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青の年代記〜山奥で仲間とひたすら修行した少年が、いつか英雄になる話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

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陽暦1490年7月〜騎士実習12

「物音がしたが、誰かいるのか?」

 ドアを開けて、中を覗き込んだのは、キース騎士だった。

 手に蝋燭を持っている。

 3人に気付き、明らかに不審がっている表情だ。


 リョウは咄嗟に隠れようと考えたが、セラとアルマがいてはどうしようもない。

 どうにかこの場を誤魔化す方向でいくしかない。

 セラとアルマを見ると二人ともリョウを見てくる。


「どうしたんすかキース先輩?」

 しれっとした顔を作ってリョウが先に声をかける。


「お前らこそなんだ、こんな時間に。灯りも消して」


「いや、今灯りは点けますよ。詰所内を全部掃除しようと思っていたんです。下っ端として当然だと思っているので。ちょっと広すぎるので何時に起きてやればいいか分からんから、早めに取り掛かろうって話になって」

 リョウはちょっと無理があるか、と思いつつ言い訳した。

 アルマたちを見ると、2人とも不審なほど何度も頷いてくる。


「あ、わ、わたし雑巾取ってきます」

 セラが離脱を試みる。


「ちょっと待て」

 キース騎士はリョウの言葉と三人の態度が明らかに不審だと感じている。

 しかし、見回しても周囲にどこもおかしな様子はない。


 大事な扉書棚の南京錠もかかっている。

 手に取ると錠の輪が少し歪んでいるように見えるが、上下に引っ張ってみてもカギはかかったままだ。

 その他にもリョウたちの周囲を歩き回りながら、じっと辺りを確認するが、散らかったりはしていない。


「変なもの持ち出したりしていないよな?」

 キース騎士はアルマのズボンのポケットを上から叩くが、何も入っていないようだ。

 先ほどの証拠の手紙とメモはリョウのズボンのポケットに入っている。

 このままではリョウも調べられ、見つかるかもしれない。


「あ!」

 リョウは出入口ドアを大袈裟に注目する。


 釣られて咄嗟に振り向くキース騎士。


 リョウはその瞬間、全神経を集中して全速力でポケットから手紙とメモを取り出して、セラの背中にシャツの下から手を突っ込んで隠した。


 ”そこ!?“

 あまりの速度と紙の冷たさ、ガサっとした感覚に驚き、目を白黒させるセラ。

 手紙等は下着の背中の紐に引っかかっているようだ。

 心臓がバクバクし、声が出そうになるが、意図を察して必死に息を止め我慢した。


「なんだ、何もいないぞ」


「見間違いでした。幽霊がいたかと思っちゃった」


「ふん」

 キース騎士は鼻を鳴らし、リョウに向き直ると、ポケットの上から手で叩いて中を調べる。

 セラの顔を見て少し躊躇するが、念のためと思いセラのズボンのポケットも軽く調べる。

 背中の手紙等が動かないように背筋を伸ばしたまま固まって我慢しているセラ。

 


「なんか気になる態度だが、まあいい。掃除は朝方みんなでやるから、お前らもう一回寝ろ」


「はいっ、先輩お気遣いどうもありがとうございます。じゃあ、部屋に戻ろう」

 無闇に返事の良いリョウ。

 揃って部屋から出ようとする。


「ちょっと待て」

 急に引き止めるキース騎士。


 ギクっとして立ち止まる三人。

「な、なんですか?」


「俺は、違法薬物は撲滅せねばならんと思っているんだ」

 少し俯いて呟くキース騎士。

 昼の自分の職務執行に対する自責の念があるようだ。


「そうでしたか……では、失礼します」

 三人は、何も言えず、小隊長室を後にした。



 三人は一旦話し合い、鎧を身につけてポンド詰所から外に出た。

「はぁ〜、バレるかと冷や汗かいた」

「ほんとよ!」

 恨みがましくリョウを上目遣いで睨むセラ。



 三人はそのまま走って騎士団本部に向かう。

 30分ほどで本部に到着する。

 アルマとセラは息が上がっているが、リョウに先導され、団長宿舎に直行する。


「こんばんは!おはようございます!バルガン団長起きてください!」

 ここで躊躇していても意味がないので、玄関を叩きながらリョウが大声で叫ぶ。


「なんだー!火事か?それとも大事件か!?」

 バルガン団長が慌てて寝巻き姿で出てくる。

 リョウたちを見て少し落ち着く。


「お前らか、どうした?」

「まずは、これを読んでください」

 証拠の手紙を差し出すアルマ。


 眠そうな目を擦って黙って手紙を読み進めるバルガン団長。

 すぐに目が見開かれる。


「……えらいもんを見つけてきたなお前ら……こいつぁ内戦の火種になりかねんぞ……ちょっと待ってろ」

 そう言ってバルガン団長は宿舎の中に戻り、筒状の道具を持ってきた。


「これは魔法研究所で作ってる風魔法の魔道具“風話器”だ。買うと豪邸が10軒は立つほどのシロモノよ……。おお、ライリーか。今から法科のドレル教官、軍略のブラン教官集めて本部団長室集合な。説明はそこでする」

「分かりました」

 ライリー副団長の声が風話器から聞こえてくる。


「おお、こんな便利な魔道具が」

 といいつつのリョウだが、何となくこんな物の存在について既視感がある。

 

「魔道具はいつも各国で開発合戦よ。お前ら、先に団長室に行ってろ」

「はい!」


 三人が団長室で30分ほど待っていると、団長たちが仕事の格好で現れた。

 

 実習生三人から事情を聞き、みなで状況を整理する。

 法科のドレル教官、軍略科のブラン教官は初耳な事ばかりだったが、すぐに状況を理解する。


「……なるほど、パレス小隊長の処遇をどうするか、朝までに決めないといけないのですね。法科からは、職務に対する背任行為で処断しても全く問題ないと考えます」

 40代の、神経質そうな痩せ型のドレル教官はそう言う。


「軍略科の視点からです。本件はライデル伯爵からレオニード公爵までつながる話ですが、ここは一旦置いておいた方が得策だと考えます。ライデル伯爵とエンリケ一家との繋がりを証明するにはまだ証拠が少ないです。事前にエンリケ一家の管理地に有るであろう大量の“石”の現物を押さえるべきかと。そこから先、騎士団としてライデル伯爵と表立って戦うかは団長次第ですが、内戦の引き金になりかねないので軍略科としては現状ではおすすめ出来ません」

 小柄で優しそうな50歳くらいの眼鏡をかけた丸顔のブラン教官はそう進言する。


「ふむ、二人とも俺と概ね同意見だな。じゃあ、騎士団としてはとりあえずエンリケ一家まで上る。ライデル伯爵は一旦保留でいくぞ。ライリー副団長、とりあえずポンド詰所に朝駆けでカチ込む。特命騎士を10騎準備してくれ」


「承知しました。午前6時に本部を出発できるようします」

 そう言うとライリー副団長は団長室を出て行った。


「それにしても、早速お前らお手柄だったな」

 バルガン団長が三人を見つめる眼差しには期待と敬意が滲んでいた。


「いいえ、運が良かっただけっすよ。パレス小隊長の態度には違和感しかないんで」

 リョウがそう言うと、アルマもセラも頷く。


「これから急ぎながらも、水面下で慎重に事を運ぶぞ。エンリケ一家は真っ先に、ライデル伯爵もいずれぶっ潰してくれるわ。騎士団を舐めやがって……」

 蝋燭の灯に照らされたバルガン団長の口の端が上がった笑みは、実習生たちにはとても法の執行者とは思えない凶悪なものに写って見えた。




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