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青の年代記〜山奥で仲間とひたすら修行した少年が、いつか英雄になる話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

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陽暦1490年8月〜アパンへの旅②

「……なんでしょう?」

 ジンが嫌そうな表情で振り向く。

 リョウたち一行は気づけば互いの死角を補う形に広がっている。

 揉め事の匂いに口元が緩んでいるセキサイとリョウ。

 ヤナが肩をすくめる。


「おっ!オメェら慣れてやがんな」

 5人の荒くれ者どもを右手で制し、値踏みするように一行を眺める男。

 黒いタキシードスーツがはち切れんばかりに盛り上がった筋肉質の巨漢。

 怒鳴ったりする必要なく荒くれ者どもをまとめている。


「俺はバルクってもんだ。なぁに、ウチのボス、つまりはさっきのカジノのオーナーなんだがよう。ちょっとあんちゃんに用件があるみたいだから、ちょっと来てくれないか?」

 有無を言わさぬ雰囲気の物言いに、善良な一般人なら震え上がりそうな圧力がある。


「用件ってなんです?それに行ってボクになんの得があるというんですか?」

 澄ました顔で普通の会話の態度のジン。


「なんだぁ!テメェ?」

 荒くれ者の一人がイキリ立つが、巨漢バルクに目で制される。


 全く物怖じしない一行の雰囲気に、逆に柔らかな表情になるバルク。


「さっきのカウンティングを見逃してやるのと、簡単な仕事で結構な報酬を出すそうだが、話だけでもどうだ?」


「カウンティング?何のことです?」

 さすがにしらばっくれるジン。


「とぼけなくてもいいぜ。ウチのボスは魔力持ちで様子を見りゃわかるそうだ。証拠なんか無くっても、触れ回っちまえばお前ら一行は生涯ベガス市の出入り禁止になっちまうぞ?」


 バルクの言葉に少しだけ困惑したジンは、セキサイらと小声で話し合う。

「なに、理不尽な話なら暴れるだけよ」というセキサイの言葉が聞こえてくる。

 結論はすぐ出て、話を聞くだけ聞いてみようということになった。

「分かりました。行きましょう」


「オメェら……本当に何もんだ……?まあ良い。ついてきな」

 


 カジノの裏口から案内され、事務所に通されると、そこは遠隔視の魔道具の画面が壁一面に何枚もかけてあり、各テーブルのプレイヤー手元、指先などがリアルタイムで映されていた。

 高額な勝負のテーブルには自動的に映像が集中する具合で、大した監視システムだ。

 また、壁の上部にも数字だけの画面があり、大きな数字が減ったり増えたりしている。

「なるほど……」

 ジンがつぶやく。


「オーナー、連れてきました」

 バルクがオーナー室に一行を通した。


 そこには、胸元を強調した黒いドレスに身を包んだスタイル抜群の美女が立っていた。

 金髪のストレートヘアで、片方の目が髪の毛で隠れている。

 30歳代前半に見える。


「よく来てくれました。私がオーナーのミレイユ・ノワールです。不躾に呼びつけてごめんなさいね」

 落ち着いた物腰で一行を見据えて話す女主人。


「ボクに用件って何ですか?」

 

「単刀直入に言うわ。ある場所に潜入して欲しいの。費用と報酬は出すわ」


「どういうことなんですか?」


「このベガス市のカジノは全て公設、というかヤーマス王家が取り仕切っていて、最終的にジェイナス王子に収益がいくのだけれど、どうやら最近、ある場所に闇カジノが立っているみたいなの。潜入を試みてもウチのメンバーは顔が割れているのか、建物に入ることすらできないの」


「官憲に立ち入らせれば?」


「それが……市の騎士団詰所が買収されているみたいで、証拠がないから入れないの一点張りよ」

 女主人の顔が曇る。


 ジンはリョウ、ヤナ、セキサイの顔を見る。

 皆、なんだかやる気を出している表情だ。


「ボクは潜入して何をしてきたら良いんですか?」


「施設の規模などの概要、ルール、ゲームの種類、レート、客と従業員の人数とその内訳。情報が詳細なほど報酬は弾むわ。闇カジノってだけで違法なので、営業実態さえ分かればあとはこちらの伝手でジェイナス王子に応援を要請するだけなのよ。潜入費用兼報酬は金貨50枚でどう?ぜんぶすっちゃっても金貨20枚は保証するわ」

 破格の報酬に驚く一行。


「潜入するだけにしては、少し破格なのでは?」

 当然の疑問をジンが聞く。


「実は、帰ってきた客の様子がおかしくなるの。記憶が抜け落ちたりしてるみたい。間違いなく何らかの危険性があるわ」


「……なぜ、ボクなんです?」

 そもそもの疑問を口にするジン。


「ふふふ、あなた数を読んでいたでしょう。あなたなら異常に気づけると思うわ。ついでにいうと可愛いから気に入っちゃった。周りは荒事にも強そう。最適って思ったわ」


「ミレイユさんや、しくじって暴れることになったら、どうする?」

 セキサイが尋ねる。


「バルクたちを付近に待機させておき、そのときは突入させるし、後はウチでなんとかするわ」


「確認ですが、あなたはシマーが見えるんですね?」

 ジンが念押しで聞く。


「そうよ。以前は王立魔法研究院にいて魔道具開発の仕事をしていたわ。さっきの壁、見たでしょ。あなたの深い緑色のシマー、とっても落ち着く色ね」


「もしかしてサイラーさんって薬師知ってる?」

 リョウがふと口にした。


 女主人はハッとする。

「サイラーって、あの青い髪の?のんびり口調の?」


「そう」


「……一緒に王都で魔法を研究していたわ……知り合いなの?元気してるの?」

 思わぬ名前を聞いて、雰囲気が急に和らぐ女主人。

 目元が光っている。


「ワシらの村で元気にしておるよ」

 セキサイが答える。


「……そう……そう、良かったわ……」

 肩が震えている。


「仲良かったの?」


「……そうよ、それこそ姉妹みたいにね。子供の頃から魔法研究院で暮らしていたもの……。姉さんみたいについて回ったわ。でもサイラー姉さん、急に伯爵家に召し抱えられて音信不通になってたの……。今。どこにいるの?」


「セオドール県の山奥、テオ村で薬師をやっとるよ。ワシ、だけじゃなく村人の命の恩人じゃ」

 セキサイが目を伏せながら答える。


 堪えきれず目から一筋の涙が出るミレイユ。


「……何かの導きかしら。ふふ」

 涙を拭いながら素直な表情を見せるミレイユ。


「そうかもしれぬのぅ。とにかく、任せておけ。悪いようにはせん」


 そう言うと、セキサイはシマーを解放して見せた。

 リョウも同調し、普段抑え込んでいるシマーを解放させてみる。

 少し嫌そうにヤナもシマーを解放する。

 混ざり合ったシマーに部屋全体が白っぽく眩しい光で満たされていく。


 王都の研究院でも見たことがないレベル。

 ミレイユの背筋が粟立つ。

 

 これはーー災害だ。

 

「えっ、えっ、何!?何なの!?あなたたち、一体……」


「ただの旅人じゃ。ちょっと武術をかじっとるだけののぅ」

 ギャンブルで儲かった手前、若手三人が王都騎士団員なのは黙っておくちゃっかりした一行。


「……逆に少し心配になってきたわ……」

 

 そのとき、手下の一人が入室した。

 封書を渡され、割り込むバルク。


「オーナー、丁度いい。招待状が手に入った」

 

 ニヤッとして封書を掲げるバルク。


「闇カジノ、今夜開くらしいぜ」


 ジンの口元がわずかに上がる。


「……面白そうですね」

 

 

 


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