第9話 初めての宅飲み
「お疲れ」
「紅希どうした?」
「お疲れ」
「ああ、さっき彼女とデート終わったところ」
「どうだった?」
「まあ、普通」
「そっか」
少しだけ間があった。
「あのさ……やっぱり俺考えたほうがいいのかなって、ちょっと思っちゃって……」
「でも、俺一人で考えるには混乱しすぎてて……」
「今から時間ある?」
「明日日曜だし……遅くなっても平気なら、ちょっと来てくれよ。」
「一人では判断がつかなくて。」
「え?」
「俺んち来てくれたらいいから。」
「眠くなったら、そのまま泊まってくれてもいいし。」
「お前な……。」
「飲みながら話そうぜ。」
紅希が言った。
「お前、知り合ったばかりだぞ?」
「別に、友達だろう?」
「変なことしないだろうし。」
「……まあな。」
……まあ、断る理由もなかった。
――その時だった。
「青斗。」
セラの声がした。
「……何だ?」
少しだけ、間。
「その人……少しだけ変よ。」
「変?」
「うまく言えないけど……。」
視線を逸らす。
「破滅の匂いが、いつもと違うの。」
「……どういう意味だ?」
「わからない。」
小さく首を振る。
「でも……行かない方がいい気がする。」
スマホの画面が、まだ光っていた。
紅希からのメッセージ。
――『待ってる』
……ほんの少しだけ、迷った。
「……まあ、大丈夫だろ。」
そう言って、俺は立ち上がった。
その判断が、後でどうなるかも知らずに。
ピンポーン。
インターホンを鳴らした。
「はーい。」
「水沢です。」
「どうぞ。あがってー。」
「一人暮らしだから狭いけどな。」
「おじゃまします。」
「つまみと酒、買ってきた。」
「ありがとう。」
「一応俺も用意した。」
「宅飲みだな。」
少しだけ嬉しそうに続ける。
「友達と宅飲み、やってみたかったんだ。」
「したことないの?」
「ああ。」
「だって、いつも女といたから。」
「……。」
「モテるのな。」
「まあ。そこそこは。」
「でも、青斗もモテるだろ?」
「顔は整ってるじゃん。」
「いや、別に……。」
「俺ってさ……顔がいいだろう?」
「自慢かよ。」
「いや、そうじゃなくて。」
少しだけ間。
「イケメンだし、結構明るいから、女は寄ってくるっていうか。」
「仕事もそれなりにできるしな。」
「会社では大人しくしてるけど。」
「自慢だな。」
「いや、自慢じゃなくて……。」
言い淀んでから、続ける。
「だから……男に煙たがられて、友達がいないんだ。」
「女が周りにいすぎて。」
「……。」
「……面倒なやつだな。」
「……でも、それでいいんじゃないか。」
「小さいときから、女の子が周りにいるのが普通で。」
「気づいたら、男友達があまりいなかったっていうか。」
「なかなかやるな。」
「だから、正直――」
「男友達ができるって、嬉しかったんだ。」
少しだけ間。
「まあ、俺も男友達は少ないんだ。」
「女が周りにいるわけじゃないけど。」
「仕事するようになったら、自然に切れていった。」
小さく笑って、続ける。
「だから、正直嬉しいよ。」
「初めてかもな、こういうの。」
紅希は少しだけ笑った。
「で、女関係がこれ……。」
「え?いすぎじゃないか?」
少しだけ間。
「そうなのか?」
「でも、全盛期よりは減ったかな。」
「学生の時は、もっと遊んでたし。」
「基準おかしいだろ……。」
「普通は一人に絞るんだが……。」
「そうなのか……。」
少しだけ間。
「一人に絞りたいって思える子が、いないのかもしれない。」
「でも、青斗って変わってるな。」
「いや、お前がズレてるんだろう。」
「っていうか――」
「青斗の買ってきてくれた酒、俺が選んだのと一緒だ。」
「まさか、同じの飲んでるとはな。」
そう言って笑った。
「つまみも、俺が選ぶのと似てる。」
紅希が言った。
「結構、俺ら気が合うのかもしれないな。」
俺が言った。
「……かもな。」
「なあ、これからも時々飲もうよ。」
少しだけ間。
「俺さ……一人だけに絞るって、なんか難しくて。」
「皆、いいところがあるからさ。」
「まあ、それはわかる。」
「……簡単じゃないよな。」
「この中で、どの子か選べって言われても困るんだ。」
「でも、正直――」
「この子にしたいって思えないのも、あるんだよ。」
少しだけ間。
「それは、そこまでじゃないのかもしれない。」
「でも……やめられないんだ。」
「それは、俗にいう――」
「本当に好きじゃないのかもしれない。」
紅希は、少しだけ困ったように笑った。
「俺の中では、本当に好きなんだけどさ。」
……それでも、選ばないといけないときが来る。
「たださ……少しだけだよ。」
少しだけ間。
「全部切ってもいいのか?って、思ったりするときがある。」
「もし、その決断をしたときも――」
「一緒に飲んでよ。」
「それくらいはいいぞ。」
少しだけ笑って、続ける。
「決断しなくても、一緒に飲むよ。」
「普段でもさ。」
「セラちゃんさ……多分、困ってるんだろう?」
紅希は、何気なく言った。
――優しいやつだな、と思った。
2章始まりました。
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