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青の年代記〜山奥で仲間とひたすら修行した少年が、いつか英雄になる話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

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陽暦1460年6月〜騎士実習③

 騎士団員が集団行動をすると無駄に目立ってしまうので、とりあえず場所を特定するためにアルマとリョウ、ハクヤ、ライリー副団長が、フード、マント姿で平民街を目指す。

 後押さえ要員として隠密行動に長けているサイ・ハグーダ教官が距離を取りつつ付いていく。


 当初、普通の平民街を通っていたが、角を曲がる度に薄暗く、ひと気が少なくなっていく。

 デカいネズミが2匹、壁のそばを走っている。

 

「ここからスラム街だ」

 副団長が小声で教えてくる。

 雨も無いのに道はうっすら濡れており、すえたような臭いが鼻をつく。

 リョウが注意深く歩いていると、結構な頻度で建物の窓から人の視線を感じる。

 余所者が絶対に歓迎されない雰囲気をリョウは痛感していた。


 そこから数百メートル進み、アルマが精神感応で覆面の持ち主の位置を辿った先は、場末感の漂う飲み屋街の一角にある小さな酒場だった。

 ハクヤも臭気のもとがここにあると確信している、ような目でリョウを見ている。


 建物の影の闇の中からサイ教官が腕を出して振って合図してくる。

 完璧な隠行身だ、動かなければ野良猫ですら気付くまい。


 ハクヤを外に残し、一行が木の扉を押し開けると、中はゴロつきどもがくだを巻いている普通の酒場だった。

 喧騒が一瞬にして静まり返る。

 カードを引こうとする手を止めるチンピラ。

 ばね仕掛けの木の扉がキィ……キィ……と軋む音だけ虚しく響いている。


 場末に似つかわしくない金髪ポニーテールのミニスカメイド姿の可愛らしいウェイトレスが「いらっしゃいませ」と声をかけてきた。


 副団長がフードを取る。


「あら、騎士様、こんなところに珍しいですね。お客様……じゃなさそう」


「ああ、ちょっと人を探していてね。ヤモリって奴なんだが。知っているか?」


「知らなーい」


「隠すとためにならんぞ?」

 ライリー副団長はマントの下の小剣の鯉口を切る音をさせる。


 ゴロつきどもに緊張が走る。

 酔ったふりをしていたようだ。

 どうやらこの騎士たちは覚悟が決まっているようだと肌がひりつく。


 しかしこのウェイトレスには緊張した様子はない。

 リョウが見るとこの女から武術の片鱗を感じるがよくわからない。

 珍しいタイプだ。


「とりあえず暴れるつもりは無い。ギルド長を出しな」


「何のことです?」


「とぼけんじゃねぇ。ここが盗賊ギルドだってのは分かってんだ!」


 その時、奥の部屋に続くドアを開けようとした男がいた。

 その瞬間、副団長の手から何かが投げられ、ドアノブに突き刺さった。

 棒手裏剣だ。

 男は慌てて手を引っ込める。


「手間をかけさせんじゃねぇ。こっちは詰所を襲撃までされて、完璧にドタマに来てんだぜ」

 ライリー副団長の語気からは本気が感じ取れた。


「ちょっと待って?詰所襲撃って本当ですか?」

 

「冗談に聞こえたか?」


 ウェイトレスは深い溜息を吐くと、「奥の部屋へどうぞ」と一行を案内した。



 ドアを開けると、そこは窓のない小部屋で、背を向けた革張りの椅子に誰かが座っているように見える。


「あんたがギルド長か?」

 ライリー副団長が椅子に向かって声をかけるが、返事はない。

 ウェイトレスが椅子の反対側に回り、椅子をくるっと回す。

 ふわっと空気が揺らぐと、ポニーテールが解け、靴音が変わる。

 


 すると、そこには金髪ロングヘアで細身、黒づくめのスーツ姿の優男が座っていた。

 そしてウェイトレスはいなくなっている。


「手間を取らせたな。俺がギルド長だ」


 一行が混乱するほどの早変わり。


「え?女だったろ?」

 リョウがビックリする。

 しかし、その面影は先ほどの女と似ているような気がする。

 立ち振る舞いも似ているようだがよくわからず、リョウにもその強さが量れない。


「俺の名はルカ。ヤモリはうちの下っ端構成員だ。で、騎士団の詰所を襲撃したんだな?」

 ルカは垂らした前髪を指で捻りながら聞く。


「手から煙を出す奴らと一緒にな」


「そいつも……うちの中堅メンバーだ」


「そいつらを匿っているだろう。出しな」


「ダメだ……と言いたいが、まずは話を聞かせてくれ」

 ルカはタバコに火を着ける。


 ライリー副団長が経緯を説明する。


「……なるほど、そいつは闇営業ってやつだ。チッ、迷惑をかけたな。ライデル伯め、あの野郎……クソッ!舐めやがって!」


「どう言うことだ?あんたの手下で、ギルド長のあんたを通さずに、伯爵家から直接仕事を請け負ったヤツがいるってことか?」


「あーあー、そうなるねぇ」

 ルカは前髪をいじり続け、足を組みながら天を仰ぐ。


「騎士団に喧嘩売ったのはアンタの方針なのか?」


「んなわけねぇだろ。意味のねぇ喧嘩はしねぇのと筋を通すのがうちのモットーだ……った筈なんだがな」


「金に転んだか」


「チッ!しばらく外で待ってな」


 ルカはそう言い、店の奥に進んでいく。

 一行は店の外に出される。


 二階から微かに怒号とドターン!という音が聞こえたが、一瞬で静かになる。


 さらに待っていると、ルカが屈強な男らと共に、目頭が腫れ、唇が切れてボコボコにされ息も絶え絶えな男を連れてきた。


「こいつがヤモリだ。煙のやつはここにはいねぇ」

 ルカは片手でヤモリの襟首を掴むと、ライリー副団長に差し出した。

 部下に対する一片の慈悲も感じさせない瞳の冷たさがそこにはあった。


 殴られすぎており、ヤモリと呼ばれた男の人相はよく分からないが、確かに左目のあたりに引っ掻き傷がある。

 アルマが精神感応で確かめると、そいつは確かに数刻前に詰所を襲撃した人物に相違無かった。


「おい、ヤモリとやら。切り刻まれてこの凶暴なユキヒョウのエサになりたくなかったら伯爵家から拉致した使用人の場所まで案内しな」


「ゴアァァァ!」

 ハクヤが副団長の悪ノリに付き合って唸ってやる。


「ヒッ」

 ヤモリは絶妙に半殺し未満にされており、口も聞けるし歩くこともできる。

 奥歯が恐怖でカタカタと鳴っている。

 

 

 

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