第8話 終わっていなかった
俺達は家に帰った。
「セラさん。破滅ポイントの話は、規定上できないんだよね。」
「うん。ごめんなさい。」
少しだけ間。
「青斗、あなた人がよすぎるわ。」
「だから……。」
言いかけて、やめた。
「……何でもない。」
「また、あなたを困らせる。」
セラが小さく呟く。
「私は、いつも困らせてばかりね。」
「まあな。」
少しだけ間。
「でも、数日しか一緒にいない悪魔に、どうしてこんなことをしてくれるの?」
「まあ……放っておけないだろう。」
「訳ありなんだろう?」
「何となくだけど、自分のためにしてる感じがしないんだよな。」
「それに、俺がセラさんを見えるのも、何かあるんだろうし。」
少しだけ間。
「何ていうか……。」
「ある意味、良かったんだよ。」
「出会って。」
さらに、続ける。
「それに……あれも切れたのは、良かったみたいだし。」
小さく笑う。
「あとは、友達できたしな。」
「……本当に、変な人ね。」
「紅希ってさ……本来なら出会わないやつだし。」
「それに、俺も社会人になってから、友達いなくなって。」
少しだけ間。
「嫌なやつじゃなさそうだし……ありじゃないか?」
「セラさんやラエルさんにも会えたのは、普通じゃ無理だしな。」
少しだけ考えて、続ける。
「俺も、切れそうな人間関係とか、考えてみるよ。」
「……無理しなくていいわよ。」
「さすがに……体調不良は困るな。」
少しだけ間。
「仕事も、今なくすと……住むところが困るし……。」
……そんな簡単な話じゃないか。
「……そうね。」
「あと、何人くらいだ……?」
「人間関係だったら……。」
……数えるものじゃないのに。
「やめなさい。」
「もし……破滅ポイントから解放されたら、お前はどうなるんだ?」
「なんて言えばいいかわからない……。」
少しだけ間。
「本当に抜け出せるのか、抜け出せないのかもわからないわ。」
「それに……破滅ポイントって、本当に何なのかしらね。」
小さく息をつく。
「私も、何でこれにつかまったのか、わからないの。」
それでも、セラは続けた。
「でも――正直、後悔してないの。」
「私の場合、願いを叶えてもらったのよ。」
少しだけ視線を逸らす。
「だから、必要だったの。」
「その分は……大丈夫だと思う。」
「願いの内容は言えないわ。」
小さく、首を振る。
「……もう、忘れてしまったから。」
「そして――」
「私は、代償が必要だったの。」
「その対価との引き換えが……今なのよ。」
……それでも、助けたいと思った。
「本当は、その忘れたことも思い出したいんだけど……それは無理だから。」
少しだけ間。
「願いのことは言っても大丈夫なんだけど、ほとんどわからないのよ。」
小さく考えるように、続ける。
「多分、私ね。」
「好きな人がいて……その人を助けたかっただけなの。」
「その人は、もう亡くなってるし。」
「どんな人だったかも、わからない。」
「前世だからね。」
少しだけ、遠くを見るようにして。
「今、転生して……幸せに暮らしてるといいんだけど。」
「それはそうだな。」
少しだけ間。
「でも、その人は望んでなかったんじゃないか?」
セラは少しだけ考えてから、言った。
「……そうかもしれない。」
ほんの少しだけ、笑う。
「でも、そのときの私には……それしかできなかったの。」
「……そうか。」
「今回、青斗が破滅を選んでくれたでしょう。」
「だから、私……少しは楽になったの。」
「ありがとう。」
「まあ、少しでも楽になったなら良かったよ。」
少しだけ間。
「解放されたら、本当にどうなるのかしら。」
「でも、私は……戻れるのかも、それもわからないのよ。」
小さく息をつく。
「正直、中途半端だから……わからないっていうのもあるの。」
「友達も、いないしね。」
少しだけ視線を逸らして。
「きっと、ラエルの方が知ってるわ。」
「ねえ、私……本当に迷惑かけるけど、一緒に住んでいいの?」
「別に……ここにいればいい。」
「それに‥‥‥住んでるだろう。」
少しだけ間。
「あなたに迷惑かけるつもりは、全くなかったの。」
「でも、ラエルの言う通り……影響が出てしまった。」
小さく視線を落とす。
「ただ、最初は寝る場所があればいいな、くらいにしか思ってなかったし。」
「そんなに深くは考えてなかったわ。」
「いつもは、見えないし。」
少しだけ間。
「それに……数回破滅させて、ある程度で終わってたの。」
「でも、あなたは違う。」
「破滅対象じゃないし……見えてしまう。」
ほんの少しだけ、困ったように笑う。
「だから、いつもと違ったみたい。」
「まあ……気にするな。」
少しだけ間。
「これからは、ちゃんと同居ってことで。」
さらに続ける。
「セラって呼ぶから。」
「……ありがとう。」
「でもさ……そのうち、セラはいなくなるんだよな。」
少しだけ間。
「しばらくはいるわ。」
「破滅ポイントが、たまらないもの。」
「悪魔って、ずっとこっちにいてもいいのか?」
「別に期限はないけど。」
「仕事もあるし……色々あるのよ。」
「……そっか。」
「短いな。」
「ずっといてほしいの?迷惑でしょう?」
「まあな。」
少しだけ間。
「でも、別に嫌じゃないし。」
セラが少しだけ笑う。
「あなた、モテないものね。」
「紅希じゃないし。」
「放っとけ。」
その時、スマホが震えた。
……タイミングが良すぎる。
画面を見る。
紅希からだ。
何かが、動き出していた。
……終わっていなかった。
――第1章 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
第1章は、これで一区切りとなります。
紅希の「選べない」という問題。
セラの「やめられない」という事情。
そして青斗の「放っておけない」という選択。
それぞれが少しだけ動きましたが――
何も終わっていません。
むしろ、ここからが本番なのかもしれません。
破滅ポイントとは何なのか。
セラは本当に解放されるのか。
そして、選ぶということは、何を意味するのか。
まだ見えていないものが、たくさんあります。
それでも。
今回の話で、少しでもこの三人の関係や、空気を感じてもらえていたら嬉しいです。
第2章では、もう少し踏み込んだ部分や、
「本当の破滅」に近づいていく予定です。
もしよろしければ、引き続き見守っていただけたら嬉しいです。
ここまで、本当にありがとうございました。




