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青の年代記〜山奥で仲間とひたすら修行した少年が、いつか英雄になる話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

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陽暦1490年7月〜騎士実習14

 パレス元小隊長はさっそく騎士団本部の地下取調べ室に閉じ込められた。

 バルガン団長はパレスの取調べを軍略科のブラン教官に任せ、アルマを補助に付けた。


 パレスがクビなのは確定事項だ。

 しかし、子爵という身分では裁判もなく処刑することは出来ない上、表立って手続きを進めるとレオニード公爵からの横槍で特別な措置が取られるのは目に見えていた。


 そのため、取調べと並行して、貴族としての処断をどうするのかを決めるため、バルガン団長が水面下で宰相のオード師と協議を進めていく。


 王城で非公式会見を行った結果、パレスの子爵位は水面下で剥奪する方向で進められることとなった。

 また、オード師からも最近のライデル伯爵のあからさまな動きを見かねており「お灸を据えようかの」との言質を取った。



 今ある材料で最大限の処分が出来るよう、また、黒幕の一人であるライデル伯爵への足掛かりがどこかに無いか、ブラン教官はアルマの精神感応魔法を最大限当てにしてパレスに質問をぶつける。

 パレスは最初から黙秘していたが、窓のない地下室に数多く備え付けてある拷問器具を一つ一つ紹介され、何かあったら「階段から落ちて死んだことになる」と告げられて観念し、喋り始めた。


 すると、パレスがエンリケ一家の薬物密売を見逃す代わりに、相当な賄賂を貰っている事が明らかになった。

 

「賄賂を貰ってないか?」の質問で即座に嘘が見破れるので、アルマの前では嘘はつけない。

「裏帳簿はあるか?」という質問から追及した結果、例の扉書棚にある事がわかった。

 連絡を受けて副団長が裏帳簿を確認したが、2年間の賄賂の合計は、家一軒分ほどの金額に上り、みな唖然となった。



 その後、パレス元小隊長が“石”の密売に関して知っている事を全部聞き出したが、ライデル伯爵が子飼いの商会を利用してスリャ国から輸入し、エンリケ一家に卸していること、ノース地区の不良少年らを使って販売していること、ウエスタン地区まで販売網を広げようとしていること等が分かった。


 その中でウエスタン地区の不良少年レントが「ルカの兄貴のシマで売れない」と言ってノース地区で売っていたところ、地元の不良少年らと揉めたようだった。


 なお、“石”の現物はエンリケ一家のアジトに相当量が保管されているようだと分かった。

 ここまで聞き出されてしまって、パレス元小隊長は、外に出たらもう命は無いと青ざめてしまっている。

「……年老いた母がいるんだ。心配するだろうから私の無事を伝えてくれ……」


「あなたの都合で規則は変わりません。エンリケ一家が片付いたら、裁判を受けさせてあげます。それまでは外に出すことは出来ません。大人しく牢屋で過ごしなさい」


 取調べの最後に、ブラン教官はパレス元小隊長に無表情でそう告げた。


 誰にも連絡を取らせてもらえないまま、暗い地下室でうなだれるパレスを後に、ブラン教官とアルマは地上に続く階段を上がる。


「アルマ、君の能力は騎士団の宝だね」

 いつも無表情なブラン教官だが、そう言って笑いかけてきた。


「ありがとうございます!」

 こき使われても褒められたらやっぱり嬉しいアルマ。



 その日の昼、シンス詰所のマーカム小隊長とリョウ、アルマ、リック騎士は“天の鍵”のギルドを訪ねた。

 頭目のルカが相変わらずウエイトレス姿で出迎えるが、一行を見るや即座に奥の部屋に案内する。


「なんか分かったツラだな?」

 変身と言っていいほどの早変わりで黒スーツ姿になるルカ。

 タバコに火を点ける。


 マーカム小隊長がアルマの補足を受けながら、流れを説明する。

 

「エンリケ一家は、騎士団の威信をかけて、潰す」

 マーカム小隊長はバルガン団長の言葉をそのままルカに伝達した。


 すぅぅ……と一息で半分以上タバコが短くなる。


「……そうか。なら俺から言うこたぁ無ぇが、こちらもケジメはつけさせてもらうぜ……」

 長く紫煙を吐きながら、ルカは低い声で告げる。

 タバコを揉み消す仕草が荒い。


「レントのこと、悪いようにしないでくれよ」

 マーカム小隊長は心配げな表情だ。


「……“明日への扉”のヤツらは、我が子みてぇなモンだ。バカな奴ほど目をかけちまう」

 

「……そうか」


「……心配すんな。迷惑はかけねぇ」

 そう言って天井を見つめたまま動かないルカ。


 マーカム小隊長一行はそのままアジトを後にした。



 夕方、皆で団長室に集まった。

 このままの勢いでエンリケ・ファミリー撲滅作戦が実行される。


 これまでの視察結果から、エンリケ・ファミリーの構成員数は周辺者を含めておよそ100人と推定され、アジト周辺には30人くらいが常駐しているようだ。

 頭目のロドリゴ・エンリケ、その妻のマリア・エンリケ、息子のディエゴ・エンリケはアジトの最上階に住んでおり、表向きは運送業の元締めだ。

 

 一家は”石“の密売で荒稼ぎしているはずだが、表立った派手な動きは見せていない。

 ただ、アジトを見ていると、強力に武装した傭兵や冒険者風の男たちが複数グループ出入りしている事が分かった。

 中には、海外からの傭兵が混ざっているようだ。


 奇妙な形の杖を持った魔法使いもいるようで、最低でも銀等級以上の敵だと考えられる。

 

 どうやら潤沢な資金で護衛を手厚く雇っているようで、これには団長たちも頭を悩ませる。


「魔法次第では被害の予想が出来ませんよ?危険過ぎます!」

 魔法学のアレサ・カーン教官が曇った表情で進言する。


「そこはボクらが出来るだけ何とかしましょう」

 サイ教官があっけらかんと前に出て言う。


 バルガン団長はそんなサイを見ながら、何か言いかけ……無言で頷く。

 

 周りの騎士たちはそんなサイを少し引いて見ていた。



 とりあえず、頭数が必要なので、貴族の派閥に属していない騎士たちを秘密裏に50人集めて、即席の部隊を急遽編成することになった。

 

 出来るだけ強力な騎士で編成された先遣隊を突入させて、敵の主戦力を一気に叩き、制圧する作戦だ。


 ここで、先遣隊として編成されたのは、サイ教官、リョウ、リック騎士、ジン、ヤナ、フェリクス・ナイトレー騎士の6人だった。

 もちろんハクヤも連れて行く。


「えっ、なんで先遣隊に選ばれてんの?」

 リョウがジンとヤナを目の前にして驚いている。

 妥当な人選だが、2人とも実力を隠していたのに、いつ上層部から目を付けられたのだろうか。


「こっちも実習中いろいろあって、ちょっとギャンググループ潰したり……」

 ジンがため息をつく。


「さんざんだったわ……長くなるから今度また説明するわね」

 リョウはヤナの表情から何となく察した。


「まあ、今回は本気出していいみたいだから、頑張ろうぜ」

 リョウは何となく嬉しくなっている。


「このメンバーなら、まあ大丈夫」

 サイ教官が先遣隊の皆の顔を見ながら、笑顔で声をかける。


「誰か死ぬかもだけど、キミたちは死なないでね?」


「先生、一言余計です」

 ヤナはそう言いながらも目力が一際強くなってきた。

 ヤナの周囲の空気が歪む。


 リョウも長い息吹とともに全身のシマーを練り上げ、身体中に巡らせ始めた。

 胸の奥がわずかに高鳴る。


 その姿を見てリック騎士とフェリクス騎士は驚く。

 

 どうやらこの人選に間違いは無いようだ。

 そう思いながらリック騎士は、いつの間にか武器を強く握りしめていた。


 

 誰も口を開かず、前に進む足音だけが夕暮れの王都に響いている。

 その先に待つものを、全員が理解したまま。

 


 


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