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青の年代記〜山奥で仲間とひたすら修行した少年が、いつか英雄になる話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

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陽暦1490年7月〜騎士実習15

 リョウたち先遣隊がエンリケ一家のアジト前に到着した。

 エンリケ一家のアジトは、3階建てのビルになっており、出入口は見たところ正面玄関一箇所だけだ。

 ハクヤはすでにビルの屋上に寝そべって、通りを見下ろしている。


 玄関脇には一人、若い男がボーッと椅子に座って通りを眺めている。

 気の利いた感じはしないが、見張り役のようだ。

 その他にエンリケ一家の関係者のような者は見当たらない。


 彼我の距離は約30メートル。

 サイ教官がジンと打ち合わせ、建物や柱の薄暗がりに沿って闇魔法を展開していく。

 ボヤッとした暗がりの闇が濃くなり、人が歩いていても外から見えない。


 ジンがその中を1人で歩いていき、見張りの横10メートルの位置まで近づく。

 吹き矢を構えて、見張りの首筋に睡眠毒を塗った矢を放った。


 見張りは「うっ?」という軽い声とともにいきなり項垂れた。


 ジンが暗がりから現れ、眠っている男に猿ぐつわを噛ませ、慣れた手つきで椅子に縛りつける。


 サイ教官が入口ドアを少し開けて中を窺うと、中はすぐ吹き抜けのシャンデリアホールになっており、正面と両脇に階段が設置してある。

「金かかってるねぇ」

 サイ教官は苦笑しながら呟く。


 ホールには大型のソファがコの字に並べられ、そこには屈強そうな金属鎧を着た大男、細身の革鎧の男、奇妙な杖を持ったローブの男、その他に湾曲刀を腰に下げたスリャ国風の出立ちの男たちがおり、合計で10人ほどがたむろしていた。


「うわぁ……もう荒事は避けらんないね」


「魔法使いをまず無力化しましょう」

 ジンが背嚢から折りたたみ式クロスボウを取り出し、黒く塗った矢を取り出して矢尻に薬品を振り撒く。


「今から声掛けするけど、即やっちゃって」

 サイ教官がそう言うと、一行は頷いた。

 一呼吸おいて、サイ教官が入口ドアをゆっくり開放する。


「騎士団による違法薬物の捜索差押えだ!抵抗するな!」

 ホール中に聞こえる声でサイ教官が叫ぶと、中の男たちは一斉に立ち上がる。


「なんだぁ!?」

「構うな、やっちまえ!」

 男たちは怖気付かず、武器を構えてホール内に入ってきたサイたち一行に近づいてくる。


 サイ教官の背後からジンが推定魔法使いの男の腕に向けてクロスボウを放った。

 すでに精神集中に入っていた男は、杖を持つ腕を矢に貫かれ、呻き声を上げる。

 前に倒れ込んで、痺れて動けなくなっている。


「アーラム!よくも!」

 頼みの魔法使いが無力化され、動揺が走る荒くれ者たちだが、金属鎧の大男と、スリャ風の男たちが一行の前に立ち塞がる。


「サイくん、ここは任せて上に行け」

 フェリクス騎士とリック騎士が迎え撃つ。

 フェリクス騎士は、襲いかかる湾曲刀を弾き返し、即座に胴を払ってスリャ風の男を一人倒す。


 リック騎士は金属鎧の大男と対峙して牽制している。

 金属鎧の大男は大太刀を上段に構えている。


「……来ないのか?」

 リック騎士が挑発する。


「迎え撃つスタイルなんだろ?」


「早い方が勝つぞ?」


「ふん、割に合わない仕事だぜ」


 2人はお互いに距離を取り、睨み合っていたが、大男は気合いと共に最速の踏み込みでリック騎士の頭部に面を放った。


 しかし、ほぼ同時にリック騎士は、地上スレスレの低い踏み込みで居合いを放ち、金属鎧の左膝裏の隙間を切り裂いた。


「ぐおぉぉ……!」

 片足の自由が効かず、大剣を支えに膝立ちになる大男。

 

「治るように切った。しばらく護衛は休業しな」

 剣を振り払い、鞘に納めるリック騎士。



 ヤナがホール横の階段を駆け上がろうとしたところ、細身の革鎧の男が先回りし、短剣を両手に持って見せつけてきた。


「ホッ、こりゃ上玉よ。だがまだ若ぇな。ビビってねぇか?」

 ニヤニヤしながら近寄ってくる。


 ヤナは騎士実習中にこの手の輩に会うのは3人目だ。

 ため息と共に小剣を構える。


「ん?サマになってやがる?」

 細身の男が気付いた時にはすでに遅く、ヤナは全く隙のない状態で突進突きを三段放った。

 男は全く反応出来ない。


「うっぎゃあぁぁあ!」

 両肩と左足の甲を貫かれ、男はひれ伏した状態で倒れる。


「油断すると命取りって教わらなかったの?」

 ヤナは男にそう言い、階段を駆け上っていく。


 ヤナが二階にたどり着いた途端、武装した護衛たちが勢いよくドアを開けて立ち塞がってくる。

 ホールを取り囲むように取り付けられた狭い通路となっている。

「あれ、外れルート引いちゃった?」


「コイツぁ珍しい敵襲だ」

「女騎士をいたぶれるなんてありがてぇ」

「お嬢ちゃんなんで1人なの〜?」


 荒くれ者たちはヤナの姿を見ると皆同様の反応になる。

 暗澹たる表情になるヤナだが、一瞬で気を取り直す。


「本気出してきなさいよ?」

 手首をクイッと曲げて挑発するヤナ。


 荒くれ者たちは狂喜し、狭い通路をわれ先に殺到してくるが、お互いが邪魔で思うように進まない。


 その隙を捉えて、ヤナが1人ずつ足や肩、太腿を突いて無力化していく。


「うげぇ!」

「い、イテェ!」

「おい、邪魔すんな!」


 折り重なって倒れる男たちを踏みつけつつ飛び越え、ヤナは先を急いでいく。

 

 ドアを開けて荒くれ者たちが次々と出てくる。

 

 うんざりしつつ迎え撃つ。


 突然、目の前の壁に矢が突き立って思わず仰け反るヤナ。

 反対側の通路から弓で狙ってきた奴がいる。


「あっぶなー!」

 二の矢が即座に放たれたが剣で弾いた。

 

 ヤナを狙ってきた男はジンのクロスボウで排除される。


「集団戦闘って大変なのね」

 改めて全方位に神経を尖らせるヤナ。

 一時的な危険はない。


 しかし、どうも上階から重苦しい、嫌な気配を感じる。


 急ぎたい気持ちを抑え、通路を一人一人各個撃破していく。



 サイ教官とリョウが正面の大きな階段を登る途中、スリャ風の男たちが湾曲刀で襲いかかってきたが、どの攻撃もリョウの棍に弾き飛ばされる。

 体勢を崩した者は片っ端から階段下に蹴り落とされていく。


 スリャ風の男が丸い玉をリョウに放ってきた。

 リョウはそれを即座に叩き落とそうと構える。


「割るな!」

 咄嗟にサイがリョウに警告する。


 リョウは棍の先でフワッとそれを受け止めて、投げたやつに放り返した。

 丸い玉は男の側の壁にぶつかると轟音と共に爆散し、男は2メートルほど吹き飛ばされ、ウンウン唸っている。


「ひぇぇ」

 リョウは肝が少し冷えた。

 

「急ごう。上階に何かいる」

 サイが冷静に先を促す。


 階段の踊り場で傭兵風の革鎧の男3人が、ロングソードや槍で襲いかかってきたが、リョウとサイは用心深く捌いて、的確に痛打を浴びせたり、階段下に投げ落としたりしていく。


 ジンは後方からクロスボウを構え、こちらに気付いていない敵兵を1人ずつ射撃し、痺れ薬の矢で倒しながら上階に向かう。



 そうしていると、ライリー副団長に指揮された騎士団本隊が建物内に一斉に雪崩れ込んできた。


「倒れている奴らを片っ端からふん縛れ!」

 ライリーは先遣隊の活躍に獰猛な笑みを浮かべていた。

 順調に踏破していっているようだ。



 リョウとサイが二階にたどり着いた時、2人ともゾクっとして立ち止まる。

 

 通路に1人、立ち塞がる男がいた。

 アパン風の着流しに魔獣素材の革鎧の胸当てを着け、右手にはだらりと若干反り身の細身の剣を提げている。

 黒髪を後ろで束ねている長身の30歳くらいの男。

 自然体だが一分の隙もない。


「おっ、先生!」

「うーん、こんな使い手までいたのか」


「何だお前ら、今時の騎士はそんな強ぇのか?アイツら全滅かよ……」

 着流しが顎を撫でながら問いかける。


「厳選メンバーだよ」


「そうか、だが依頼は“ここを通すな”なんでね、っと!」

 着流しの男はリョウとサイの分断を狙って、横薙ぎに刀を払ってきた。

 そのまま突きや払いを連続で繰り出してくる。


 飛び退きつつ小剣を構えるサイ。


「リョウ!先に行け」

 サイでも簡単に切り伏せられる相手ではない。

 魔法戦闘を頭の中で組み立てる。


「はいよ!」

 狭い通路では数的優位とはならないと判断して、リョウは三階へ急ぐ。


「あんた、隠し玉がありそうだな。やっぱ死ぬ前にズラからせてもらおうか」

 そう言いながらも一切の油断もない着流し男。


「出来るかい?」

 サイの気持ちはやや焦っている。

 早く上に行きたい。



 途中途中でドアから傭兵たちが出てくるが、過集中状態のリョウにとって、そいつらの動きは遅く、次々に棍で打ち倒していく。

 自らの鼓動の音が頭に響く、スローモーションの世界。


 しかし、通路を進むほど嫌な雰囲気に近づいていっている感覚。


 三階に続く階段から少し冷えた空気が降りてくる気がする。

 不意に身震いが襲う。

 全身のシマーにギュッと黒い重圧がかかってくる感覚。



 スゥ……と息を吸い込んで、リョウは一歩一歩階段を上がっていった。


 




 




 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

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