咲耶とクロガネの傷
「それよりも、まずはクロガネの傷の手当てから始めた方が良さそうね。ゆきの引っ掻き傷やかじられた傷が、かなり痛そうにみえるよ」
「そうですか? 自分ではそう感じませんでしたが、居間に救急箱があったので後で手当てしておきます。」
咲耶が傷の状態を確認しようとする。たがクロガネは咲耶の手を何気に避け、居間に促す。
「クロガネ、その手で皆の所へ戻ったら、色々と詮索されてしまうよ? それよりも、ほら手を出してみて。」
「咲耶様?」
咲耶の意図が読めないクロガネだったが、ここは大人しく咲耶の言葉に従う。
「あまり見せるようなものではありません。まじまじと観察しないでください。」
ゆきが思い切り噛みついたと思われる場所は、まだ薄っすらと血が出てきていた。
「ゆき、私の為にしてくれたのは嬉しいけど、もう少しお手柔らかにしてあげて?」
咲耶が優しく諭すが、ゆきは意に介さず部屋の中に戻ってゆく。
「ゆき……。仕方ない、後から話し合いかな?」
「いや、咲耶様。ゆきくんを困らせたのは私なのですから、今回は咎めないでやってください。無理矢理部屋を開けようとした私に、主人の留守を守っただけなのですから。」
咲耶の傷ならば今頃大騒ぎ。逆に自分の傷ならば無頓着なクロガネに、咲耶は反論しようとした。だが、再度頼み込むクロガネに、今回はクロガネの意思に従う事にした。
「分かった。じゃあ手当てするから部屋に入りましょう。ここで始めたら別の人達に見られかねないから。」
「ん、ただ消毒やガーゼで傷口を塞ぐのではないのですか?」
一般的な傷口の処理法をあげるクロガネに、咲耶は椅子に座らせ傷だらけの両手を前に出させる。
「まだ、この能力は練習段階だから、上手くいくかは半々だけど、試してみても良いよね?」
「それって、私を練習代に使おうとされてますか? まあ、良いのですがね……」
完治すればそれで良いし、駄目だった場所は……、自分が対応すれば良いだけだ。そう割り切ったクロガネは、自分の傷を咲耶に委ねることにした。




