表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青の年代記〜山奥で仲間とひたすら修行した少年が、いつか英雄になる話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/97

陽暦1490年8月〜アパンへの旅⑥

 一行は翌日、再び乗合い馬車に揺られながら、“文化の道”をひたすら西に進んでいた。


 確かにミレイユが言っていた通り、時折、傭兵団と思しき武装集団とすれ違う。


「ライデル伯の荘園に向かってるのかなぁ」

 リョウが拳を包みながら言う。


「分かんないね。他の貴族も戦力を増強しているだろうし。一気にきな臭くなっちゃったね」


「お主ら、大変な時期に騎士になったのぅ。ワハハ。楽しそうじゃ」

 セキサイは全くの本心からそう言っている。



「ここからアパンじゃ」

 乗客名簿と車内を確認され、国境の門をくぐる。


 夕暮れ、しばらく進むと、稲作地帯が広がる風景が目に入ってきた。

 稲穂が小さな白い花を咲かせている。


 農家たちが仕事をやめ、それぞれが長い影を作りながら家路についていく。

 

 見える家々は、屋根が稲藁で覆われており、高山地帯で暮らしてきたリョウたちにとっては見慣れないエキゾチックな景色だ。

 

 だが、リョウはなぜかとても懐かしい気持ちになる。

「ジイちゃん、オレ、この風景……」


「見覚えでもあるか」


「うん。田んぼや家、ひどく懐かしく感じる」

 なんとなく泣きそうな表情のリョウ。

 夕焼けに染まる田んぼや用水路の風景に鼻の奥がツンとする。


「……そうか。セイの家はここからさらに半刻ほど行った“ヒィゴ”の城下町にある」

 セキサイも久しぶりの妻「マキエ」の実家訪問に緊張した面持ちだ。



 乗合馬車がヒィゴの街中に到着したとき、すでに街に灯りが点り始めていた。

 この辺りに来ると人々はほとんどアパン風の着物を着ており、一行は一気に外国に来たという自覚が生まれている。

 

「大きな建物!」

 馬車から降りたヤナが目を輝かせる。


「あそこからあそこまで、クシマ藩の藩主ゴドウ家の城、ゴドウ城じゃ。難攻不落の要塞よ」

 セキサイが指で敷地の広さを説明する。


「敵の侵入や城壁の登攀を防ぐ仕掛けがたくさんあるそうですね」

 ジンは本で読んだ知識があった。


「そうじゃ。かつて招かれて入ったことがあるが、覚えにくい道順を通らされたわい」


 

 一行は街並みを見物しながら、こじんまりした温泉のある宿に着く。

 宿場町を兼ねているので至る所に宿がある。

 もともと夜に着くのでセイの家は翌日に訪れる予定だった。


 温泉入浴の作法を学び、旅路の埃り落として一行は食事を取る。

 焼き魚がメインで野菜が多い健康的な食事。

 ヤナは特にお気に召した様子だった。



 翌朝、宿を後にして一行は歩いてセイの家に向かった。


 なぜだかセキサイもリョウも昨日から口数が少ない。


「セキサイ先生、セイさんの家ってどんな家なんですか?」

 ジンが歩きながら質問する。


 ジンやヤナはセイの実家が何をしているのか聞いていなかった。


「すぐに着く。見たら分かるわぃ」

 緊張した面持ちのセキサイ。


 だんだんとゴドウ城に近付いていく。

 道沿いに大きな屋敷が増えていく。


「あれじゃ」

 セキサイが示したのは、城に程近いところにある一軒の敷地の大きな屋敷。

 敷地全体を高い塀で囲われている。


「うっそ……すっごい大きな家……」

 ヤナが目を見開いている。


 近付いていくと、中から気合いの入った掛け声や、木材がぶつかる聞き馴染んだ音が聞こえてくる。

 大きな観音開きの立派な門に、アパン文字で大きな看板が掛かっている。


「えっと……、さぎもり?であってるかな。もしかして、あの鷺森家?ゴドウ家を昔から守護してきたという……」

 ジンが呟く。


「そうじゃ。看板の文字には、“鷺森流槍術”と書いてある。ここは、代々、藩士に槍を教える武の名門よ」

 そういうと、セキサイは重そうな分厚い木の門扉を押し開けた。


 中に入ると、そこには稽古着姿の老若男女、10人ほどが槍を持って汗を流していた。

 セキサイたち一行を見て、皆の手が止まる。


「こんにちは!皆さん。すまぬな。師範代はおるかね?」

 セキサイが落ち着いた通る声で、アパン語で呼びかけた。


 その言葉に、一際体格の良い30代の男の門弟が近寄って来た。

「こんにちは。私はタチバナと申す者。どういったご用件でおいでか伺っても?」


 異国の客人かと思い、一行を遠慮なく見回しているようだ。

 落ち着いているが油断のない眼差し。

 リョウの目から見てもなかなかの使い手に見える。

 

「セキサイが来たと言ってくれたら分かりまする」


「はぁ……分かりました。しばしお待ちを」

 セキサイの名を聞いて聞き覚えでもあるのか、タチバナは何か考えている風で屋敷の奥に歩いていった。


 しばらくして、タチバナは少し動揺した様子で走って戻って来た。

「師範代が、奥に出迎えになられます。こちらへどうぞ!」

 態度が少し改まって、緊張している様子だ。


「ご面倒をかけます」

 リョウたちは、屋敷の広さや物珍しさに驚き、きょろきょろしながら着いていく。


「あちらです。私はここで……」

 タチバナは案内をやめ、引き返した。



 少し進むと、広めの土の庭があり、アパン風の服を着た中年の上品な女性が一人、立っていた。


「……セイ」


 女性は真っ直ぐセキサイを見つめている。


「……」

 セイは何か言おうとしている。


 セキサイがセイに近づく。

 リョウたちは、動かずにいる。


「……久しぶりじゃな」


 沈黙が流れる。


「……もう会えないかと思っておりました。父上」

 セイは、そう言うと、目を伏せた。




 

 

 

 

 


 

 


 




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ