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青の年代記〜山奥で仲間とひたすら修行した少年が、いつか英雄になる話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

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陽暦1490年8月〜アパンへの旅⑤

 カワグチはその提案に一瞬不意を突かれた。

 

 このカードは認識阻害の魔法がかかっている魔道具。

 天井に潜んでいる魔術師が、カワグチがジェスチャーで示したカードを券面に浮かび上がらせている。

 それは、見ている者の脳を直接騙す事ができ、一度に多人数にも及ぶ。

 これまでこの魔道具によるイカサマは一度も見破られたことは無い。


「最後も10口、全部乗せの大勝負です!」

 ジンが気合を込めて宣言し、チップを全てテーブルに置いた。


「アンタなんでちょっとも残さないの!大金なのよ!」

 思わずジンの頭を掴んで揺さぶるヤナ。

 

「……何を考えておられるのか分かりませんが、良いですよ?」

 そう言ってカワグチはカードを表にした。


 ダイヤのクイーン。絵札だ。


 ほくそ笑むカワグチ。

 スロットの大当たりには肝が冷えたが、所詮は熱くなるガキに過ぎなかったか、と評価を改める。

 

 これで次のカードの券面をハートのエースにでも換えて、ブラックジャックを成立させてゲーム終了といこうじゃないか。


 ジンがカードをオープンすると、それはクローバーの9だった。


 カワグチの口角が意図せず上がる。

 もはや勝利は確定同然。


「サレンダーしないんですか?」

 気遣うフリのカワグチ。


「いえ。確率的にはまだ勝てると思いますので」

 ジンは苦々しげに、呟くように声を出した。


 ヤナは、そんなジンの言葉とは裏腹に、立ち昇るシマーを見て“本調子が戻ってきたわね”と思っていた。


「さて、さて、では、私のカードを引きますよ」


 カワグチがジンの表情を見て、満面の笑みで山札から一枚引いて手元に持ってくる。

 

「はい、そこでストップ!」

 ジンがいきなり大声でカワグチの行動を遮る。

 黒服たち含め、その場の視線が一斉にジンへ集まる。


「は!?」

 機先を制され、動きが止まってしまったカワグチ。


 いきなり何を言い出すんだこのガキは!


 しかし、気を取り直して、潜んでいる魔術師に取り決めていたサインを出す。


「そんなこと言ってもめくりますよ!ほら、ハートのエース!ブラックジャックです!」

 少し焦りつつ、皆にカードを開示して見せつけるカワグチ。


 めくったカードの券面は、確かにハートのエース……に見える。

 だが、ジンの目だけは、まるで別のものを見ているようだった。



「いえ、それは、ハートのエースではありません」

 しかし、ジンは自信満々に立ち上がり、声を張った。


 近くにいる10人程の黒服たちが色めき立つ。

「負けてるからって何を言ってやがるこの野郎!」

「どう見てもハートのエースだろうが!」

「賭場荒らしか!」


「みんな、冷静に。そして、少しの間動かないで。彼女の動きをよーく見てください」

 ジンは皆を見回して、冷静なトーンで告げた。


 ヤナに手で合図を出し、指名する。


「え、アタシ?」


「これまでの捨て牌を並べて」

 ジンの指示に、何が始まるんだと呆気に取られる黒服ら。


「何をやっているんです!おやめなさい!」

 一人だけ焦り始めるカワグチ。

 前に出てヤナを妨害しようとするが、目の前にいきなり現れたセキサイがそれを阻み、カワグチの肩を押さえながら膝裏を手で曲げてソファに座らせる。


「う、動けん!?」


「おとなしく見とけぃ」

 顔を近づけ、いきなり眼力全開でカワグチを睨みつけるセキサイ。

 野生の熊をも震え上がらせるセキサイの眼力に硬直するカワグチ。


「こう?」

 ヤナが指示通りこれまでの捨て牌を並べる。

 ジンが頷く。


「次に山札をオープンにして並べて」


「お!グガガガ……」

 カワグチが何か言おうとしたがセキサイが頬を親指と人差し指で挟み込んで黙らせる。

 黒服たちはどうしたら良いのかわからず混乱している。


「こうかな」

 ヤナはテーブルの上に、山札を崩してカードを並べた。


「さて、御一同。さっき出たのはハートのエースでしたね。おや、この山札の中にもそれがありますね?……あれあれ?さっき出たカード?よく見てくださいよ」

 大袈裟にジンが芝居がかってそう言うと、さっきカワグチが引いたハートのエースが、券面がブレ始め、モヤモヤっとしながら”ダイヤの5“に変わっていく。

 目をこする黒服もいる。


「あれ?これ、ボクが前負けたダイヤの5じゃ無いですか……おや?捨て牌に無い?」

 わざわざカードを指差して皆に示す。

 

 ジンは上目遣いにニヤつきながら、カワグチを下から見上げて言う。


「いろいろ変ですね?説明してくださいよ。このカードから魔力を感じる理由と併せて」


 カワグチはジンを睨みつけたまま黙って歯噛みしている。


 その表情を見て、やっとジンの溜飲が下がった。

 ついでに言ってやる。

「山札のカードを把握せず、行き当たりばったりに魔道具に頼るから、こんな簡単にバレるんですよ?」



「い、言いがかりだ!構わん!こいつら、たたんじまえ!」

 カワグチはジンの質問を完全に無視。

 セキサイに動きを制されながらも大声で叫ぶ。


「説明はなしかー。残念」

 ジンは肩をすくめた。


 ドアの外から、黒服たちがVIPルームにドヤドヤッと入ってきた。

 元々いた黒服たちと併せて合計20人くらいの大乱闘となってしまった。


「切り替えの早さは流石じゃのぅ」

 セキサイはニヤリとしつつ、カワグチの頸動脈を二本指で締めて気絶させた。


「さて、こうなってはプランAじゃ!」

 殺到してくる黒服たちに気絶しているカワグチを丸太ん棒のように投げつけて3人まとめて薙ぎ倒すセキサイ。

 とてもイキイキとして見える。


「元々暴れる予定だったの!?」


 ヤナもいやらしい手つきで掴みかかってくる黒服たちをすれ違いざまに関節を極めてみるみる地面に這わせていく。


 ジンはその間、何食わぬ顔でソファに腰掛け、飛んでくる物を避けつつ、出されていたジュースを飲む。

「……疲れたぁ」

 


 それにしても人数が多い。


 突然、天井の板が外れて、そこからローブの男が顔を出した。

 こそこそと杖をセキサイに向けて何か唱え始める。


「先生!魔法が来ます!精神に影響を与える魔法!」

 ジンが警告する。


 その瞬間、杖が黒く光り、黒いモヤがセキサイに向けて噴出した。


 セキサイは、今日一番凶悪な笑みを浮かべた。

 どす赤黒いシマーが立ち昇り、全身を覆う。


「ふんぬぁ!」

 踏ん張る形で裂帛の気合を放つセキサイ。


 黒いモヤはセキサイに届く前、気合と共に放たれた分厚いシマーに阻まれて、掻き消されてしまった。


「えぇ……」

 これにはヤナも絶句するしかない。


 音もなくソファを踏み切ったリョウの姿が一瞬で消えた。

 と思いきや、轟音と共に天井の板をぶち抜いて魔法使いを蹴り飛ばしていた。


「ぐへぇ!」

 その悲鳴の後、天井から魔術師の気配が消える。


 着地後、リョウはそのままVIPルームの窓を蹴り破って窓枠ごと破壊した。

 わざと物音を立てている。



「入口から別の奴らが押し込んできた!」

 外から切迫した雰囲気の男の声が聞こえてきた。


 外で待機していたバルクたちが呼応してくれたようだ。


「さて、久しぶりに暴れてスカッとしたわぃ。退くぞ」

 セキサイの指示で一行は、いまだに追いすがってくる黒服たちを跳ね除けながら建物の外に出ていく。


 外は4メートル程の高い壁で阻まれているが、一行はそれぞれ壁と庭木の間を交互に蹴り上がって越えていく。

 黒服たちはなす術なく、ただ手をこまねいてそれを見ていた。



「大金持ちになりそびれたぁ」

 魔道灯で煌々としている大通りを小走りに、ジンが嘆く。


「何言ってんの。悪銭身に付かずよ!」

 ヤナがベーっと舌を出す。


「ま、良いか。ミレイユさんのところに戻ろう。報酬があるよ」

 ジンが穏やかに言う。


「それは労働の対価として貰っときましょう」

 ヤナは頷きながら口角が上がる。

 そのときセキサイが口を開いた。

「みな、ちょっと聞いてくれ。その件じゃが……」

 


 ホテル“デザート・ローズ”のカジノオーナー室で、一行は今日の顛末を洗いざらいミレイユに説明した。


 目を丸くし、笑い出すミレイユ。


「……あー、相手が気の毒になるわね。しかし、“カワグチ”かぁ。アパンのヤクザの名前でしょうね……。ヤーマスが混乱してるから変なのが入ってきたようだわ……。分かりました。潜入ご苦労様でした。情報の報酬は色をつけて金貨25枚でどう?」


「その件じゃが、ミレイユさん。アンタ、良かったら、いつかテオ村に、サイラーに会いに行かんか」

 セキサイが前に出る。


「えっ……」


「今回の報酬はその旅行費用にでもしてくれ」


「ええっ……」


「さっき皆で話合うたんじゃ。積もる話も有ろう。ワシらもサイラーに喜んで欲しいしのぅ」


「…………」


「まずは、セキサイという爺ィがそう言っておった、と手紙でも書けば良いのぅ」


「ありがとう……」

 また目の端が光るミレイユ。


「あなたたちと話してると心が勝手に解けてきて、調子狂っちゃうわね……。帰りにはこのホテルに立ち寄ってください。お代はいらないから泊まっていって」


 その言葉にヤナの顔が綻ぶ。


「ありがとう。そうそう、ワシは良いが、この3人のことはジェイナス王子にはぼかして報告してくれるとありがたい。余計なしがらみは作りたくないんじゃ……」


「分かります。立場もおありでしょうからね」


「おや」


「みんな名前全然言わないし。動きの端々からバルクが“多分王都の騎士だ”って」


「そこはなんとも黙っておくかのう」

 2人の会話を聞きながらバツの悪そうな顔をするジン。


「誰にも言わないわ。そうそう、ここ最近、この“文化の道”をヤーマスに向けて移動する外国の傭兵たちが増えているわ。何かあっているのかしら?」


「ほぅ、それは気になる話よの。嵐の匂いがするわぃ」

 





 


 

 

 

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