第17話 温度だけは残っていた
私は、破滅ポイントを貯めるために、何人もの縁を切った。
青斗がいない時に。
その人たちは、何かを失った。
でも、ある意味では、それを失うことで本来の場所へ戻っていく。
そこから先、どう選択するかは本人次第だ。
良い方向へ進むかもしれない。
切られたことで、自滅するかもしれない。
でも、それは大きな矛盾を切っているだけなのだと思う。
破滅ポイントの仕事をするようになって、そんなことが少しだけわかってきた。
たまにリュウに会った。
リュウも、何のために破滅ポイントを貯めているのかわからなくなっているみたいだった。
……私もだけど。
会社関係を切れない人。
恋愛関係を切れない人。
一つのものばかり食べないと落ち着かない人。
そういう執着を切ることも、悪魔の仕事だった。
悪魔というと、人を堕とすことばかり考えているように思われがちだけど、実際は少し違う。
ただ、それが良いことなのかはわからない。
まあ……悪魔のすることだし。
青斗がいると、やりにくい時がある。
「危ないから俺も行く」
そう言ってくれるけど、見せられないものもあった。
人間は複雑だから。
リュウも私も、大切なものを少しずつ忘れながら、これを続けている。
本当に、破滅ポイントを貯めることが正しいのかはわからない。
でも、ラエルは言っていた。
早くしないと、祝福がなくなると。
だけど――切れば切るほど、私は青斗がわからなくなっていく。
何でなの。
青斗は、私にとって何だったのだろう。
最後に全部切った時、私は青斗のことを覚えていられるのだろうか。
あの家へ戻れるのだろうか。
もう……青斗の輪郭が、少しずつわからなくなってきている。
それでも、やる意味があるのだろうか。
帰宅して、青斗の顔を見ると少しだけ思い出す。
でも、この人は何で私と一緒にいるのだろうと思ってしまう。
それなのに、そのことを青斗には言えなかった。
青斗の悲しむ顔を見たくなかったから。
きっと、大切な人だったのね。
私は、破滅ポイントで何を願ったのだろう。
多分……青斗のことだったのだろうけど。
わからないな。
もう、全然。
「セラ、お前さ……だんだん変じゃないか?」
青斗が、こちらを覗き込んだ。
「前は清楚系よとか言ってたくせに、最近はあんまり言わないしさ」
「それになんか……俺のこと、ちゃんとわかるのか?」
「わかるに決まってるでしょ」
「……そっか」
青斗は少し笑った。
「それならいいんだ」
そして、少しだけ目を伏せる。
「いや、俺のこともわからなくなるのかなって思ってさ。破滅ポイントって厄介だな」
「忘れるなよ。俺のこと」
「まあ……もし忘れて、全部なくなったとしても、俺のところにいればいいから」
「それで、また始めたらいいだけだし」
「どうせ、行くところないんだろ?」
少しだけ笑った後、青斗はぽつりと言った。
「たださ……破滅ポイントが集まったら、消えてなくなるとかないよな」
「それは……ちょっと痛いなって思う」
「まあ、少ししか一緒にいないけど、結構楽しいしな」
「わからないけど、消えないんじゃない?」
「私も、どうなるかはわからないわ」
「早く祝福を貰わないとね」
「そうしたら……何か良いことがあるんでしょ?」
「きっと……私にとって大切なことなのよ」
でも。
「何で青斗は……いえ、何でもない」
「何だよ」
「何で私のことを見えるのかしらね」
「さあな」
青斗は肩をすくめた。
「破滅ポイントの関係なのかもな」
時々、セラが本当にどこかへ行ってしまうんじゃないかと思う。
わかってる。
悪魔だし。
そんなにいていい存在じゃないことくらい。
でも……失いたくないと思ってしまう。
少し一緒にいたからとか、そういう話じゃない。
どこかで、温度を感じてしまう。
何もないはずなのに。
量子が笑っているのか?
……そんなわけない。
この温度は、もっと奥底にある繋がりだ。
何ていうか――リトマス試験紙みたいなものなのかもしれない。
反応する時もある。
反応しない時もある。
青から赤へ変わる。
赤から青へ変わる。
あるいは、何も変わらない。
陰と陽。
破滅ポイントって、ある意味そういうことなのかもしれない。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
今回は、破滅ポイントと「繋がり」の話でした。
セラは少しずつ色々なものを忘れていっています。
でも、全部が消えるわけではなくて、どこかに温度だけが残っている。
青斗も、理由はわからないのに、その温度を感じ取っている。
そんな回でした。
リトマス試験紙とか陰と陽とか、また妙なことを言い出しましたが、許してください。
次回もよろしくお願いします。




