咲耶とすき焼き争奪戦
皆ですき焼きを囲みながら、今日1日に起こった出来事を報告し合う。
だが、その間にもクルードとカザミの間で、肉の争奪戦が繰り広げられていた。
「クルードはん。アンタは少し遠慮って言葉を覚えた方がいいんやないのぉ?」
「は? 遠慮などしとったら、柔らかく煮えた肉にありつけんわ。それよりも、お主こそ遠慮せんか。ワシらは肉体労働をしとったから、腹が減っておるんじゃ!」
側から見ていると、何かバチバチと聞こえてきそうな睨み合いをしながらも、2人は器用に自分の器にすき焼きの具材を取ってゆく。
そんな2人を余所に、カンザールはクロガネに願って、初めてのすき焼きを楽しむ為のレクチャーを仰ぐ。
「クロガネ殿、この器に入っている黄色い液体は?」
「ああっ、それは鳥の卵ですよ。ほら、こうやって掻き崩してから、肉や野菜を絡めて食べるのです。」
「ほう……。」
クロガネに倣いながら、卵を絡めた肉を口に運ぶ。柔らかく煮込まれた肉と、卵のマイルドさが絶妙な味わいを生んでいる。なるほど、クルードが好物と言うだけはあると納得するカンザール。
そんなカンザールの手元を、ドゥーロが珍しく羨ましそうに見つめてきた。
「ドゥーロよ、少し食べてみるか?」
「でも、オレは動物の物は食べられないよ……」
少し悲しげに呟くドゥーロに、クロガネと咲耶が助け船をだす。
「肉が駄目でも、植物性の物であれば大丈夫ではないのですか?」
「そうだね、例えば…この豆腐。これは穀物の大豆から出来ているし、野菜やきのこ類も、味が染み込んで美味しいと思うよ?」
咲耶達にそこまで言われると、やっぱり自分も味わってみたくなるドゥーロは、師匠が自ら器に選んでくれた野菜やきのこを、恐る恐る口に入れてみた。
「うわぁ〜」
肉厚の椎茸を一口かじると、すき焼き特有の甘い煮汁が一緒に口いっぱいに広がる。
最初はゆっくりと味わいながら食べていたが、次第に他の野菜や豆腐に自分から手を伸ばし始める。
そんな行動を可笑しそうに眺めていた咲耶達だったが、ドゥーロとクルード達に、作って置いた分を全部食べられかねない勢いだ。
「これはいかん。我々も遠慮などしておりましたら、食べ損ねてしまいそうだ。」
争奪戦に新たに加わるクロガネとカンザールに、これはもう少し鍋を追加するべきかと、本気で心配になる咲耶だった。




