だからって、私をこんな危険な場所に連れてきたわけ!? 信じられない! 私のせいにしてないで、あんたが兵と何とかしなさいよ!」
ギルベルト様と口喧嘩をしている間に、魔物達は次々と兵を倒し、逃げ遅れた民を屠り、建物を破壊していく。
こんなところにいたら、魔物に殺されてしまう。一秒でも早く逃げるか、事態を収束させるしか、道は残されていない。
「プリシア! 今すぐにここに結界を張って、こいつらをどうにかしろ!」
「出来るわけないでしょ!? そんなことをすれば、今貼られている結界が、完全に消えるじゃない!」
「出来る出来ないじゃなくて、やれ! 僕をここで見殺しにする気か!?」
「ギルベルト様は、剣術の心得があるじゃない! それで何とかしなさいよ!」
「剣の稽古なんて、真面目にやったことなんて、一度たりともない!」
「はぁ!? 散々私に、今日もたくさん稽古をしたって、自慢をしていたじゃない! あれは嘘だったの!?」
ギルベルト様と言い合いをしていると、目の前にオークが近づいてきて、丸太のような手を振り降ろしてきた。
その瞬間……私の意識は、闇の中に落とされた。
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