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青の年代記〜山奥で仲間とひたすら修行した少年が、いつか英雄になる話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

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陽暦1490年7月〜騎士実習⑨

 マーカム小隊長たちはシンス詰所に戻ってきた。

 皆を集めて状況を説明する。

 マーカム小隊長の悪い予感まで含めた説明に、騎士たちの間にも緊張が漂う。



「エンリケ一家に殴り込まなかったのエラいね」

 アルマがリョウをからかうように言う。


「暴力では全ては解決しないのです。そんなことも分からないのですか」

 リョウが真面目くさった顔で言い返し、横で聞いていたセラが笑う。


「リョウくん、じゃあどうなるのこの後は?」

 セラも状況が大事になってきた雰囲気を感じ取って気になる。


「小隊長とルカの盗賊ギルドで話を聞いてくるよ。もちろんアルマも行くことになるけど」


「おい」

 ギョッとするアルマ。


「一緒に行こ?裏社会見学。イヤっつっても連れてくんだけどね」

 


 そのまま盗賊ギルド"天の鍵"に事情聴取に向かうことになったが、メンバーはマーカム小隊長、リョウ、アルマ、それとリックというベテラン騎士を含めた4人になった。

 ハクヤも不測の事態に備えて屋根の上で待機させる。


「またあそこ行くのか」

 アルマが嘆息する


「お前がいると便利だからな」

 マーカム小隊長がアルマの肩を叩くとアルマは嫌そうな顔をする。


 その他一緒に行くリック騎士は30代半ば、痩身、人より少し背が高いキリリとした中年だ。

 首や腕が太く筋張っており、リョウの目から見ると、剣術の達人のような身のこなしが垣間見えて、荒事にはめっぽう強そうだと感じる。

 普通の賊などに遅れを取るようなことは絶対になさそうな佇まい。


「リョウ、得意な武器は何だ?」

 リックもリョウの体つきが尋常じゃなく、その強さが気になっている。

 リョウの耳は寝技師のようにふっくら変形しているが、立ち姿の重心が掴み合いに特化している風でもなく、何の動きにも対応出来そうだ。


「爺ちゃんにいろいろ習ったんで、剣、槍、弓など一通りは……でも1番修行したのは無手ですね。結局、体を動かすのが一番性に合ってます」

 どこか懐かしむようなリョウの表情。


「ちょっと試すぞ」

 そう言うや否やリック騎士の眼光が走る。

 突然リョウの首筋を狙って右の手刀で横から薙いだ。

 全く起こりの無い自然な動き。

 居合いの実戦速度で打ち込まれた一撃。

 

 常人なら脳を揺らされて昏倒必至の手刀だったが、リョウは少しだけ左にずれ、その手刀を左手の人差し指と親指で摘んで停めた。

 そのまま即座に小手返しに移行しようとしたが、リック騎士は驚きつつも手刀を引いてリョウの手を放させる。

 その時バチン、という音がした。


「お前凄いな。いつか一緒に稽古しよう」

 リックの表情からは武人としての尊敬が見て取れた。

 摘まれた手をちょっと痛そうに振っている。


「ぜひ」

 リョウからしても先の一撃はかなり鋭かった。

 強い人って結構いるもんだな、と再認識する。


 また、頼りになる先輩がいて心強く感じる。

 ただの戦闘ならいつでも負ける気は無いが、状況判断しながらの法に則った力の行使はまだまだ経験不足なのは自覚しているところだ。



 一応普段着で気を使っている4人がウエスタン地区の盗賊ギルド"天の鍵"に到着したところ、すでにかなり遅い時間だったが、酒場なのでまだ複数の客で賑わっていた。


 リョウがドアを開ける。

「いらっしゃいま……チッ」

 可愛いウェイトレス姿に扮していた頭目のルカが一気に嫌な顔をする。

「お客様じゃなかったら、帰ってくれません?忙しいので」

 一般の客がいるのか、いきなり正体を現すことなく、一応女性の振りを続けているが、露骨に嫌そうだ。


「まあ、そう言いなさんな」

 マーカム小隊長が柔和な表情でルカに近づき、「“石”とレントの話なんだが」

 とルカに対して小声で囁く。

 一瞬動きが止まるルカ。


「いやですけど、こちらへどうぞ〜」

 ルカは無理やり笑顔を作って奥の部屋に一行を案内した。


 

「さて、聞かせな」 

 変身と言って差支えない素早さで女装を解き、黒いスーツ姿に変わったルカは、据わった眼光でマーカム小隊長を睨む。


「お前さんとこの下っぱレントだが、どうやら"石"の密売バイやらされてるっぽいぞ」


「ほお?それを俺に教えてどうする?ウチの流儀はクスリを扱うヤツは即処分だぜ。これまで例外なくな」


「子供でもか」


「クスリを売るやつはもはや子供ではないな」


「脅されているとしてもか?」


「そこだ。分かってる情報をよこしな」



 マーカム小隊長がかいつまんで説明する。

 

 孤児院の"明日への扉”という単語にビクッとなり動きが固まるルカ。

 

 話を聞くうちにルカは呼吸が少し荒くなり、タバコに火を点ける。


 一服して落ち着いた振りをしているが、顔は紅潮して額の血管が浮き出ており、いつもの冷静さがかき消えている。


 大きく深呼吸しながらタバコを一気に吸い、大量の紫煙を吐き出した後、ルカは地獄の底から聞こえてくるような低い声で

「エンリケの野郎……」

と呟いた。

 


 マーカム小隊長も思わぬルカのその反応に少し焦る。

「どうかしたのか……?」


「……何でもねぇ」


 精神感応力のあるアルマには、ルカの怒りが魔力を使わずとも伝わってきた。

 そして"明日への扉"を心配している気持ちが剥き出しのアルマの心に痛いほど突き刺さる。


 思わずアルマの口から出る。

「あんたまさか孤児院の出資者か」


「!!?」

 驚いて目を見開くルカ。


 この新米に何か言わねばと思うが、動揺したのか口が開いたまま言葉が出てこない。


 凄まじく複雑な感情がルカの心から噴出する。

 ルカの脳内を"なぜ知られた!?始末するか--化物がいる無理だ。エンリケ潰すか--クソ、もう誤魔化せねぇ"などと瞬時に渦巻いて……収束した。

 

 ルカの不穏な気配にリョウがやや前重心になり臨戦態勢をとる。

 リック騎士はいつでも来い、と言わんばかりにその目が爛々と輝いている。



 ルカは覚悟の決まったトーンで全員の目を交互に見ながら告げる。

「オーケイ、この話がよそに漏れたら……この街がお前ら4人分広くなることになるぜ。だが黙っていてくれたら悪いようにはしねぇ」

 

「分かった。今後ともお互いに何事もなく協力関係でいこうじゃないか」

 マーカム小隊長は額に冷や汗を浮かべながら3人の部下に「分かったな、他言無用だぞ」と申し向けて念を押す。

 神妙に頷く3人、だがリョウだけはそんな中、何でも有りで暴れてみたらどうなるか考えていた。



「物分かりが良くて助かるぜ」

 ルカの雰囲気から剣呑さが薄らいでいく。

 

 マーカム小隊長は落ち着き、ゆっくりと告げる。

「さて、この件だが、とある理由があってエンリケ一家の裏にまだ上がいると俺は思っているが、それが分かるまで潰しあいはやめといてくれ」


「ああ、いいぜ。こっちからも探る。何か分かったらネタ交換だ。連絡するからこの4人だけでまた来な」

 ルカの底冷えする眼光は、きっと自らのタブーに触れたヤツらに向けられたものに違いなかった。



 帰り道すがら、マーカム小隊長はアルマに言う。

「さっきは肝が冷えたぞ。たまたまいい風に転がったみたいだから良かったけど、お前の能力、用心しないとな」


 アルマもしゅんとしている。

「すいませんでした。突然デカい感情にあてられて黙っていられなくなってしまいました……次から用心します」


 マーカム小隊長は頷いてアルマの肩をぽんと叩く。

「それにしてもお手柄には違いない。さあ、次はポンド詰所のアイツがなぜ相談対応しなかったのか、理由を探るとしよう」



 




 


 



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