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青の年代記〜山奥で仲間とひたすら修行した少年が、いつか英雄になる話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

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陽暦1490年7月〜騎士実習⑥「平民街」

 「ライデル伯爵家使用人拉致事件」が落ち着いた頃、リョウ、アルマ、セラの3人は平民街の詰所での実習を行うことになった。


 平民街の詰所は街の要所に点在しており、地理教示や遺失・拾得、盗難事件の対応、揉め事の仲裁や各種相談受理など、対応すべき現象は多岐に渡っている。


 リョウたちは、スラム街にほど近い、ウエスタン地区のシンス詰所で勤務することになった。

 朝から翌日の朝まで、丸一日勤務する三交替制勤務だ。

 この場所はいわゆる繁華街を管轄しているため事案が多く、シンス詰所にいる先輩たちは合計17人もいる。



 「おっ、来たか!噂のお手柄実習生たちだな。よろしく頼むぞ。俺はここの小隊長をしているマーカム・ブリッジズだ。おー!ユキヒョウたあイカつい従魔だなおい!」

 午後2時、リョウたち3人と1匹が詰所に到着したとき、詰所内は閑散としていた。

 小隊長と伝令役の若手男性騎士の2人しかいない。


 ブリッジズ小隊長は50歳くらい、ガッチリ体型、茶色の短髪、鼻髭をたくわえた中年だが、眼光がギラついており、まだまだバリバリ動けそうな現役感を出している。


「ハクヤです。女の子です」

 イカついと言われてなんとなく察して落ち込んだハクヤを慰めるため、リョウがフォローする。


「そうかそうか。失礼、ハクヤさん」

 と言いながら小隊長はハクヤの背中やアゴの下を撫でてやる。


「悪いな、今、たまったま三つある分隊が全員事案で出払っていてな。しばらくすると帰ってくると思うから、書類でも見て勉強していてくれ」


「承知しました」

 リョウたちは素直に各種届出の書類を見て勉強しながら過ごしていた。


 すると30分程で騎士たちが1人のしょぼくれた中年男に縄をかけて戻ってきて、奥の取調べ室に入れた。

 どうやら窃盗の現行犯人を逮捕してきたらしい。



 かと思うと、別の分隊の3人が、帰り道が分からなくなったという小さな老女を保護してきた。

「あー!こないだの!たしかシナン街のミランダ婆さんだ」

 知っている人がいたらしく、こっちはスピード解決しそうだ。


 

 そこでああだこうだ言っていると、「多人数の喧嘩があっています!」といって若い男が詰所に飛び込んできたので、手が空いていたリョウたちは先輩たちと一緒に外に駆け出して行った。


「なんか忙しいな」

 リョウは走りながらも、貴族街との違いに軽いショックを受けている。


「毎日こんななの?」

 セラも一生懸命走りながらついて行く。


 アルマはまたここでもこき使われる予感がして、陰鬱な気分で無言になっている。



 2分後、詰所から出てきたリョウたち一行6人は、案内されるまま、町外れの公園内で、少年2グループによる喧嘩現場に到着した。

 一見して20人くらい、いわゆる不良少年たちが、お互いにワーワー言いながら掴み合ったり殴り合ったりしている。

 中には小さめのナイフや鉄の棒などの凶器を持っている者も複数おり、激しく揉めている。


 リョウは、遠目からだが、何となくちょっとした小競り合いより凶暴な段階の喧嘩だなと感じていた。


 しかし、その中で、リョウたち騎士が近づいて来ることに気付いた者らが口々に叫ぶ。

 

「げっ、イヌどもだ!」


「ヤバい、ズラかれ!」


 おかしな髪型や服装をしたリョウと同世代か少し年下の少年たちは、喧嘩をやめて散り散りに逃走し始めた。

 

「おい!待て!」

 先輩騎士たちがそれぞれ追いかけて行く。

 リョウもそれを見てダッシュし、現場でひときわ暴れていた赤髪の少年の腕を掴んだ。


「放せくそイヌが!」

 暴れながら悪態をつく少年。

 全力でリョウに掴まれた腕を振りほどこうとするが、びくともせず無理だ。

 

「都会のガキんちょは生意気だなー」

 リョウは少年の腕を引き、手前に体勢が崩れた瞬間に足払いをかけ、相手をケガさせないように地面に腹ばわせた。

 そのまま左手で相手の左手を掴み、右手で左右の肩甲骨の中心辺りを指でおさえる。

 ついでに右膝で相手の腰辺りに体重をかけてやる。


「ぐえっ!」

 生意気な少年はしばらく全力でジタバタしていだが、やがて疲れて抗えなくなって大人しくなった。



 リョウはその少年を腕力だけで立たせ、先輩騎士たちのところに連れて行く。


「おっ、レント、今日は捕まったか」


「うるせぇ」


 先輩騎士が顔見知りのようで、赤髪の少年に声をかけるが、レントと呼ばれた少年はつばを地面に吐いて悪態をつく。


 その瞬間、リョウは後ろから間髪入れずレントの頭を平手で軽く叩いた。

 ベシっという乾いた重い音がした。


「がっ!」

 痛くはないが思わぬ重さの一撃に面食らうレント。

「何しやがる!」

 振り向いてリョウの顔を睨もうとする、が、リョウの隙の無い目付けと、迫力のある体型に気圧されてしまった。


「あんま調子乗んな」

 得体の知れない迫力に、黙りこくってうつむくレント。



 その場で4人の少年が捕まり、そのまま詰所まで連れて行かれる。

 道すがら簡単に話を聞くが、それぞれがつまらない嘘をつくので要領を得ない。


 詰所の別々の部屋で話を聞くことになり、そのうちのレントはリョウが継続して担当することとなった。

 取調べ室内で複数人による所持品検査を行った後、奥の椅子にレントを座らせ、机を挟んでリョウは相手の目を見ながら話し始める。


「オレはリョウ。レント、よろしく」


「よろしく、じゃねーよ。叩いたの忘れてねぇからな」

 椅子に斜めに座り、不貞腐れているレント。


「こまけぇことは気にすんな。なんでさっきケンカしてたんだ?」


「じゃれて遊んでただけだ」


「あいつらは知り合いか?」


「知らない奴らだねぇ」


 リョウはため息を一つつく。


「なんだ?腹でも減ってんのか?水飲む?」


「ケッ!」

 レントはそっぽを向いて黙りこくってしまった。


  

 ドアにある覗き窓から中の様子を窺っていたマーカム小隊長が中に入ってくる。


「外で話を聞いてきな」

 にこやかな表情のマーカム小隊長に親指で促され、リョウは外に出た。



 廊下で先輩騎士たちが自分が聞いた内容を皆で擦り合わせている。

 そこに疲れた表情のアルマがいた。

 どうやらまた取調べの補助で精神感応の魔力を使わされているようだ。


「あ、リョウ」

 アルマの顔が一瞬明るくなる。

 

「アイツらなんの喧嘩なんです?レントが何も喋らないから分かんなくて」


 先輩騎士が説明してくれたが、どうやらノース地区のスラム街の不良少年グループと、レントたちウエスタン地区の不良少年グループが揉めていたようだった。


 その理由は一様に黙っているが、アルマが複数人から精神感応魔法で読み取ったところ、みな隠している事象として、「石」という言葉がキーワードとして上がった。


 先輩騎士が「石」は最近流行りの違法薬物のスラングだと教えてくれた。

 「石」は安価で効き目や依存性が強く、副作用としての幻覚や妄想が強く出てしまうためトラブルや事件に絡むことが増えてきており、問題になりつつある薬物だ。

 出回り始めて少し経つが、その流通経路は謎に包まれていた。

 

 どうやら、今回引っ張ってきているメンバーは皆、不審物件は所持していなかったが、違法薬物の販売等の容疑が出てきたようだ。


 事件の規模が喧嘩から急に大きくなってきたので、先輩たちも慌て始めている。


 


 

 




 

 


 

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