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青の年代記〜山奥で仲間とひたすら修行した少年が、いつか英雄になる話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

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陽暦1490年7月〜騎士実習⑦

「入ります」

 リョウが話を聞いて取調べ室に戻ったとき、マーカム小隊長とレントは笑いながら何か喋っていた。

 もともと知り合い同士かのように打ち解けている。

 この短時間に何があったのか、リョウには分からないが、自分と隊長とでレントの態度がめっきり違うのにショックを受けた。


「おう、リョウ。アルマを呼んできてくれ」


 小隊長から言われて、リョウはアルマを呼んで戻ってきた。

 小隊長がアルマに目配せをすると、アルマはリョウの背後でこっそり目を閉じて精神を集中し始める。


「ところでレント、今日おまえらがケンカしていた理由はなんだ?なんで揉めてる?」

 小隊長が問いかけるが、レントは答えない。


「なんでもねーよ」

 レントは急に不貞腐れ、うつむいてしまった。


 小隊長がアルマを見ると、アルマは少しうなずいた。


「まあ、今日は、お前ら帰っていいぞ」

 マーカム小隊長がレントに言うと、レントは顔を上げて明るい表情になった。

「ふん、別になんもしてねぇからな」

 

 

 レントたちは詰所の出口に集められ、先輩騎士たちから「もうケンカすんなよ」と最後の説教をされ、解放された。

 今日連れてこられた4人でまとまってスラム街の方へ歩いて行く。

 もう夕方で、やがて陽が落ちる頃だ。



「小隊長、あいつやっぱり“石”ってキーワードを考えてましたよ」

 アルマが報告する。

「やっぱりか。もう間違いねぇなぁ」

 マーカム小隊長が難しい顔になる。

 

「小隊長、ハクヤにこっそり後をつけさせて良いですか?」

 リョウがマーカム小隊長の耳のそばで小声で言う。


「そんなことが出来るのか?出来るならありがたいが」

 半信半疑な顔をするマーカム小隊長。


「はい……ハクヤ、屋根伝いに、バレないよう、アイツらがどこに行くか調べてきてくれない?」

 じっとハクヤの目を見ながら伝えるリョウ。

 ハクヤは即座にその場でフワッと跳躍し、屋根の上に静かに飛び乗った。


 大型の猛獣なのにまるで足音がせず、人々から死角になるような場所を選んで屋根の上をスルスルと歩いて行くハクヤ。

 歩きながらハクヤの体からひんやりとした霧状の白いモヤが出てきて、ハクヤの白い体を目立たなくさせて行く。

 暗くなるから、さらに目立たなくなるだろう。


 マーカム小隊長は開いた口が塞がらない。

「凄いな」


「ハクヤが戻ってきたら、アイツらの行き先まで案内させます」

 リョウはハクヤが褒められて少しドヤ顔になっている。


「……今日は無理はできん。俺とおまえの2人でこっそり行こう」


「了解です」

 リョウは俄然やる気が出てきた。

 緻密な捜査や機微な会話の取調べより、やっぱり自分は体を動かしていた方が楽しいと実感している。



 マーカム小隊長が詰所内に皆を集め、情報を共有する。


「あの不良グループは薬物“石”の売買をしていると推定される。そして、対立するグループと何らかの理由で争っている。現在、奴らの行き先を実習生リョウの従魔が調査中だ。ヤツらは、上役に報告に行く可能性がある。リョウも従魔が帰所次第、俺とリョウでその場所を確認してくる。今日はそこまでだ。皆は通常業務をしながら過ごしていてくれ」


 マーカム小隊長が現場を簡潔に説明すると皆少しざわついたが、皆すぐに「了解!」と返事をして通常業務に戻った。



 ハクヤが1時間ほどで帰ってきた。

 マーカム小隊長もリョウも目立たないように私服に着替えている。


「よーしよしよしハクヤ!えらいぞ」

 リョウがハクヤの頭とアゴの下を同時に撫でくりまわすと、ハクヤは目を細め、喉をゴロゴロ鳴らす。


「じゃあ案内してくれ」

 リョウがそういうと、ハクヤはスタスタと歩き始める。


「完全に人語を理解してるな……魔力でつながってない従魔でこんな賢いのは初めて見たぞ」

 マーカム小隊長も舌を巻くハクヤの有能さ。


 

 しばらく歩いているうちに、マーカム小隊長の表情が曇る。

 どんどん薄暗い裏通りに入って行く。

「おいおい、ノース地区のスラムに入っちまうぞ。どういうこった、アイツらの縄張りはウエスタン地区じゃねぇのか……?」


「変な話なんですか?」

 リョウにはピンとこない。


「ああ、アイツらずっとウチのウエスタン地区で、盗賊ギルドの下っ端としてスリやら置き引きやらやってきていたんだが……」


「ウエスタン地区の盗賊ギルドって、ルカっていう頭目のギルドですよね?」


「おっ、知ってたか。“天の鍵”って名前のギルドだ」


「得体の知れない男でした」

 以前、ルカの武術的な強さを見ても測れなかったので、リョウはルカを警戒している。


「そうだ。王都にはいくつか盗賊ギルドがあるが、アイツのところ“天の鍵”はどっちかって言うと武闘派だな。対立する勢力は武力でねじ伏せてのしあがってきている。ただし、薬物の密売だけは毛嫌いして行なっていないはずだ」


「そしたらノース地区のギルドはどうですか?」

 リョウが小隊長に質問する。


「ノース地区の盗賊ギルド“エンリケ・ファミリー”はなんでもござれの悪党集団よ。ただ、やり過ぎないし尻尾を出さない狡猾な集団だ」


「二つのギルドは対立してたりしますか?」


「……いや、そんな話は聞かないし、多分ないな」

 マーカム小隊長は少し思案して答えた。



 ハクヤがとある3階建ての建物の屋根の上で止まって、ここだと言わんばかりに腹ばいになる。

 この建物は人の気配はするが、静かだ。

 窓も全部閉じている。

 人の気配があるのに明かりが一切漏れておらず、少し違和感がある。

 入口には見張りと思しきチンピラが椅子に腰掛けているが、なぜだかボーッとしており警戒している風には見えない。



「まさかとは思ったが、レントたちは“エンリケ・ファミリー”に来てたか……」

 少し外れた場所でこっそり建物の様子を窺いながら、小隊長は眉根を寄せて難しい顔をしている。


「ルカんところの下っ端が、一体なんのために?“石”とやらと関係があるんですかね。ルカの方針とは違うけど」

 リョウの何気ない一言。


 マーカム小隊長も関係性は分からないが、今回わりと複雑な事情でもありそうだと見当をつけ始めた。


「わからねぇが、こんなとき大抵ロクなことにならねぇ。この件で人死にが出なきゃいいが」



 

 

 

 

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