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青の年代記〜山奥で仲間とひたすら修行した少年が、いつか英雄になる話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

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陽暦1490年7月〜騎士実習11



「違法薬物所持の現行犯人を捕まえてきましたー!」

 リョウたちがポンド詰所に戻ってきたところ、椅子にふんぞり返っていたパレス小隊長は仰天して立ち上がった。


「はぁ!?本当かダイト?」


「本当です。“石”を所持していた少年を職務質問から所持品検査して、鑑定したので間違いなく、手続きも問題有りません。今から奥で取調べます」

 

「ぬぬ……お前らちょっと待て」

 “石”と聞いて複雑な顔をするパレス小隊長。

 少し考え事をしている。


「アルマ」

 リョウがアルマに合図を出す。

 アルマは黙って魔力の集中を始めた。

 どうにかパレス小隊長の内心を知ることが出来ないか、精神感応魔法を発動させる。


 アルマが目を開けてリョウに小声で耳打ちした。

「“石”事件を検挙したくなさそうだ。嫌がってる」

「なんだそりゃ」

 パレス小隊長も同じ騎士のはずだが、今どんな心境なのか、リョウには理解不能だ。



 その様子に気付いた風もなく、少し間を開けて、パレス小隊長は引き攣った不自然な笑みを浮かべながら、ダイト騎士に言う。

「お手柄だったなダイト。もう良いぞ、この件はキースに引き継ぐ。キース、お前が取調べろ」


 パレスの側にいた中年の、堅苦しい顔をしたキース騎士は「承知しました」と言って無表情で近づいてくる。

 

「いやいや、私が最後まで処理しますよ」

 ダイトが違和感を覚えながら意見するが、キース騎士は無表情のままダイトを押し退け、リョウが捕まえているノッブを連れて、奥の取調べ室に向かおうとした。


 しかし、ノッブを引っ張ってもビクともしない。

 リョウがノッブの腰縄を掴んで離さないからだ。


 キース騎士がリョウに何か言おうとした瞬間、リョウが先に口を開く。

「キース先輩、アルマを補助に入れてください。逮捕時の状況が分かっている人がいないといけないでしょう?アルマくんは従順なんでコキ使えますよ」

 リョウは気合を入れた眼光で、真っ直ぐキース騎士を見つめながら進言した。

 アルマがリョウを視界の端で睨む。


「お、おぉ、そうだな。行くぞ」

 キース騎士は何だかわからないうちに新米の眼力に気圧され、合理的な理屈も有るなと思い提案を受け入れた。

 


 キース騎士とアルマ、被疑者のノッブが取調べ室に入ってすぐに、パレス小隊長が取調べ室からキース騎士を呼び出して別室に入れた。

 扉を閉め、何やら2人で話をしているが内容までは聞き取れない。

 

 少しして2人が出てきた。

 何も言わずに素知らぬ顔でそれぞれ元の場所に戻る。



 キースが出て行っている間、アルマはノッブと2人で取調べ室に残っていた。

 ノッブは幼さが残る18歳の痩せ型の少年で、髪の毛の一部が赤く染めてある。

 アルマは、この不良少年ノッブが薄ら笑いを浮かべて余裕な態度なのが気に食わない。


「なんだお前、逮捕されてんのにニヤニヤして。何が面白いんだ?」


「へっ、この“石”の件、捕まっても別に大したことないからな」


「そんな訳あるか。違法薬物の罪は軽く無いぞ」


「これまで仲間が捕まっても、すぐに釈放されてるからな。知らんのか、まあ、見とけや下っぱ」

 

「なんだと?」

 小僧に舐められ、アルマは随分とカチンときたが、我に帰り、このノッブの本心を探るべく精神感応魔法を発動させる。

 ……どうやらノッブの言葉は本心から出ているようだ。


「待たせたな。お前は出てて良いぞ」

 キース騎士が取調べ室に戻って来て早々にアルマを部屋から追い出す。

 無表情かつ有無を言わさない雰囲気に、アルマは仕方なく部屋から出たが、ドアは少し開けておいた。

 外から聞き耳を立てる。


 室内は怒号や強い口調は一切なく、中では世間話をしているようだ。

 しばらく聞いていると、今後の流れについてノッブがキースに質問をしていたが、キースは「ノース地区の留置所に2、3日泊まった後、釈放になる」と説明していた。


 それを聞いてアルマは「そんな軽い罪なはずが無い」と思ったが、それを面と向かって反論する要素も知識もないので扉越しに黙って聞いていた。

 

 アルマが外でこっそりと聞いていた間、キース騎士は一切厳しい取調べをすることなく、機械的に質問し、それに対するノッブの言い分をそっくりそのまま調書に記載しているようだ。


 その話をまとめると、“道を歩いていたら、知らない男が栄養剤だと言って銅貨1枚で売ってくれた。違法薬物とは知らなかった“という主張だが、キース騎士はそのまま「そうか」と言って矛盾点を追及することも無い。


 アルマは扉を蹴り開けそうな心情を抑え、事の推移を見守る。

 もしかしたら、”石“の事件はこのようにして揉み消されていっているのではないか、そんな疑惑が頭をもたげてくる。


 もしそれなら、それはパレス小隊長の指図に間違いなく、その証拠がこの詰所のどこかにあるかも知れなかった。



 キース騎士がそのまま作成した供述調書と、その後、リョウとダイト騎士が作成した逮捕手続書は一つにまとめられ、編綴されてパレス小隊長に手渡された。

 アルマは、この書類が今後どうなるのか気になったので、編綴する際に紐に自分の髪の毛をこっそり結びつけておいた。



「ご苦労だったな。この被疑者ノッブは今からノース地区留置所に留置する。その後は適切に処理しておくぞ。お前らは詰所内で休憩してろ。ああ、今日はもうパトロールに出ないで良いぞ」

 書類を見終わると、パレス小隊長は満足そうな笑みを浮かべながら、リョウたちに何もしないよう指示を出す。



 リョウたちは詰所の相談室に追いやられた形となった。

 アルマが取調べ室の状況をダイト騎士、リョウ、セラに説明すると、リョウは憤りを感じながら、それでも小声でダイト騎士に質問する。

「先輩、ここでの”石“の事件の取り扱いってどうなってるんですか?」


「俺にもよく分からん。なんせこのノース地区では職務質問から”石“の所持で検挙すること自体まれだ。その後の処理が緩すぎるのが異常だが、これは”石“に限った事だな。他の事件は概ね法に則って適切に処理されていると思う」

 ダイト騎士にとっても今回のパレス小隊長のやり方は腑に落ちていない。



「後でみんな寝ている時にこっそり”石“関連事件の関係書類を探してみよう。何か分かるはずだ」

 アルマが皆に提案する。

「今回の一件書類の側に置いてあるはずだから、その場所を探っておくよ」


「頼りにしてるぜ、アルマっち」


「パレス小隊長はなぜ“石”に関してこんなに緩いのでしょう?誰かの指示?」

 セラが問いかけると、ダイト騎士は口を開く。


「それなら、大貴族しか考えらんねぇな。あのオッサンの興味から言って。これはただの勘だが、こないだ実習に来たお前らの同期グスタフ・ノーグルに対するへりくだり方から察するに、指示はレオニード公陣営じゃねぇか」

 騎士団でもリョウたち276期生の中にジェイナス王子やレオニード公の参謀の子息などの大物がいる事は噂になっている。


「またレオニード公の名前が出てきた。自国に薬物を広めさせて何がしたいんだ」

 リョウが嫌そうな顔をする。



 深夜3時、パレス小隊長を含め、詰所のほとんどの勤務員が仮眠に入ってしばらくたった頃、リョウたち3人はこそこそと起き出し、人目につかない相談室に集まった。

 ダイト騎士には責任を被せたくないので、そのまま寝ていてもらっている。

 

 

 アルマが精神を統一し、自分の髪の毛を結び付けていた昼間の一件書類の場所を探した。


 小隊長専用の扉付き書棚の中にその反応があった。

 金属製の錠がかかっているが、ちょっと探したくらいでは鍵の場所は分からなかった。


 仕方なく、リョウは全身のシマーを手に集め、息吹を一つ吐いて、少しずつ力を入れながら錠の輪っかを引っ張った。

 ”パキン“という小さな乾いた音と共に、錠の内側の金属が壊れ、鍵が外れる。


 その時、二階の仮眠室の方から、微かにドアがガチャっと開く音がした。

 ハッと息を殺して身動きしない3人。

 セラは心臓がバクバクしている。

 少ししていると、トイレの水を流す音が聞こえて来て、再びドアが閉まる音がした。


 アルマとリョウは目を合わせると、書棚の扉を開け、数多くのファイリングされた書類を漁り始めた。


 小さな背表紙のファイルが見つかる。

 すでに今日の事件の一件書類が編綴してあった。


 その前に綴ってある書類を見ると、2年前からの”石“事件関連の取り扱いに関する記録文書だった。

 目次には全部で20件分の記載があった。


 事件として立件されていない分の書類が幾つか残されている。

 リョウ、アルマ、セラは読み進めるうちに顔を見合わせる。

「……どれもこれもまともな捜査をしてないぞ。処分もほとんど数日後に釈放、不起訴だ」


「事案名、日付と処理者を全部メモしておこう。セラお願い」

 アルマが指示を出す。

「もうやってます」

 普段のおっとりした感じとは裏腹に、猛烈な勢いでペンを動かしているセラ。



「もっと大事な書類は無いか?分かんないアルマ?」


「難しい注文するね」

 そう言いつつアルマは全神経を集中し、パレス小隊長の思いが強い物がないか探る。


「……この辺りよく触ってそう」

 アルマが書棚中央の引き出しを開けてみる。


 蝋で閉じてあった封書が出てきた。

 外に記名は無い。


 アルマが中の手紙を取り出して読んでみる。


「……“例の“石”の業務についてはレオニード御大の深謀遠慮によりなされている所。”石“による治安の混乱は内戦時のジェイナス王子派、及び無派閥騎士団の弱体化に資する。軽々に検挙などせぬように。なお、販売を担うエンリケ一家と事を構える事はくれぐれも成さぬよう。ピュアック子爵家の来るべき繁栄のために“……っと。署名あるぞ。差出人はギニウス・ライデル伯爵だね。パレス小隊長の家名はピュアックだなぁ。どうするこれ。真っ黒なんだけど」

 アルマは小声だが興奮が隠せない。


「……このまま今から本部に持って行こう。どうせここまでしたんだ。このまま朝を待ってたら絶対に俺たちに何かするぜあのオッサン。多人数で囲まれたら厄介だ」

 リョウの目が爛々と輝く。


「団長絶対寝てる……けど、やらせたのあの人だから大丈夫か。叩き起こそう。仕方ないよね」

 アルマも頷く。



 リョウは書棚の扉を閉じ、壊れた錠を引っ掛ける。

 一見してカギが壊れているので不審だ。


 周囲を少し探す。

「あった」

 リョウは引き出しにあった荷札の針金を引きちぎり、錠の穴に突っ込む。

 そして、輪っか部分の先端を錠の穴に力づくで押し込んだ。


 錠は上手い具合に元通りかかっているように見える……がよく見ると歪んでいる。

 リョウはちょっとだけ首を傾げた、がそのままにしておいた。


「俺たち泥棒みたいだよな」

 アルマが囁く。


「泥棒そのものでしょ」

 諦め顔のセラがそう呟いた。



 その時、小隊長室のドアが開いた。

 








 

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