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青の年代記〜山奥で仲間とひたすら修行した少年が、いつか英雄になる話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

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陽暦1490年7月〜騎士実習⑩

 一行は、24時間の当番勤務を終え、一旦騎士団本部に戻る。

 身支度を整え、マーカム小隊長たちは、団長に報告に向かう。

 "石"密売に関する現状と、ポンド詰所に関する疑惑を報告した。



「ポンド詰所の所長は、パレス小隊長だな」

 バルガン団長は嫌そうに言う。

「そうです。あのパレスです」

 ライリー副団長も顔をしかめている。


「パレス小隊長ってどんな人すか?」

 リョウはライリー副団長に聞いてみた。


「一言でいえば、子爵の息子。コネで入った騎士だよ。貴族の代弁者みたいな動きばかりして、その上セクハラ、パワハラの常習者で、結構邪魔な存在になってしまっている。人事面ではレオニード公爵から守られていてクビに出来ない。騎士団のお荷物の一人だ。ま、そんなのがまだ騎士団の内部に複数居るんだからやってられんのだが」

 日頃の鬱憤でも溜まっているのか、ライリー副団長は若干早口だ。


「パレス騎士は大それたことまでは出来ない小物だが、頭は結構回る。俺や副団長から聞いてものらりくらり言い訳して終わりだろう。決定的な追及材料が必要だ。騎士団の身内で残念ではあるが、内偵捜査するしかあるまいが……」

 バルガン団長は思案する。

 そして、ハッとしてニヤリと悪い顔になる。

「証拠が無い?ならボロを出させればいい」

 呟く団長。


「内側から探れ。アルマ、リョウ」


「えっ!」


「実習場所の配置換えだ。お前ら明後日からポンド詰所勤務な」


「そんなことして大丈夫なんですか?変じゃないですか?」


「正式に通達しておく。団長の気まぐれ人事ってやつよ。他の実習中の276期生も一斉に動かすからおかしくないぞ」


 リョウはそれはやり過ぎではないかと思ったが、パレス小隊長の懐に自然に入られるのは悪い話じゃないと思う。

 アルマは「やっぱり面倒くさいことになった」と思っていたが、諦めて何も言わなかった。



 そこから急ピッチで団長名の通達が発出され、実習生たちの実習先が急遽変更された。



「せっかくノーグル閣下の御子息とお近づきになれたと思っていたのに、もう変更だと!」

 ポンド詰所にパレス小隊長が出勤してきたところ、いきなりの団長通達に苛立ちを隠せない。

 平民出身が団長などとそもそもが間違いなのだが、あの男は何を考えているのかさっぱりわからない。


 パレス小隊長は54歳、小太り、小柄、頭頂部が薄い三白眼の男だ。

 この年になると人間性が外見に顕著に現れてくるが、その滲み出る陰湿さから、贔屓目に言っても人から好かれるような見た目はしていない。


 先日パレス小隊長のいるポンド詰所に実習に来たのは、レオニード公爵の参謀“ヴァルター・ノーグル”の息子「グスタフ・ノーグル」一行だったので、パレスは部下ともども気合いを入れて接待していたのだが、1日だけでは顔を売りたくても印象が薄かったように思う。

 本来なら今日は実習中のグスタフに手柄をお膳立てしようと接待業務を画策していたのだが、空振りになってしまった。

 先般もヴァルター閣下からの指示を受けて特別に動いていたのに……。



 しかも今日から実習に来るのは、どこの馬の骨とも知れぬ平民出身の3人、相手する価値のない奴らだったので、パレスは気落ちしていた。

 正直なところ、貴族出身の騎士以外全く興味がない。

 ムカつくから嫌がらせの一つでもしてやろうかと考えているところだ。



「お疲れ様です!本日からお世話になります276期実習生のアルマ、セラ、リョウです。よろしくお願いします!」

 アルマがポンド詰所に入るなり、大声で元気よく挨拶をする。


「あー……そんなデカい声じゃなくても聞こえるとるよ。俺はここの小隊長のパレスだ。お前らに興味はない。というかむしろお前らが来たせいでこっちの計画が狂ったわ……オホン。先輩らの邪魔をしないように適当に過ごしてろ。ダイト、平民同士仲良く相手してやれ」

 パレス小隊長はチラリと3人を見る。

 途中、セラは全身を舐め回すかのような視線に晒されて身震いした。


「ウス。着いてきな、管内を案内してやる」

 ダイトと呼ばれた30歳くらいの騎士が面倒くさそうに手で3人に合図を出す。



「ダイト先輩、パレス小隊長っていつもあんな感じですか?」

 詰所の外でアルマがダイトに聞く。


「そうさ、あのオッサンは貴族の話しか興味ねぇんだ。小隊の部下もほとんど貴族の子弟にしてしまって、俺みたいな平民出身は肩身が狭くてたまらんよ」

 外に出た途端、ダイト騎士の表情はくだけて、気の良い青年といった風に素を出してきた。


「うぅ〜、さっきの視線が既にセクハラです……」

 セラが心底イヤそうに言うとリョウも頷く。

「見てて気色わるかった」


「あのオッサン、色っぽい好みの女だったら何だかんだ口実付けて手とか握ってくるからな。良かったな触られなくて」

 ダイトは悪気無く言う。


「そ、それは良かったかもですが、なんかムカつきますね」



 ダイト騎士は真面目に先輩としてポンド詰所管内であるノース地区の西側を案内してくれる。


 通行人の多い出店の並ぶ大通りの途中で10人くらいでたむろしている不良少年たちを見かける。

 いずれも歳の頃は17、18といったところか。

 20メートルは離れている。

 少年らもリョウたち騎士に気付いた。


「おっ、アイツらこないだレントたちと喧嘩してた奴らじゃないか」

 リョウが気付くと、その場からそそくさと立ち去ろうとする少年らを追いかける。 

 リョウのその躊躇のないダッシュに少年らは反応が遅れ、うちの1人はリョウに肩を掴まれて動けなくなってしまった。

 リョウの動きと展開の早さに呆気に取られているダント騎士だが、その不良少年は知っている顔だった。

「お前ノッブだな」

 ダント騎士が名前を言うと、ノッブと呼ばれた少年はしかめ面になった。


「なんだ!クソ、コイツ、動けねぇ!」

 肩を掴まれているだけなのに、動きが完全に制御されてしまっていてジタバタ出来ない。

 動こうとする方向を察知して、逆の方向にリョウが誘導して体の自由を効かなくさせているのだが、この場では誰もわからない。


「まぁまぁ、ちょっと話を聞かせろよノッブくん。こないだお前らウエスタン地区で喧嘩してたろ、レントらと」


「あんときの騎士か!」


「ちょっと所持品見せな?」


「誰が!任意だろうが、協力なんかしねぇ」


「アルマさん?いかが?」


「ズボンの右ポケット気にしてるね」


 その言葉を聞き、ニヤりとするリョウ。


「最近巷では悪いクスリが流行っていてねぇ“石”ってんだけど。まさかそんなもの持ってたりしないよな?」

 

 その言葉に無意識のうちに不良少年はズボンの右ポケットに手を入れる。

 

「おやぁ?そのポケット気になるね。中身を見せてごらん?」


「誰が!」


「まあ、そう言わずに」

 リョウはそう言いながらノッブの右手首を掴むと、無造作に引っ張った。

 どう見ても軽く引っ張っただけだが、ノッブの手はポケットから引っ張り出されてしまった。

 ノッブからすると抵抗する気まんまんだったのに、いつの間にか手が出てしまっていて自分でも驚いた。


「任意だけど、逃すとは言っていない」

 リョウの動きは一見無造作に見えたが、相手の力とぶつからない方向に円を描いて引っ張っていた。


「何しやがった!クソが!」

 手の内に握っているものだけは死んでも放すまいと握り込むノッブ。


「協力してくれてありがとねー。物分かり良くて助かるわ」

 周囲の通行人らにそうアピールしながら、リョウはノッブの握り拳の下、手の甲をポンと叩いた。


「うっ」

 手の甲の神経が集中する場所をピンポイントで痛打され、痺れて指の力がぬけるノッブ。

 手の中から紙に包まれた何かが出てきたので、さっとアルマが掠め取る。

 包みを開けて中を見ると青い錠剤が入っていた。


 ダント騎士が目を見張る。

「こりゃ“石”だよ。ちょっと調べるぞ」


 ダントはそう言うと、腰に着けていたポーチの中から折りたたんであった20センチくらいの長さの紙切れを取り出す。

「コイツは違法薬物を認識すると光る魔力護符よ。結構貴重な代物なんだぜ」

 そう言いながら護符を錠剤に近づけると、護符はうっすらと黄色く光った。

 

「ノッブ、お前を違法薬物の所持の現行犯で逮捕する。今から詰所に連行するからな」


「汚ねぇぞ、無理矢理だ、そんなの許されねぇ」

 大声で喚き散らすノッブ。


「なんも無理矢理なことなかったぞ!」

 周りで見ていた通行人のオヤジがヤジを飛ばす。

「そうだそうだ!」

 捕物を見物していた他の者たちも口々にリョウたちの職務執行に援護射撃を送る。

「違法薬物持ってるなんて許されねえぞ!」

「最近あのクスリで人が死んでるんだぞ!」

「任意もクソもあるか!」

「騎士様、もっとやってやれ!」



「だそうだ。大人しくしとけ」

 ダント騎士の言葉にしゅんとなるノッブ。


「さて、口を割らせるだけじゃ足りないぞリョウ」

 アルマがリョウに言う。


「いやいや、ここからはアルマの出番でしょ?頑張ってくれよ?」


「お前ら、ただの実習生じゃねぇな……」

 この2人がなんの話をしているかダント騎士は分からなかったが、この2人に何らかの思惑があるのは感じられ、少しわくわくしていた。

 

 




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