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青の年代記〜山奥で仲間とひたすら修行した少年が、いつか英雄になる話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

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陽暦1490年6月〜騎士実習④

 ヤモリを脅しながら先導させ、使用人を捕らえている場所を案内させたところ、そこは西の外れにある運河のある倉庫街の一角にあった。

 討ち入りのメンバーは先ほどと変わらず少人数だが、ライリー副団長にしてみればリョウがいるだけで過剰なくらいの戦力だと感じている。


 なお、少し離れたところにルカたちも着いて来ている。


 道中聞き出したところ、拉致した使用人の女はティナと言う名前で、ジェイナス王子派のスパイだったそうだ。

 反王子派であるライデル伯爵家で、その女が何らかの工作を仕掛けていたところ、伯爵にバレたという。

 そこで伯爵が盗賊ギルドに拉致を依頼し、女の雇い主まで吐かせてから、相手方に何らかの取り引きを持ちかける予定だったようだ。


 それをギルドを無視して独断で受けたのが煙の魔術師こと通称チップという訳だ。

 チップはギルド長であるルカのやり口に対して普段から「金に関してヌルい」等と不満を漏らしていたため、伯爵からの金払いの良い持ちかけに飛びついたようだ。


「貴様、嘘だったら運河に沈めるからな」

 ライリー副団長の脅しにすっかり心の折れてしまっているヤモリは力なくうなずいた。


「中が明るい倉庫の前に見張りがいるでしょう...あそこです」

 彼我の距離は200メートル。

 音は聞こえてこない。


「中に何人いる?」


「7人くらいのはずです」


「足りねぇな。残りはどこだ?」


「別行動してます」


「煙野郎はいるのか?どんなヤツだ?」


「居るはずです。30歳くらいで普通の体格。髪も服装も全体的に灰色っぽい感じ」


 そう聞くや副団長はヤモリの後頭部に手刀を落とし、声も無く気絶させてしまった。

 どうもこの男は荒事に慣れすぎているようだ。

 

 暗がりにサイ教官を呼んで突入の打ち合わせをする。

 最優先事項は騎士団員の命、次に使用人の身の安全。

 盗賊たちは出来るだけ殺さない。


 方針が決まった。


「リョウ、やってみろ」


「頼んだぜ、ハクヤ」

 リョウがハクヤの背中をぽんぽんと叩くと、ハクヤの周囲に濃い白銀の霧が立ち込め始めた。

 霧は広範囲に広がり、あっという間に周囲の視界が5メートル以下になってしまった。


「おおっ!なんと……ここまで……」

 ライリー副団長もハクヤの有能さに言葉が出ない。

 みんなでハクヤを撫で回して褒めちぎると、ハクヤは満足そうに目を細めて喉を鳴らした。


 その後サイ教官が霧の先端に闇魔法を重ね、霧を目立たなく周囲全体に溶け込ませる。

ただの影に見えるが、中は霧という塊が出来上がり、一行はその中で足音を殺しながら少しずつ静かに目的の倉庫に近づいていく。



「ふぅ、霧が出てきたな。冷えてきた」

 見張りの若いチンピラが1人呟く。

 ソイツは運河に向けて小便をし始めた。

 運河周辺に霧が出るのは良くあることなので何も警戒していない。


 ソイツが身震いをして小便を終えた瞬間、背後に忍んでいたリョウが裸締めで静かに気絶させた。

 

 地面に静かに置いて猿ぐつわを噛ませて縛り上げ、手で合図を出す。


 サイ教官が闇に紛れたまま、入口のドアをそっと開け、中を窺うと、倉庫の奥に椅子に座らされている半裸の女性がいた。

 年は30前だろうか、髪は乱れ、顔や肩などにアザが出来るまで殴られたりしてぐったりしているが、息はあるようだ。


 中はだだっ広い空間だが、階段が取り付けられており、二階の一部分が部屋になってそこから明かりが漏れている。

 周囲には男が5人。

 寝ていたり、ガハガハ笑いながら酒を飲んでいたりと油断している。


 すると、二階の部屋のドアが開き、怪訝そうな表情をした白髪の男が顔を出してきた。灰色っぽい服装で統一している男だ。

 すでに何か不審点を感じ、体に煙を纏っている。

 入口ドアを見て叫ぶ。


「テメエら、ドアから襲撃だ!戦闘準備!」


 サイ教官の闇魔法を一瞬で見抜いてハッパをかけたこの男がチップという魔術師に違いない。

 男どもは慌てて身の回りの武器を取り、いつの間にか開いていた入口ドアを注視する。


「意外に素早い立ち上がりだねぇ。優秀優秀」

 サイ教官は倉庫の中心までするするっと進む。


「なんだお前!騎士か!」


 サイ教官はそれには答えず、腕を十字に交差させ「闇天幕(ダーク・ヴェイル)」と呟く。

 急にサイ教官の周囲10メートルが闇のドームに包まれた。

 ティナのいる位置まですっぽりとカバーしている。


「魔術師だ!」


「ヤツは中心にいるぞ、弓を撃て。ナイフを投げろ!人質を奪われるな!」

 チップが的確な指示を出す、が、サイ教官はすでに闇のドームを置き去りに、椅子に縛られたティナの直近まで移動し、軽々と椅子ごとティナを抱え上げた。

 チンピラたちは闇雲にナイフなどを投げるが、全く的外れな場所ばかりだ。


「助けに……来ないで良かったのに……」

 ティナはか細い声で闇の中で抱えてくれているサイに言う。

 涙が一筋伝い、切れた口の端に沁みた。


「ボクら騎士団だよ。後でいろいろ聞くことになるから言える範囲で教えてね〜」

 サイ教官のいつもの人をくったような呑気な声が今のティナにはありがたい。


 ティナを抱えたまま闇のドームの中に紛れ、倉庫の入口ドアまで駆け抜ける。


「助けたよー!」

 サイ教官がのほほんとした声で叫ぶ。


 そのタイミングで雄叫びを上げながら副団長とアルマ、少し遅れてハクヤとリョウが倉庫内に入って行く。


「チクショウ!もう殺るしかねぇぞ。覚悟を決めろテメエら!生きてたらどさくさに紛れて逃げろ!」

 チップの両手から勢いよくモウモウと煙が吹き出して行く。

 その顔には特殊な形状のマスクが被られていた。

 魔法の煙は空気より重く、どんどん倉庫内に下から充満していっている。


「げぇ、チップさん!まさか!やめてくれよぉ!」

 付き合いの長いチンピラたちは、チップが自分らを巻き込んで魔法を使い始めたのを悟った。

 下っ端たちは前から騎士団、後ろからチップの魔法と、絶望的な気分だ。


 リョウは煙に向かって進み、顔に向けて手で仰いでちょっと吸ってみた。


「ウェホ、ゲホゲホグハッゲェエホッ!」

 目に染みるわ気管が焼かれたように痛いわで涙と鼻水が止まらない。


「バカかお前は!」

 ライリー副団長は呆れた。

 ハクヤが周囲に白銀の霧を発生させると、そこには煙が入ってこない。

 魔法同士で押し合っているようだ。

 

 チンピラたち5人はバンダナを口元に当てて、剣を振り回しながらドアの方に殺到して行く。


 しかし、すり抜けざまに副団長が振るった剣がチンピラたち全員の太腿や足首を深く切り裂き、全員その場に転倒した。

 そして煙に巻かれて猛烈にゲホゲホと咳き込み始める。

 

 涙目のままリョウがそのチンピラたちを殴って昏倒させ、全員ドアの外に放り出した。


「サ、サイ先生、あとはよろしく!ゲェホゲホ」


「ほいほい任せて」


 倉庫内はすでに煙で充満してしまっているが、ハクヤの周りの白銀の霧の結界内にいれば肌寒いが煙に巻かれることは無い。


 その時、煙の中から矢が勢いよく飛来してきて、アルマの肩に深々と突き刺さった。


「グアっ!」

 肩を抑え、仰け反りうずくまるアルマ。


「むぅ!」

 こちらは全員ドアの前にいるため、チップは位置をなかなかに正確に捉えているようで、次の矢はライリー副団長の額を掠めて飛んでいった。

 一瞬クラっとなる副団長。


 間髪入れず、煙の中から突然に3本目の矢が飛来し、ライリー副団長の右太腿に深く突き刺さった。


「ぬぅ、いかん!ジリ貧か」

 片膝をついて額から血を流すライリー副団長。

 剣を前に構えて、矢を逸らすくらいしか出来ない。

 矢の刺さった足からの出血も結構な勢いで出ている。


 リョウもその出血の量を見てマズいと思い、焦る。


「まだ……やれます!」

 アルマが自らに刺さった矢を掴み、精神を集中させる。

「うぬぬぬぬぅ!プハァッハァッハァッ!」


 そしてアルマはようやく呼吸の落ち着いたリョウの横に移動し、自分の頭をリョウの頭にくっつけた。


 リョウの脳裏に、アルマが精神感応で割り出したチップの現在位置が伝わる。

 階段の下にこそこそと潜んでいる。


「ありがとさん!」

 リョウは全身のシマーを解放し、体中にそれを落とし込んで巡らせ始めた。


「なんだ!?」

 チップは入口ドア付近に急に爆発的な魔力反応を感じて身構える。

 弓を取り敢えず前方に向けて構える。


「ばぁ!」

 チップの目の前にいきなり騎士の小僧が現れた!

 つむじ風のような信じられない速度だ。

 慌てて矢を放つ!


 しかしリョウは至近距離から放たれた矢を右手で無造作に掴み、チップの太腿に突き刺した。

 そして、チップの背後に回って腰を両手で掴み、倉庫の壁に向けてブリッジしながら投げ飛ばした。

「どっせぇぇぇぇい!」

 チップの視界は猛烈な勢いで180度回転。


「化け物か……!」

  

 倉庫の木製の壁はバガァン!という破壊音とともにぶち破れ、チップは壁と外の地面に背中と後頭部を強打して気絶した。


 リョウはその壁の穴から出てきてチップの両肩の関節を踏んで外し、持っていたロープで縛り上げた。

 片手でチップを担ぎ上げると、入口付近で副団長らと合流する。

 ライリー副団長は剣を杖にして何とか立っていたが、一人で歩くのは難しそうだ。


「おまえ……致死性ガスだったら死んでたぞ」


「へへっ、ほんとにねぇ」


「懲りてねぇな」


「勉強になりました!」


「こいつ……!」



「大した手並みだったじゃねぇか」

 ルカが護衛とともにリョウに肩を貸された副団長に歩み寄る。


「コイツはこのまま牢屋行きだ。何か伝えることはあるか?」


「後で手紙を差し入れるから渡しといてくれよ。破門状と請求書になるがね」


「構わんぞ」


「じゃあな。アンタらとはいずれまた会うだろう。これからもうちの盗賊ギルドをよろしくな」

 そういうと、ルカは立ち去った。

 その前にリョウをじっと見ていたようだった。


「気に入られたようだな」


「そうすかね?」

 リョウは眉と口が歪んで心底嫌そうな顔になった。


「ふふ、お前にも苦手なものがあるんだな」

 ライリー副団長は年相応のリョウの一面を見て安心する。

 たまげるような武人かと思えばまだまだガキだった。

 




 



 



 

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