咲耶と睨み合う者達
「ゆき、ただいま〜。遅くなってごめんね? って、あれ……。」
何時もであれば、ゆきの甘えたような鳴き声が聞こえてくるはずが、今日はしんと鎮まりかえっている。そして、部屋とは逆に咲耶の部屋の前がなんだか騒がしい。
何事かと部屋の外に出ようとしたが、扉の外側から聞き慣れた声が聞こえてくる。
咲耶はそっと足音を忍ばせて、扉の前に近いてみた。すると、声の主達は部屋でお留守番をしている筈の愛猫ゆきと、咲耶を探していたクロガネの声であった。
「フゥーー」
「ちょっとゆきくん。そんなに毛を逆立てて威嚇するのは止めてください。ただ私は、咲耶に用事があるので、部屋に入らせてもらいたいだけなのですよ。」
ゆきとクロガネの攻防は、彼此1時間ほど繰り広げられていた。
「本当に君も頑固ですね。私は、咲耶様が一日中部屋に篭りきりでは、疲れてしまうと思い、居間でお茶でもどうかと誘いに来ただけなのですよ? それよりも、どうしてここを通してくれないのですか。何か私に知られては困る事があるのですか?」
クロガネが扉に手を伸ばそうとすると、その手にゆきが思い切り噛みつく。
「くっ……。やってくれましたね。」
「ミャーァーオー」
猫同士の喧嘩の時のように甲高い声で鳴くゆきに、噛みつかれたクロガネが一歩退き、扉に向かって大声で呼びかける。
「咲耶様、いらっしゃらないのですか? 咲耶様ーー」
これ以上隠れるように部屋に居ては、本当にゆきとクロガネが喧嘩を初めてしまいかねない。そう思った咲耶は、そっと静かに扉から顔を出してみた。
「ごめん。ちょっと風車小屋に行ってたんだ。黙って行ってごめんね、クロガネ。それと、ゆきもお留守番をしてくれてありがとう。」
「ミャ〜ン〜」
待ちかねた主人の帰宅に、ゆきは尻尾を揺らしながら咲耶の足元に纏わり付く。
そんなゆきを抱き上げながら、クロガネにも謝罪する咲耶。
「クロガネもごめんね。何か書き置きでも置いて行けばよかったんだけど、その事を失念してたの。これからは行き先を知らせて出かけるようにするから、今日は許して?」
頭を下げて謝る咲耶に、次は本当に行き先を知らせてください。と、強い口調で願うクロガネだった。




