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青の年代記〜山奥で仲間とひたすら修行した少年が、いつか英雄になる話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

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陽暦1490年8月〜アパンへの旅①

 リョウたち騎士課程第276期生は、実習期間が過ぎ、夏季休暇期間に入った。


 先般、政争に敗れたライデル伯爵は王都の西側にある城塞荘園に逃げ込んでしまった。

 噂では軍備の増強を図っているという。

 しかし、落ち目のライデル伯爵に味方する者は少なく、資金面で苦労しているようだ。


 

 騎士団は、軍略科の分析の結果、ライデル伯爵によるすぐの直接行動はないと判断、今はかりそめの平穏な時期を過ごしている。



 リョウは以前から、祖父セキサイと夏季休暇を利用して、セキサイの娘に会うためアパン国に旅行することにしていた。


 セキサイの娘「セイ」は、セキサイの妻が亡くなってすぐにアパン国の実家に引き取られて、もう40年ほど会ってはいない。


 ただ、セキサイとセイの間で、数年おきに手紙のやり取りがなされていたのをリョウは知っていたので、セキサイが元気なうちに親子を再会させてやりたいと思って、橋渡しの連絡をしたのだった。


 

 今、リョウは王都の北にあるアルフレッド市でセキサイを待っていた。

 ジンとヤナ、ハクヤもいる。


 リョウの海外旅行と聞いては、黙っておれない幼馴染の2人。

 ちょっと野暮かと思ったが、セキサイの娘を見たいと思ったし、何より休暇で友達と海外旅行すると思うとワクワクして楽しみになってしまったのだ。

 

「邪魔にならないようするわ」

 薄手の黄色いジャケットに白のパンツスーツといつもよりおめかししたヤナが微笑む。


「アパン語はちょっと勉強したから、買い物なんかは任せて」

 ジンは黒のサマーセーターと灰色のスラックスを着こなしている。

 ジンはアパン語だけでなく、周辺諸国の言葉を勉強中で、簡単な日常のやり取りならすでに8ヶ国語を話せるようになっている。


 2人と1匹は街に出ると、いろんな意味でとても人目を引く。


 この後はセキサイと合流して、乗り合い馬車により“文化の道”を3日かけて西進し、隣国のアパン入りする予定だ。



「おお、皆、元気そうじゃの」

 しばらく待っていると、セキサイが薄い紺色のジャケットとスラックスに茶色のハットという改まった格好で現れた。

 

「爺ちゃん、そんな服持ってたんだ」

 

「武技指南役時代に金を貯めておったんで、こないだ買ったんじゃ」


「ちょっと生々しいね。でもちょっと小ちゃくなった?」


「少し痩せたのが分かるか。お前たちは逞しさが増しておるのぅ。目が違う」


「忙しくてね」


「騎士になって良かったか?」

 セキサイはリョウの目をまっすぐ見つめながら聞いた。


「良かった。普通ではできない経験が出来てると思う」

 即答するリョウ。


「それは良かった」


 祖父と孫のそんな会話をジンとヤナは黙って見つめていた。


「皆、鍛錬を滞りなくやっておるようだの」

 ジンとヤナを見ながらセキサイは目を細める。


「生活の一部ですから」

 ヤナは当たり前のように言う。


「2人についていくのに必死です」

 ジンは肉体的な鍛錬に加えて、多方面の勉学の課題を自らに課しているので、毎日大忙しだ。



「さぁ、間も無く馬車が出るぞ」

 アバン行き、4頭引きの乗り合い馬車に一行が乗り込むと、そこには10人くらいの乗客がいた。


 ハクヤを見てギョッとする乗客らも、暑い幌馬車の中を冷やしてくれることを知り、すぐに歓迎してくれた。


 どうやら今の時期、アパン国は相当蒸し暑いらしいが、寒冷地出身のリョウたちには、イメージがしにくい。


「なあに、スリャなどに比べればまだ涼しい方よ。そうそう、この先のベガス市は砂漠の真ん中に作られた不夜城。ワシらにとっては夜泊まるだけの通過点じゃが、初代王の設計で一大歓楽都市として作られておる」


「ギャンブルや娯楽の都ですね」

 ジンは興味津々だ。

 もともとカードゲームなどでは、捨てたカードを全部見て自動的に記憶してしまうので、本気を出したら負けたことがない。


「無駄にお金かかりそう」

 ヤナは商人である親の教育によりギャンブルには抵抗感が強い。

 

「歌劇などの興業もいろいろやっておるぞ。見たら面白いかもの」

 セキサイは何度かベガス市に来たことがある。


「あら、そういうのもあるのね。じゃあそっち行ってみようかな」


「オレは早く体動かしてぇな。街中を走って見て回るかな」


「そんな見聞の広げ方、聞いたことないわ」

 


 そろそろ夜になろうとする頃、乗り合い馬車はベガス市に着いた。

 さまざまな民族衣装を着た裕福そうな旅人が、飲食店や土産物店がひしめき合う広い通りをひっきりなしに行き来しており、多言語が飛び交っていてなかなかの喧騒だ。


 街の灯りも煌々と灯り始め、魔道具の光に照らされた看板たちが目立ち始めると、いやが応にも旅人たちの気分が高まってくる。


 ここが目当てで来たわけではないので、一行が宿泊するのは普通の安宿だ。

 

 チェックインを済ませ、近場で食事を取った後、通りに出てそれぞれ好きなように動こうかと思っていたが、一旦、公設カジノの様子を見学に行くことになった。


 ヤナは賭け事に抵抗感はあるが、華やかなカジノに興味がないわけではない。


 一行は大通りにそびえ立つ一際大きなホテル“デザート・ローズ”に赴いた。

 もちろんハクヤはお留守番だ。


 カジノは一階にあり、入り口に受付と、いかつい門番が2人待ち受けている。

 立ち姿から察するに2人ともなかなかの猛者で、用心棒を兼ねているようだ。


 ドレスコードをクリアした上、宿泊者以外は安くもない入場料を払うことになる。

 ここは社会見学費用として、セキサイが払ってやった。


「……爺ちゃん、武技指南役やってた時の給料いくらだった?」

 気前の良さにふと気になりリョウが聞く。


「見習い騎士の50倍くらいだったのう」


「えーっ!金持ちじゃん!」


「ふふふ、昔の話よ。今は自給自足のジジイに過ぎん」



 カジノの中はとても広く、眩しいほどの照明だ。

 ルーレットやダイス、カードゲームなどのテーブルが配列され、ディーラーと客、見物客がひしめいている。

 あちこちからときおり歓声やため息が聞こえてくる。


 ウサギの耳を付けた際どい衣装の美女が、ウェイトレスとして何人も働いている。


「ホント欲望の街よね。初代王の趣味かしら」

 ヤナが呆れたように辺りを見回しながら言う。



「さて、どこがいいかな」

 ジンは小遣いをチップに変え、カードゲームのテーブルをいくつか探し、レートや客層、ディーラーの仕草などを熱心に見学している。

 あまりに集中しているので、リョウたちが声をかけても聞こえていないようだ。

 情報収集に余念がなく、なかなかテーブルに着かない。


「ちょっと見ていよう」

 リョウたちは離れたところで座ってジンの様子を見たり、飲み物を注文したりしていたが、しばらくしてようやくジンがテーブルに着いた。

 珍しく若い女性がディーラーをやっているテーブルだ。


 なお、このカードゲームは、初代ヤーマス王が異世界から持ち込んだもので、いわゆるトランプのブラックジャックだ。

 手札を引いて内輪で21に近い方が勝つ、シンプルなゲーム。


 若い美青年が一人でテーブルに着いて、ディーラーの女の子と周囲の貴婦人がハッとする。


 ジンは周りの人々に微笑みかけて、ゲームを始めた。

 リョウたちは遠くから様子を伺っている。


 ジンは、最初はルールを上手く把握できていないようで、負けが続いているような動きだ。

 素人が意気消沈したような表情。


「あれ、演技よ」

 ヤナの目からは、ジンの全身からいつもよりいきいきと緑色のシマーが発されているのが見える。

 とても楽しんでいる時のジンの様子だ。

 わざと負けたふりをしながらタイミングを待っているのは間違いない。


 と思って見ていたら、そのテーブルから歓声が上がった。

 ジンがやぶれかぶれに張ったような勝負に連続で勝っているようだ。


 ジンは次の勝負で、手札を見た後、その増えたチップを全部突っ込んだ。

 周囲の客が息を呑む音がした。

 そんな幸運が続くはずがない、と周囲の客が思っていた時、ディーラーだけは自分の手札を見て、少し違和感を感じていた。

 何度か負けても致命傷は避け続け、要所要所での迷いの無い賭け方、そしてその際の勝率の高さ。

 まさかとは思うが、この若く美しい青年はカードの捨て牌を全部記憶しているのではないか。

 こちらは対策として複数デッキを使用し、シャッフルも念入りに行っている。

 手元も鏡などで厳しく監視している。

 しかし嫌な予感がする。


「コール」

 ジンは落ち着いた低い声でカードを要求する。

 最初の素人然とした顔つきとは一変し、勝負師のような目つきで配られたカードをチラッと見て伏せ、目を閉じる。


 ディーラーは唾を飲み込み、一枚引いて安堵する。

 手札を開示した。

 合計20だ。

 ほぼ負けのない数字にホッとする。

 


「コール」

 ジンはもう一枚引いた。

 普通ならここで勝負を降りてもおかしくない、と皆思っていた。

 しかし、ジンは出たカードを全て記憶しており、これまで数えていた捨て牌から考えると、山札のあと2枚は小さな数字だと確信している。


 場面がひりつく。

 周囲の観客がみな、息を止めて見守っている。


 遠くから見ているヤナは、全身から一際激しく立ち昇るジンの緑色のシマーを見て“いきいきしちゃってまあ”と思う。


「コール」

 そしてまさかの4枚目を要求。

 “オゥ”誰かの驚きの声。


 ジンが手札をひっくり返した。


「ブラックジャック」


 周囲は大いにどよめき、その後貴婦人たちが歓声を上げる。

 ディーラーの顔から血の気が引いた。

 テーブルに積まれたチップが一気に倍以上へ膨れ上がった。


 

 ジンは山盛りのチップを手に一行の元へ戻ってきた。


「……いくらになったの?」

 ヤナが呆れ顔で聞く。


「給料約50カ月分」


「おいー!」


「これ以上やると目をつけられちゃうからやめとこう」

 一行はそそくさとカジノを後にした。


 

 帰途につこうとしていたところ、一行はホテルの前の大通りで声をかけられた。


「あんちゃん、ちょっと待ちな」

 険のある中年男性の声だ。

 振り向くと複数の男たちがいた。




 

 

 

 

 


 

 


 


 

 



 

 

 

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