第19話 帰る場所
「あれ?」
セラが少し首を傾げた。
「ラエル、私……どこに帰ったらいいんだっけ?」
ラエルが目を瞬かせた。
「え?」
一瞬、表情が止まる。
「……大丈夫?」
「帰る場所よ。青斗のところ」
セラは少し考えて、それから小さく頷いた。
「あ……そうだった」
ラエルは静かに息を吐いた。
「送って行ってあげるわ」
「え?」
「これからは私に言いなさい」
少しだけ笑う。
「迷子になるかもしれないから」
セラは素直に頷いた。
「うん、わかった」
ラエルはその返事を聞いて、少しだけ視線を逸らした。
……かなり進んでる。
思っていたより、ずっと。
「ラエル、私ね……」
少し歩いてから、セラが言った。
「何を考えてたかわからなくなる時があるのよ」
ラエルは黙って聞いていた。
「さっきまで考えてたはずなのに、気付いたらなくなってるの」
「何を思ってたのか、何をしようとしてたのか」
「思い出せないの」
少し笑う。
「変よね」
「前はこんなことなかったのに」
ラエルは答えなかった。
ただ、少しだけ歩く速度を落とした。
「私、もしかして消えるのかしら」
ラエルが少し目を見開いた。
「あのね……セラ」
「そんな物騒なこと言わないで」
セラは首を傾げた。
「……心配しすぎよ」
「そうね」
ラエルは少し考えてから言った。
「あなたとは仲良しでしょ?」
「いつも私のこと、気に入らない天使だって言ってたじゃない」
セラは少し考える。
「……そうだったわ」
少しだけ笑った。
「私、あなたのことも忘れてるんじゃないわよね」
ラエルは返事を少し止めた。
「……そういうわけでもないと思うけど」
セラは小さく頷いた。
それなら大丈夫なのかもしれない。
そう思った。
でも、ラエルは少しだけ視線を落としていた。
その頃。
青斗は仕事をしながら、今日の夕ご飯のことを考えていた。
今日は唐揚げにするか。
セラ、好きだったよな。
帰ったら少し元気になるかもしれない。
スマホを見る。
連絡はない。
大丈夫だろうか。
いや、考えすぎか。
青斗は小さく息を吐いた。
何もないといいけどな。
ただ、いつも通り帰ってきてくれれば、それでいい。
会社の帰りに、青斗は唐揚げ用の肉や足りない材料を買った。
袋を持ちながら歩く。
待ってるだろうな。
帰ったら、きっとお腹すいたって言う。
適当なことを言って。
文句を言いながら食べて。
食べ終わったら、そのままだらだらする。
いつも通りだ。
少しだけ笑った。
今度の休みは、どこか連れていくか。
赤石も飲むぞって言ってたな。
あいつ、しょっちゅうメッセージ送ってくるし。
本当に友達いなくて、しょうがないやつだ。
……まあ、俺もだけど。
そんなことを考えていると、スマホが鳴った。
赤石だった。
「あれ、どうした?」
「いや、ラエルがさ……セラちゃんのこと心配してたぞ」
青斗は少し歩く速度を落とした。
「大丈夫か?」
「でも、そろそろ破滅ポイント貯まるんだろ?」
「うまくいくといいな」
「ああ」
少し沈黙があった。
「……でもさ」
「心配って?」
「物忘れ、ひどいって言ってたぞ」
青斗は少し黙った。
朝。
少し変だったかもしれない。
「だから、気を付けて見てた方がいいかも」
「それだけ」
「……わかった」
「ありがとう」
「おう」
通話が切れた。
青斗はスマホをしまった。
袋の中を見る。
唐揚げの材料。
……大丈夫だろ。
そう思った。
そう思いたかった。
とにかく早く帰ろう。
足が少しだけ速くなる。
……セラ、大丈夫なんだよな。
いきなりいなくなったりとか、なしだぞ。
何考えてるんだ。
大げさだろ。
でも。
何を忘れてるんだよ。
嫌な予感がした。
……俺のことじゃないよな。
いや、大丈夫だ。
ちゃんと話してる。
普通に笑ってる。
青斗って名前だって呼んでる。
別に、それほど変わってない。
……変わってない、はずだ。
そう思いながら、青斗は家へ向かった。
今回は、少し静かな回でした。
セラ側では少しずつ何かが抜けていき、青斗側では何も変わらない日常が続いています。
唐揚げを考えたり、休みの予定を考えたり。
そんな普通の時間が続いてほしいと思っている人と、少しずつ帰る場所が曖昧になっていく人。
そんな対比を書いてみました。
破滅ポイントも終盤に近付いてきています。
最後まで見届けてもらえたら嬉しいです。
いつも読んでくださってありがとうございます。




