表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青の年代記〜山奥で仲間とひたすら修行した少年が、いつか英雄になる話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/95

陽暦1490年7月〜騎士実習16

 三階に続く階段を登ると、そこは家具が少なく、明るい広間となっていた。

 壁際に木箱が10個、周囲とは不自然な感じで重ねてある。


 奥に居住スペースがあるようだ。

 その部屋のドアの前にエンリケ一家の3人がいた。

 聞いていた通りの人相だ。


「騎士風情が何しに来た!」

 エンリケ父が叫ぶ。

 膝が震えている。


「“石”の家宅捜索に決まってんじゃん」

 リョウが答える。

 そう言いながら周囲を窺う。

 この部屋のどこかに、居るだけで全身総毛立つようなとんでもないヤツがいる。



 そのリョウの言葉に合わせ、木箱の影から黒い外套を羽織った長身の男が現れた。

 見た目は20代半ばで、ガッチリした体格。

 フードの隙間から、浅黒い肌、切長の瞳、金髪が見える。

 特徴からスリャ国人のようだ。



 リョウが息を呑む。

 コイツだ。


 セキサイが本気で敵対してきたらこんな感じだろうか。

 リョウはすでに全力戦闘モードに入っている。


「ヴァルツどの!やってくれ!」

「そうよ!高い金払ってんだからね!」


 エンリケ一家の声援を無視して、男は一歩前に出る。


「……なるほど。ここまで辿り着ける訳だ。しかし……その佇まい……」

 スリャ訛り。

 低い声。


「……やはりか」

 男はそう言うと、外套を羽織ったまま、いきなりリョウの眼前に現れた。

 

 男の動きはあまりに洗練されており、予備動作が全くわからなかった。

 過集中状態のリョウの脳を動きで騙し、反応を鈍らせられたとリョウは気付いたが、時すでに遅く、前蹴りを喰らってしまっていた。

 咄嗟に腕でガード出来たが、そのまま壁まで吹っ飛ばされて、背中を強打した。


「グゥッ!」

 咄嗟に受け身を取れたが息が止まる。


 リョウはこれまで食らった事のないような重い蹴りにゾクゾクしていた。

 

 そして眼光がギラついてくる。

 全身の青いシマーがギュッと凝縮されて体内に溶け込んでいく。


「……やるな」

 ヴァルツは呟くと、肘と膝を曲げた突進技“肘膝一体”で追撃してくる。


「その技!」


 リョウは全身に巡らせたシマーを足に集め、爆発的に横移動で躱し、起こりのない追い突きをヴァルツの首めがけて放った。


 “当たった”と思った瞬間、ヴァルツの姿はかき消えて、一瞬の間にリョウの背後に現れ、万全の体勢で後頭部に肘を振り下ろしてきた。

 有ったはずの質量が急になくなったようなヴァルツの姿。


 リョウはその肘にも反応し、腕を曲げて手のひらで受け止めた。

 そのまま肘を返して関節を極めようとするが、ヴァルツはまたかき消えて、目の前に現れる。

 動いたのではなく、位置だけ入れ替わったように見えた。


「フフ……この国に来て良かったようだな」

 外套の男ヴァルツは笑っていた。


「何笑ってんだ!」

 リョウはヴァルツの強さに心底驚愕していた。

 セキサイやウーツァンと対峙しているような感覚。


 世界は、広いと痛感する。

 じわじわと湧き上がる高揚感。


「お前も笑っているぞ」

 指摘されるまで、リョウは自分が笑っていることに気付いていなかった。


「名前は?」


「リョウだ!あんたは?」


「今はヴァルツとだけ名乗っておこう」



「リョウ!大丈夫か!」

 サイが階段を駆け上ってきた。


「サイ先生!」


「おっと、これはこれは……今日は大当たりだな。知っているぞお前」


 サイは眼前の男から凄まじい圧を感じている。

 人間の皮を被った何か別の生き物に思える。


「……ボクはあんたを知らんけど」

 サイはそう言いつつ覚悟を決める。

 出し惜しみ出来るような相手ではない。

 

 一瞬のうちに、魔力を極限まで練り上げ、両手を前に突き出す。

 サイの右手の拳が黒く光り始め、周囲の空気が歪む。

 “キィィィィン”と金属音のような音がし、床が微振動する。


「おっと、これ以上はいかんな。エンリケさんよ、あとはよしなにしてくれ」


「ヴァルツどの!」

「ちょっと!助けなさいよ!」


 ヴァルツは壁に向かって丸い玉を投げつける。

 盛大な爆発音とともに開いた大穴に向かって、飛び込むヴァルツ。


「待て!」

 リョウが穴から外を見るが、ヴァルツの姿はない。


「ハクヤ!逃げた!」

 リョウは屋上にいるハクヤに向かって叫んだ。


 ハクヤは即座に地上に向けて飛び降りていった。



「さて、エンリケさんよ。“石”はどこだ?」

 サイがエンリケ一家に近づき、問いかける。


 ヴァルツに取り残されて、茫然としているエンリケ一家。

 あれ程いた護衛たちは、全て打ち倒されたのだろうか。

 

「サイ先生、あれ開けてみよう」

 リョウは無造作に部屋の隅の木箱を開けてみる。


 中には紙に包まれた青い錠剤がぎっしり詰まっていた。


「き、キサマ、よくも!これは、ワシの!」

 哀れなほど取り乱すエンリケ父が木箱に覆い被さる。


 リョウがその父を両手で掴み上げ、広間に放る。


「さて、きっちり説明してもらうからね。取調べ、長くなるよ?」


 ヤナやリック騎士らが続々と三階に開け上がってきた。


 エンリケ母が居住部屋に慌てて立て篭もろうとドアに走って行くが、全力でドアの前に移動したヤナが立ちはだかった。


「動かないで」

 

 エンリケ母はそれでも半狂乱となってヤナの首を絞めようとするが、ヤナはその腕を取って後ろ手に捻り上げ、膝裏を蹴って跪かせた。

「ヒィ!」


「言うこと聞かないと無駄に痛いわよ」

 屈辱に満ちた目でヤナを睨むエンリケ母。

 


 フェリクス騎士がエンリケ母と息子に縄をかける。



「サイ先生、あのアパン風の着物野郎、倒したの?」 

 リョウがサイに質問する。


「逃げられた」

 肩をすくめるサイ。


「強かったもんね」

 

「リョウ、アイツからよく生き延びられたな?」

 正直言ってサイはあの男に勝てるビジョンが浮かんでこない。


「次会ったら、一撃入れてやる!」


 苦笑するサイ。


 

 今回の指揮官のライリー副団長が三階に上がって来た。

 “石”は全部で700キロも有った。


 末端価格で小都市の予算程にも上る。


 とてもエンリケ一家だけで行える取り引きでは無い。


 取り敢えずはエンリケ一家の身の安全を確保しなければ、捜査を進められない。


 そうではあるものの、騎士団内部にも貴族派が多数おり、レオニード公の密命を受ければ、口封じに暗殺される恐れすらある。


 頭の痛い問題に、ライリー副団長の表情は暗いままだ。


 

 しばらくしてハクヤがリョウのもとに戻って来たが、見逃してしまったようで、心なしかしょんぼりしていた。


「ハクヤさんを撒くなんて……とんでもないヤツだね……」

 ジンの感想に、リョウも頷いて言う。


「アイツ、この先もいろいろしてくると思う。強くならなきゃ」

 

 リョウの言葉にヤナもジンも顔を見合わせて頷きあった。

 

 

 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ