15話・先生の過去
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――二瀬教子が小学生のころ
「ねえ、教子ちゃん! 今日は一緒に遊ぼう?」
「あ、うん。行――」
「辞めとけって。あいつ勉強ばっかして面白くないぜ。」
「そうそう! 二瀬さんは私達みたいな庶民とは違うエリートだから。」
「そっかあ。忙しいんなら仕方ないね〜。無理して誘ってごめんね教子ちゃん!」
「……。」
教子の家はスパルタ教育をしており常に勉強ばかりを強いられていた。学年が上がるごとに勉強量も増え友達との交流は徐々に減っており、いつしか全く遊ばない様になっていた。
(私も混ざりたかったな……。)
「ただいま帰りました……。」
「教子、おかえりなさい。家庭教師の先生は既にいらしてますよ。さあ、早く支度して。勉強は今が一番大事な時期なんですからね。」
「はい、お母様……。」
家に帰るとまずすることは自室に行き家庭教師との勉強だった。ゲームなんて言語道断で家の中には一つもない。
「教子ちゃんこんにちは。今日もまずは宿題のチェックからしましょうか。その後に間違ったとこの解説を徹底的にするわね。」
「優子先生、こんにちは。はい、お願いします。あれっ先生? 腕に傷が……。」
「……ああ、これかな? ちょっと授業中に間違えて切っちゃったんだよ。気にしないで。」
部屋に入ると家庭教師の優子が待っていた。彼女は有名な学校の優等生で教子の母自ら家庭教師を依頼した。落ち着いた雰囲気で毎日2時間家庭教師をしてくれている。
――勉強後
「お母さま、娘さんの正答率は今日も良かったですよ。予習復習完璧だと思います。授業や宿題の難易度を上げて量も増やしましょうか? 授業だと後+1時間は可能です。」
「そうね。あなたが構わないんだったらウチとしては大歓迎ですわよ。契約更新するからちょっと待っていてくださる?」
「ありがとうございます。娘さんの将来のために全力でサポートしますね。」
教子の優秀さを実感している優子がさらに時間を増やすように提案し受理された。
――翌日
「教子ちゃん、今日から3時間レッスンすることになったよ。」
「えっ? はい、ありがとうございます」
(時間が1時間も増えるの? ただでさえ2時間は長いのに……。)
「教子ちゃん? 長いの嫌だった?」
「い、いえ。そんなことはないです……。」
「そう、なら良かった! 教子ちゃんは確か教師志望なのよね?」
「はい、お母様が私には教師になって安泰の人生を送って欲しいみたいです。魔法自体は才能によるものが大きくて私は下手だから小学校教師に私はならないといけないんです。」
教子のなりたい職業は母によるものだが教師だった。特に小学校の教師であれば魔法の練度もそれほど必要ではなく人間性と座学を重視されるため教子にピッタリであると母に思われている。
「教子ちゃんなら魔法も上手くなりそうだけどな〜。でも確かに中学校以上だと冒険者くずれの人たちとかが採用されやすくなるもんね。それに給料は少し上がるとはいえ危険なこともあって見合ってないってよく言われてるよね。」
「はい、母は私に才能が有ったとしても中学校以上には行かせたくないみたいです。」
「じゃあ、これからも頑張ろうか。しっかりサポートするね!」
――半年後
「優子先生、今日はお買い物にお付き合いしてもらってありがとうございます……。」
「いいよ〜。お母さま急に熱出しちゃったんだよね? 私が今日はご飯作ってあげるね!」
「あれ、がり勉の優子じゃん。」
「おい、最近付き合い悪いと思ったらそんなガキの世話してたのかよ。」
「今月の友達料まだもらってないんだけど!」
「っ!?」
優子は教子の手を引っ張って逃げるように走った。
「先生、どうしたの急に……。」
「う、ううん、何もないの……。さっきの人たち何だったんだろうね……。そんなことよりご飯作るよ! ね、早く家入ろう……?」
「はい……。」
――数日後
「先生、どうしたんですか!? その怪我!」
「ああ、教子ちゃんか? 最近家庭教師おやすみしちゃっててごめんね。」
「そんなことは今はどうでも……。」
優子は数日間体調不良を理由に休んでいた。教子はたまたま外へお使いに行っている時に優子に出会ったら全身打撲跡で水を被ったように濡れている。そんな時教子のクラスメイトが来た。
「あれ、教子ちゃんどうしたの?」
「二瀬さん、勉強サボってるの? 珍しい。」
「隣の人誰、何か見た目やばくね。」
「隣の人は家庭教師よ。見た目なんか関係無いでしょ。怪我してるだけよ!」
「え〜。汚いよ!」
「分かる。近寄らないでね。」
「あなたたち何を言ってるの!」
教子は優子の悪口を言われて怒った。優子は子供にまでこんなことを言われたのが相当ショックな様子だ。
(私をこの前誘ってくれたこの子なら……)
「ねえ、あなたは別に何とも思わないでしょ……?」
教子は咄嗟に優しいと思っている子に質問した。この子ならきっと良いことを言ってこの場を落ち着かせてくれるそう信じての言葉だ。
「私……? どう見ても気持ち悪いよ……?」
「ちょっと……!?」
教子は信じられない言葉に耳を疑った。
「ごめんね……。教子ちゃん今日は帰るね……。」
「先生……。待って、私は――。」
優子は言葉を聞き遂げず走って去っていった。教子も追いかけたが走る速度の差で追いつけなかった。
その夜、優子が亡くなった。
母からその知らせを聞いた教子は泣き叫び、どうして彼女がこの世を去ったのか、どうして私は助けられなかったのかを深く後悔した。
遺書には教子宛のメッセージがあった。そこには、
教子ちゃんへ
私はとても弱い人間でした。あなたの夢を叶える前にこの世を去ってしまうこととなって本当にごめんなさい。
あなたはとても聡明で私なんかいなくても絶対に夢を叶えられると思います。
小学校の教師になった時には子供達には優しくしてあげてください。素晴らしい教師になれるように私は願っています。
優子より
「無理よ……。私には、子供になんて絶対に優しくなんかできない。あなたの命を奪ったあの子たちのような無邪気な化け物なのよ。……でも、先生が願ってるならなるしかないわね。私が壊すわ子供たちの未来を。」
優子のメッセージを読んだ教子は教師になることを誓った。しかし、教子の心はもうすでに壊れ始めていた。
――回想終了
「さあ、早く天宮陽菜の場所を言え。」
「天宮さんの場所、それは……。」
二瀬先生は走馬灯のように思い出した自身の過去に基づいて動こうとする。そんな時ポケットに入っていた手紙に触れた。
(これは、天宮さん達の……。)
二瀬先生は、陽菜と過ごした3年までの間、そして今回罪を償うことを決めた事件の時の陽菜のセリフ。この前の面会での言葉全てがフラッシュバックした。
「それは、あなたのような極悪人に教えるようなものじゃないわ。」
「な、なに!? おまえ分かっているのか? さっきも言っただろうお前が言わなかったところで時間稼ぎにしかならない。命の無駄だと。」
「ええ、聞いていたわ。だからこそ私は言わない。この命を落としたとしても。」
「意味が分からん!」
「天宮さんは他の人とは違う。
最初は彼女のことを他の人とは変わらない偽善者、あるいは腹の内は打算的だと決めつけていたわ。でも違った、3年間過ごした期間と私が起こした事件の時に気付かされたわ彼女の本心からの優しさを。
私は天宮さん、優子先生の想いをこれ以上裏切れない。」
二瀬先生はそう言った後、体を蝕むあまりの痛さに倒れ込んだ。
「ふ、ふはは……。バカな奴だ。こんなことをしても無駄だったのにな。ちっ。行くぞレンジ。」
銀髪の男たち、禍津とレンジが立ち去った。
「……ぅ。さ……いご……くらい、りっぱ……な……おとなに……なれた……かな。ゆうこ……せんせい……。」
二瀬先生は陽菜達の手紙を握りしめ満足したように目を閉じた。




