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青の年代記〜山奥で仲間とひたすら修行した少年が、いつか英雄になる話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

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陽暦1460年6月〜騎士実習②

 南区詰所にワットとセラを残し、分隊長、エリー、アルマ、リョウの4人は騎士団隊舎に寄り、騎士団長、副騎士団長に「ライデル伯爵家使用人拉致事件」の捜査を進める事を報告した。


 しかし、副騎士団長のライリー・ドノヴァンは眉間に筋を寄せ、黙りこくっている。

 アイザッツ・バルガン騎士団長は、目を閉じて思案していた。


「貴族街にはな、貴族街のルールがある。あそこはな、一般の法律の外にあるようなもんだ。騎士団の運営については王族や大貴族は間接、直接にも関わっている。面と向かって歯向かうような真似はできんぞ」

 副団長が口を開いた。


「ですが、使用人の命がかかっている状況は明らかです」

 リョウは思ったまま口に出す。


「そんな事は分かりきっている。では、どうやるつもりだ」


 頭を悩ませるリョウ。

「伯爵家に夜中にこっそり?」


「バレたら?」


「どかーんと」


「ばかもの。リスクが高過ぎる」


 なんだかモジモジしながら話を聞いていたアルマが重い口を開けた。

「……証拠品があったと聞いています。それを使えばあるいは……」


「ほう、証拠品をどうする?」

 バルガン団長が目を開けてアルマを見据えながら問う。


「私の魔力なら、その物の記憶をたどれます」

 アルマは意を決したように話し始める。


「私の魔力特性は、精神感応です。目を凝らすと相手の気分や敵対心、本心などがうっすら分かります。また、物に宿る記憶や当時の周囲の状況なども分かり、その物の持ち主のおおまかな位置情報も分かります」


「ヒュー!マジかよアルマ」

 リョウにとっても初耳だが、大変役に立つ能力に違いない。


「魔力持ちの奴らは秘密主義でいかん」

 バルガン団長が笑いながら言う。

 新入団員の魔力持ちメンバーは把握しているが、具体的にどのような能力であるかまでは完全に把握している訳ではなく、自己申告に委ねている。

 魔力持ちにとって能力を知られるのは死活問題だからだ。



「副団長、聞いての通りだ。今回は貴族どもに一泡吹かせられるかもしれんぞ」


「どうやらそのようで。よし、では詳細に詰めながら捜査するぞ。まずは証拠品の精査からだが」


「団長、うちの従魔も使っていいですか?鼻が効くし頭も良いので」

 リョウは何となくハクヤを現場に連れていきたいと思った。


「ああ、あのユキヒョウのマギア種か。いいぞ」



 一行はハクヤを従魔厩舎から拾う。

 これまで厩舎で相当退屈していたハクヤは大層喜んだ。


 隊舎から出て、南区詰所に向かう。


 遺留品の靴は、捜査を始めていなかったため、未だ証拠品扱いしておらず、詰所の机の上にポツンと置いたままにしていたのだ。


 

 夕刻、一行が南区詰所に到着すると、皆驚愕した。

 

 そこには打ち壊された詰所のドア、机、散乱した書類があり、ワット騎士とセラが傷を負って血を流しながら倒れ、呻いていた。


 一見して大勢から襲撃されたのは間違いない。


「おい、どうした!大丈夫か、何があった!?」

 副団長が慌ててワット騎士に駆け寄る。

 リョウも確認したが、セラにも幸いにして致命傷になるような傷はないようだ。

 と言うか刀傷自体がない。


「20分くらい前です。詰所内に急に煙が充満し、慌てて出たところ覆面をした集団にいきなり襲い掛かられました。申し訳ありません」


 リョウは詰所の周囲を走り回ったが、不審者はいない。


 近くに子爵家があり、目撃者がいなかったか老執事に問いただすも、「何かバタバタする音がしましたが……」などと曖昧な返答で、まともな答えは返ってこなかった。

 どうやら心底関わり合いになりたくないようだ。


「クソッ、これが貴族街か……」


 エリー騎士やベン分隊長が周囲の他の貴族の館に聞き込みをしても同様の結果だった。


「何人くらいいたと思う?」

 エリーがセラの傷の手当てをしながら聞く。 

 どうやら命を取る目的ではなかったようだと分かる。


「おそらく10人はいました。1人は魔力持ちで、煙を周囲に溢れさせていました」


「そうか。危なかったな」


「分隊長、遺留品の靴が無くなっています!」


「何!?」


「そうか。奴らの目的は証拠品の奪還。それに、脅しだな」

 副団長が額に青筋を立てながら、苦虫を噛み潰したような顔で言う。


「おっ、これは?」

 リョウが落ちていた黒い布切れを拾い上げる。


「あ、賊の一人と揉み合いになった時、そいつの覆面を剥ぎ取ったんです」

 ワット騎士が思い出しながら言う。


「ほほう?と言う事は……」


 アルマがその覆面を握り、魔力を手に集中し始めた。

 うっすら光る掌に握られた覆面を自分の額に押し当てる。

「うぬぬぬぬ」

 顔に汗が滲む。


 脳裏に溢れる覆面にまつわる記録と記憶。

 充満する煙と視界の悪さ、ドカドカッと言う大人数の重苦しい足音、鈍い打撃音にセラの悲鳴。

 襲撃時の明確な記録がそこにあった。


「プッハァ、ハァハァ……。断片情報だけ……。この持ち主は若い男で通称ヤモリ。盗賊。左目付近に引っ掻き傷が出来てます。ここから5キロほど離れた平民街にいます!」


「すげぇな、アルマ!お手柄じゃん。ハクヤ、この匂い辿れる?」

 ハクヤは何だか不満そうな表情だが、匂いを嗅いで、地面をたどり始める。


「犬扱いしてる訳じゃないから」

 リョウがハクヤを撫でながらなだめるが、尻尾でリョウを叩いてきた。


「ちょっと待て。一旦詰所を閉じて、隊舎に戻る。体勢を整えてから急襲するぞ」

 ライリー副団長は、心底頭に来ていた。

 今回のやり口は貴族そのもの。


 奴らは力こそが全てで、正義だと思っている。

 これまでずいぶんと貴族に好き勝手やらせてきたが、今回は騎士団の詰所を襲撃するなど明らかにやりすぎだ。


 王位継承の内戦間近で、王都騎士団が瓦解するのが目に見えているからこそ、敵、おそらくライデル伯爵はここまで強硬な手段を使っているのだ。


「騎士団を舐めたらどうなるか見せてやる。リョウ、あとでたっぷり暴れていいぞ」

 そう言う副団長には剣呑な笑みが浮かんでいる。

 一瞬のうちに剣を抜き放ち、刃に曇りが無いか確認する。

 その抜き打ちの滑らかさにリョウも驚く。

 副団長には、平民街に巣食い、金で動く集団と言えば、おおかたの目星はついている。

 

「セラを殴ったヤツ、半年は入院させてやります。あ、ワット先輩殴ったヤツもね」




 

 

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