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青の年代記〜山奥で仲間とひたすら修行した少年が、いつか英雄になる話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

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陽暦1490年8月〜アパンへの旅④

「行っとこうぜ、今日は運がいい日だぞ!」

 横からリョウが現れ、ジンを煽る。

 が、これはもちろん、フリだ。


「VIPルームだってー!行ってみたい!」

 ヤナも横から出てきて同調する。

 はしゃぐ美少女の登場に周りの黒服たちの雰囲気が和らぐ。


「何事も経験じゃぞ」

 セキサイが迫力を消して普通の老人のように立っている。


「……じゃあ、行ってみようかな。連れも一緒にいいですか?」

 躊躇したフリのジン。

 

「もちろん!皆様ご一緒にこちらへどうぞ」

 派手な黄色スーツの男は一行を奥の部屋に案内する。

 後方から黒服の集団がついてくる。

 逃がさないような圧力を感じる。


「私はここの支配人、カワグチと申します。豪運の持ち主の方を特別にご案内して、更に楽しんでいただく、そのためのVIPルームでございます」

 歩きながらカワグチは声をかけてきた。


「いきなり集団で脅して勝ったお金を取り上げたりしませんよね?」

 ジンは緊張したフリをしながら探りを入れてみる。


「まさか!そのようなことは致しません!あくまで勝負は時の運、それに一部知恵と勇気、でございますゆえ。勝者は讃えられるべき存在。その意識がない賭場はすぐに潰れてしまいます」


「じゃあ、これから勝負で取り返そうって感じですね?」


「フフフ、増えるかもしれませんよ?ヒリつく勝負、お好きでしょう?」


「そう見えますか?ちょっと心外です」


「最後のレバーをあんなに冷静に引ける人間はそうそういませんので。お若いのに凄まじい精神力で敬服しております」

 カワグチの言葉に無表情に戻るジン。

 最後まで素人の演技を続けるべきだった、と少し反省する。



「こちらです」

 通されたのは、一際豪勢なテーブルとソファの明るい部屋だった。

 一行はドリンクの注文を聞かれた。

 無料だというので遠慮なく果汁などをオーダーした。

 目の前で果汁を絞る演出に心躍るヤナ。

 おかしなものを入れたりはしないようだ、と安心する。

  一口舐めて顔がほころぶ。


「さて、ゲームは何を?」

 ジンがカワグチに尋ねる。


「カードで、お好きなものを。長くても興冷め、3番勝負で如何ですか?一口金貨100枚。無理な勝負を申し入れているので、倍率はそちらの有利に設定させて頂きます」


「乗りましょう。ブラックジャックで」



 2人はテーブル越しに向かい合って座る。

 リョウたちは後ろから見ている。


「では、そちらの勝利倍率は2倍で。この新品のカードを使います。捨て牌はそのまま継続でいかがですか?」


「それは面白い」

 ジンは素直に口にした。


 カワグチは箱に入ったカードを取り出して開封した。

 ジンに手に取って確認させる。

 ジンは表、裏からカードを眺め、ヤナに視線を送る。


 ヤナはそのカード全体に少しだけ魔力を感じるが、どこがどうなっているか分からない。

 ソファに手を置いて“なんか……見ようとすると視線が滑る感じ”とだけ小声でジンに耳打ちした。


 ジンは一瞬で判断する。


 “ここですべきことは、イカサマを暴くことじゃないし、金を儲けることでもない。無事にここを出ること”


「そんな破格の条件でいいなら、始めましょう」


「おお……さすがですね。そちらも切ってください」

 カワグチがシャッフルしたカードをジンも切る。


 ジンはカワグチの手元を集中して見続けていた。

 一度見た瞬間を映像として記憶できるジン。

 新品のカードが基本配列から流れていたのを記憶しており、切った場所から裏面の流れを繋げて、どのカードがどの位置にあるかおよそ当たりをつけている。

 自分もカードを切っているが、切っているようで切るフリをしている。

 武術の動きを応用し、手元の動きが早すぎてバレない。


「ここからはシャッフルなしです」


 お互いに一枚ずつ配られる。


「10口勝負。ヒット」

 金貨1000枚の勝負、ヤナは側から見ていて少し気が遠くなる。

 ジンは1枚目絵札。

 2枚目を要求した。

 次のカードは9が来るのは知っている。

 こちらは19で終わり。


 この勝負は捨て勝負だ。

 相手を油断させたい。


 ジンにとって次のゲームが真の勝負。


 「19」言って、一応ドヤ顔を作り手札を開示する。


 相手のカワグチは次のヒットで20だ。


「おや、こちらの運が勝りましたか。20です」


 一瞬で金貨1000枚が消えた。

 一般的な人の生涯年収を超える金額だ。


 商人の親から「金は大事だぞ」と教わって生きてきたヤナの目の前が暗くなる。


「いやはや勝負は時の運ですねぇ」


「本当にそうですね」

 ジンはそう言いながらも、ここは負けるべくして負けた。

 次の勝負には自信があった。



 2番勝負目。


「10口勝負で」


 ヤナが目玉をひん剥いて真横からジンを凝視するが、ジンは無視する。


「おや、相変わらず大きく勝負されますね」

 

 ジンは3枚目まで手札をコールした。

 これで20になるはずだ。


 ジンの予測通り、3枚目が来てやはり20になった。


 カワグチは今、合計3枚引いて16止まり。


 次にカワグチが引くと、ジンの予測では“ハートの8”が出てバストするはず。


「さて、勝負です」

 カワグチはそう言って次のカードを引いた。


 ダイヤの5が出た。


「おおっと21です!」

 芝居がかった様子で、カワグチはカードを開示する。


 ジンは思わず立ち上がってしまった。

 “ダイヤの5“なんかがここで出るはずない、もっと下にあるはず……。


 いや、このカードは本当に“ダイヤの5”なのか……目がボヤける感じがする。


 だが、確かにカワグチの手札の合計は、確かに21。


 ーーーそう見える。


「おや、どうかなさいましたか?」


「いえ……」

 ジンは動揺してしまった。

 記憶違いなど絶対にない自信がある。

 

 カワグチの手元や指元にもおかしな動きはない。


 どうやら、カード面自体に認識阻害の魔法がかかっているとしか思えない。


 これまで使ったカードの捨て牌を見ると、いつの間にか出てきたことのない絵札が1枚混ざっていた。


 ”……うわぁ、気づかなかったなぁ。これは鮮やか。絶対に負けるやつだね……“


 ”でも一泡吹かせたいなぁ……何か突破口は無いかな……”


「運が良いですね?」

 

 ジンは恨み言を言うフリをしながらカード全体と捨て牌をよくよく観察した。

 カードの山にある次のカードの流れを頭の中で再構築する。


 いつの間にか捨て札に混ざっていたスペードの13を、もともとあった山の中のカードと入れ替えてイメージし直す。


 次の勝負、順当にいけば自分が21で勝利するはずだが……。

 

 ーーーこのままだと負ける。


「ほほほ……たまたまでしょう」

 カワグチはニヤニヤしながらジンのチップの山を回収する。



「では、最後の勝負です!」


 カードが一枚ずつ配られた。


 ーーーどうせイカサマやるってんなら、こっちにも考えがある。


 ジンはセキサイ、リョウ、ヤナを見て目配せする。

 声に出さず"すてはい"とごく小さく口を動かす。

 セキサイはニヤリとし、リョウはその顔を見てニヤッとした。

 ヤナだけが露骨に嫌そうな表情をしながらも、テーブルの上の捨て牌に視線を落とした。


 ジンは手札を見て口角が上がり、テーブルに前のめりになって提案する。


「この勝負、カードをオープンにしませんか?」



 



 

 


 


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