外伝5話 最初からそこにいたみたいに
夜になって、セラと二人で話していた。
「……なあ。何で、俺の家族はお前が見えるんだ?」
率直に聞く。
セラは少しだけ視線を落とし、考えるように間を置いた。
「私も……わからないわ」
静かにそう言ってから、続ける。
「本当よ。でも……何となく、私、青斗の家族には会いたかったの」
「会いたかった?」
「ええ。だから……まさか、見えるとは思ってなかったけどね」
軽く肩をすくめて、苦笑する。
「私、本来なら……」
言いかけて、ふっと言葉を止めた。
「……やっぱり、まだ言えないわ」
「どうしてだ?」
「言ったら、また破滅ポイントが変わってくるかもしれないから」
申し訳なさそうに、目を伏せる。
「ごめんなさい」
「……いや」
否定しかけて、言葉が詰まる。
何を言えばいいのか、わからなかった。
「でもね」
セラは顔を上げて、柔らかく笑った。
「今日は、本当に嬉しかった」
その言葉は、あまりにも素直で。
一瞬だけ、さっきまでの違和感が遠のく。
「明日も……青斗の家族、見えるのかしら」
「さあな」
正直に答える。
「でも、お前が何かしてるわけじゃないんだろ?」
「当たり前でしょ?」
少しだけ呆れたように笑う。
「私、そこまで強い力はないのよ」
「そうなのか?」
「ええ。破滅ポイントに関する仕事は別だけどね」
「別?」
「切る、っていう感じのやつ」
あっさりと、とんでもないことを言う。
「だから、変に書き換えるとか、そういうのはできないわ」
「……それは、別のやつか?」
「そうね。そういうのは、また違う能力の悪魔とか天使とかじゃない?」
少し曖昧に言って、首をかしげる。
「私も、詳しくは知らないわ」
「……そうなんだな」
短く返す。
会話は、そこで一度途切れた。
静かな夜の空気が、ゆっくりと流れる。
――セラは何もしていない。
少なくとも、本人はそう言っている。
でも。
“会いたかった”とも言った。
家族は、“懐かしい”と言っていた。
それが偶然なのかどうか――
「……なあ」
ぽつりと呟く。
「それって、本当に関係ないのか?」
「え?」
セラが、きょとんとした顔でこちらを見る。
「いや……」
うまく言葉にならない。
ただ。
頭の中で、何かが引っかかっていた。
「……何でもない」
そう言って、視線を逸らす。
セラは少しだけ不思議そうにしたあと――
くすっと、小さく笑った。
「でもね」
「もしこれが偶然じゃなかったら――」
一拍。
「ちょっとだけ、嬉しいかも」
「……」
その言葉に、何も返せなかった。
嬉しい、という感情と。
どこかで引っかかる違和感が。
うまく噛み合わない。
「ねえ、青斗」
「何だよ」
「もし、明日も見えたら――」
セラは、静かに言った。
「それって、偶然じゃないってことよね」
夜の中で、その言葉だけが、やけにくっきりと残った。
***
「セラちゃん、青斗。みんなで豆大福食べない?」
母さんが、楽しそうに呼んだ。
「セラさん、兄ちゃん、早く来てよ。なくなるぞ」
橙也も手を振る。
「今行く」
「行こう、セラ」
声をかけると、セラは小さく頷いた。
――ふと思う。
本当にセラと付き合っていたら。
こんな時間を、当たり前みたいに過ごしていたのかもしれない。
ほんの少しだけ。
この時間が、嬉しいと思った。
皆のところに行くと、テーブルの上には豆大福が並んでいた。
……いや、多すぎるだろ。
軽く数えても、明らかに買いすぎだ。
「母さん、買いすぎじゃないか?」
「だっておいしいじゃない」
悪びれもせずに笑う。
「きっとセラちゃんも好きよ」
「ねえ、セラちゃん。何となくだけど……これ、好きじゃないかしら?」
母さんが一つ取って差し出す。
「あ……」
思わず声が漏れた。
「俺も、そう思った」
「でしょ? きっと好きだって」
母さんは、どこか確信したように頷く。
――なんでだよ。
初めて会ったはずだろ。
そんな確信、どこから来てるんだ。
「っていうかさ」
橙也がにやにやしながら口を挟む。
「本当にセラさんって、兄ちゃんの嫁って感じだよな」
「え?」
思わず間の抜けた声が出た。
「どうせ兄ちゃんのことだから、溺愛してるんだろ?」
からかうように笑う。
「何言ってるんだよ」
思わず顔が熱くなって、視線を逸らした。
溺愛って……。
そんなふうに見えるのか?
付き合ってもいないのに。
……いや。
だからこそ、余計におかしい。
ちらりと、セラを見る。
セラは――
ただ、楽しそうに笑っていた。
まるで、この時間が最初から自分のものだったみたいに。
外伝5話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は、少しだけ穏やかな時間の中に、違和感が混ざる回になりました。
家族と過ごす、どこにでもありそうなひととき。
それなのに、どこか引っかかるものが残る――そんな空気を感じていただけていたら嬉しいです。
セラが「見える理由」は、まだはっきりとは語られていません。
ただ、偶然ではないかもしれない、という気配だけが少しずつ浮かび上がってきています。
やさしさや懐かしさが、必ずしも安心に繋がるとは限らない。
この先、その意味がどう変わっていくのかも含めて、楽しんでいただけたらと思います。
次回も、どうぞよろしくお願いします。




