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青の年代記〜山奥で仲間とひたすら修行した少年が、いつか英雄になる話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

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陽暦1490年8月〜アパンへの旅③

 そこは、ベガス市の中心部にある没落貴族の旧家を改装した建物だった。

 敷地は完全に高い壁で囲繞されており、出入口は見る限り正面玄関しかない。


「でっか」

 建物を見て素直な感想のリョウ。


 その入り口には金髪の美女が微笑んで立っており、すぐ奥に武装した用心棒が2人潜んでいる。

 一行が目の前で立ち止まると「招待状はお持ちですか?」と聞いてきた。

 ジンがスッと封書を差し出すと、美女は中を確認した。

 その後、チラッと一瞥され、一行は敷地内に進むよう指示される。


 建物まではなかなか距離がある。

 間接照明に照らされた石畳の道を進む。


「怪しまれなかったようだね」


「カモが来たって思われたのよ」

 ジンはヤナのその言葉に笑顔で答える。

 そして一行は邸内に入った。



「いらっしゃいませ」

 落ち着いた執事風の長身の青年が声をかけ、手で奥を案内する。


 中は相当広く、中堅クラスのカジノほどの規模感だ。

 奥には現金とチップを替えるカウンターがあり、お馴染みのルーレットやポーカー、ブラックジャックなどのテーブルが設置してあり、一見してカジノなのは間違いない。


 中には、レバーでリールを回し、高速回転するリールの図柄をボタンを押して揃える機械が10台あり、それぞれ身なりの良い客が一喜一憂しながらレバーをガチャガチャ引いている。


 チップを3枚ずつ入れて回し、図柄が揃ったら吐き出し口から配当のチップが吐き出されてくるタイプの機械だ。


 “7”図柄が一列に揃うと3000枚出てくるらしい。

 最大レートの1チップ金貨1枚の機械だと、今後一生働く必要のない金額が一瞬で手に入ることになる。


「こんなのさっきのカジノには無かったよね?ヤナ、魔力を感じる?」

 ジンは初めて見る機械に興味津々だ。


「感じないわ。ただの機械ね」

 イヤそうに魔力の有無を確認して答える。


「良かった。リョウ、全部同じ機械かな?」

 ジンも脳をフル稼働させ、過集中すればある程度速い速度のものをゆっくり見ることが出来るようになってはきているが、リョウやセキサイのようにはいかず、リール全ての図柄を把握することはできない。


 リョウは集中して全台の図柄を見てみた。


「左から……7、青い玉、BAR、ベル、青い玉、サクランボ、スイカ………」


 しばらく小声でぶつぶつ言っていたが、ジンはそれを全部聞いていた。


「図柄はどの台も同じだね。ボタンを押すタイミングでズレなくちゃんと止まってるかな?」


「押したらすぐ止まるよ」


「なるほど……みんなは離れたところで遊んでて」


 ジンはそう言うと、一番高いレートの機械で遊んでいる金持ち風の太ったヒゲの男の後ろに立ち、目立たないように観察をし始めた。


 金持ち風のその男は、熱くなっているのか、1プレイ金貨3枚のマシンを狂ったように回し続けている。

 1プレイ正騎士1カ月分の給料だ。

 ときおり数十枚の中役の配当が続けざまに出てくるが、時間と共に減って行く。

 その時、男が異様に興奮していた。

 “ベル”、“BAR”と中役が続けざまに出た。


「来た!……来い!」


 次の瞬間、青い玉のリプレイが揃う。


 男は、苦々しい顔で台を叩いてため息を吐き出し、続けてプレイに戻ったが、出玉を全部スッてしまった。

 その後は肩をすくめ、笑顔に戻って連れの女性と共にその場から立ち去った。



 ジンはその一部始終を眺め、記憶していた。

 1リールのコマ数は20。

 子役出目は8回に1回くらい。

 中役出目は80回に1回くらい。

 大役出目は出なかった。だが配列と中役頻度から逆算すると、数千回に一度、おそらく5千前後。


 普通にやるとあっという間に負ける機械だ。

 しかし、ジンがさっき見ていたとき分かったのだが、“7”の図柄が赤文字で目立つし、それが見えたタイミングから逆算してボタンを押すと、ある程度任意の出目に出来るようだ。

 そこで中役を何度か引き続けることが出来れば、大役を引き当てる可能性は上がる。


 そう考えて、レートの低い台で練習してみる。


 思った通り、レバーを引く力にも調整する余地があると分かり、それからボタンを押すリズムも重要だと気付いた。

 その先は、100ゲームほど中役を狙い続けたところ、出玉が減らないレベルで出続けることを確認した。


 すぐさま持ち金の全てを金貨1枚のチップに替えて、高額台に挑む。


「さて……」

 周りを見回してみるが、ジンに注意を払っている者はいなさそうだ。


 レバーを毎回同じ速度、同じ時間で解放する。

 “7”の次の“BAR”のタイミングでボタンを押し、リズム良くボタンを押す。

 狙い通り一発でチェリーが揃い、20枚出てくる。

 

 その出玉で、“7”を揃える練習をする。

 2つのリールまでは“7”が揃うが、3リール目のタイミングが難しく、どうやっても揃わない。

 出玉が減り始めると再び中役を狙い、出玉を回復させる。


 いつの間にか、後ろに見物客がちらほら立つようになった。


 それを5回ほど繰り返すうちに、ジンは違和感を覚えた。

 “7”の3リール目を揃えるには、何らかの条件が有るのではないかと。


 それを意識してから、全神経を集中して、レバーを引いてボタンを押すようになった。

 すると、中役図柄“ベル”の後に“BAR”が来た時、揃った時の機械音がほんの少しだけ、内部でカチリと歯車が噛み合うような、ごく微かな音がした。

  

 後ろにいる見物客の息が少し荒い。

 熱気のこもった視線を背後に感じる。


 “もしかして”


 ジンは次のゲーム、狙いは中役の“チェリー”に絞った。

 これまでチェリーを狙って引けているのは3回に1回程度。


 さすがの冷静沈着なジンも手に汗を握ってレバーを引く。


 ”いけっ!“


 これまでの武術の経験により、身体操作を誤ることはなく、研ぎ澄まされた集中力により、リールの回転速度がいつもよりゆっくりに感じて、思った通りのタイミングでボタンを押せた。

 ”チェリー“が揃った。

 その時、また何か微かな機械音がした気がした。


 背後の見物客がざわつく。


 そしてーージンの一挙手一投足を固唾を飲んで見守っている。


 カジノ側の人間も集まって来た。


 ”間違いない、入った”


 ジンは武術の呼吸で鼓動を落ち着け、心を鎮める。


 “セキサイ先生に怒られそう“


 ジンは落ち着いた気持ちで、レバーを引き、ボタンを3回リズミカルに押した。


 そして ”777”の図柄が揃った。


 機械からファンファーレが鳴り響き、吐き出し口からチップのメダルが出続け、全然止まらない。


 大歓声が巻き起こる。


 いつの間にか周囲の人々が手を止めていた。

 ルーレットもカードも放り出し、誰もが吐き出され続けるメダルを見ている。


 店員が慌てて空箱を大量に重ねて持ってくる。


「すげぇなあんちゃん!」

「初めて見たぜ!」

「大金持ちになった気持ちはどうだ!」


「いや……ははは」

 ジンはそう言われてもあまり喜んでいない自分がいた。



「いやはや、お強いお強い」

 カジノ側の代表者だと思われる派手な黄色いスーツ姿の男がジンに話しかける。

 一見40歳代、アパン訛りの黒髪のにこやかな雰囲気の男。

 取り巻きのガタイのいい黒服の男たちが近づいてくる。


「いや、たまたまです」

 ジンは少しだけ身構える。

 

「そんなことはありません。あなた様は特別な才能のあるお方。どうですか、引き続き当店のVIPルームで遊んで行かれませんか?」





 

 


 


 

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