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青の年代記〜山奥で仲間とひたすら修行した少年が、いつか英雄になる話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

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陽暦1490年6月〜騎士実習①「貴族街」

 セキサイへの手紙を書き終え、リョウはペンを置いて窓から外を眺めた。

 夏にはアパン国に一緒に行けそうです、と追伸した。

 セキサイの娘とは会わなければいけない気がしている。


 爽やかな風が吹き込んでくる。


 王宮の高い尖塔が代表的な貴族街が見える。


 ヤーマス市は、周辺人口まで含めると200万人が住んでいる巨大都市だ。

 リョウたちは、休みの日には地理の勉強がてら市内を走り回って過ごしているが、広すぎて全容はまだ掴めてはいない。

 ただ、貴族街の入り口にある巨大な時計塔は毎日目に入る、まさに王都のシンボルだ。



 今日から1ヶ月間、見習い騎士として実際に街に出て実習を行う。

 最初に貴族街で2週間、その後平民街で2週間の入れ替えだ。


 正直なところ、貴族街において一般的な犯罪はあまり発生しないので、実習のメインは平民街におけるものとなっている。


 

 実習期間中、リョウたち三班はアルマ、セラ、リョウの3人と、ファルク班長、ヤナ、ジンの3人ずつに分けられている。


 

 276期生の半数は、朝から貴族街の騎士詰め所に集合した。

 リョウたち実習生たちは騎馬の訓練中ではあるものの、まだ上手く乗れない者も多いため、基本的に徒歩で勤務する。

 先輩たちは厩舎に愛馬を繋いで、いざ急ぎの案件が入れば騎乗して現場に駆け付ける。


 王都の貴族街は、王城を中心として、東西南北をそれぞれ区単位の行政区に分けられており、ヤーマス王とジェイナス王子が王城に住んでいる。


 各区には大貴族であるところの侯爵家や伯爵家が数軒ずつあり、その下に何百もの子爵家や男爵家がひしめき合っている。


 表向きには王都の貴族は皆ジェイナス王子を次期王位として認めていることになっているが、実際には全く誰が長男ジェイナス王子派なのか次男レオニード公爵派なのか分からず、皆疑心暗鬼の状態で、表立って政治の話はしにくいとリョウたちは教わった。


 王都騎士団の正騎士は全員で1000人程度。

 そのうちの200人程度が貴族街の詰め所に配置し、治安維持に当たっている。

 国の兵力は3万人程いるが、大多数が全国各地に散らばって国境警備を担っているため、王都騎士団の正騎士といえば、一般人からすると本物のエリートである。



「よう、揃ったか。俺がこの詰所の分隊長、ベン・ソーダンだ。実習期間中、よろしくな」

 金髪のツンツン頭、銀色に輝く鎧を身につけた長身の騎士が挨拶してきた。

 歳の頃は30代半ばだろうか。

 とても落ち着いた好青年で、リョウはテオ村のトール騎士の面影を感じていた。


「俺は、ワット・ギリアム。こないだの模擬戦見てたぞ。凄かったな。よろしく」

 リョウを見ながら別の先輩が声をかける。


「私はエリー・ジーナス。4年目だ。分からないことは何でも聞きなさい」

 茶色のボーイッシュな髪型の女性騎士がはつらつと声をかけてきた。


 この3人が実習期間中、リョウ、セラ、アルマの3人の指導騎士となるらしい。


 アルマは“常識のありそうな先輩たちで良かった”ととりあえず胸を撫で下ろす。


「とりあえず、パトロールがてら道案内するかな。エリー、案内してやってくれ」


「承知しました。3人は付いてきなさない」


「はい!」


  

 3人はエリー騎士にいろいろ教えてもらいながら、金属鎧を着て、ショートソードを佩剣したスタイルで街を歩く。

 

 人々は新米騎士たちに注目することなく、普段通り生活をしているが、騎士の姿で初めて街を歩いてみて、3人は身が引き締まる思いがしている。


 高級そうな店が軒を連ねている通りや、大貴族の邸宅の周り、豪奢な宿などの周辺を回っているうちに、その周辺を通る住人が皆身なりが良く、余裕がありそうな人々だと分かる。


「この辺りに住む人は上流階級の貴族か、その使用人ばかり。基本的に犯罪の通報は無い」


「やっぱりそうですか」

 リョウは少しがっかりした、が治安の良いに越した事はない。


「だがな、貴族街に犯罪が無い訳では無い。ただ記録に残っていないだけだ」


「えっ」

 世間擦れしていないセラは意味がピンとこない。


「権力者たちのナワバリには我々騎士もおいそれと入り込めないんだよ」

 エリー騎士が歩きながら、横の大邸宅を苦々しい目で見る。


「ここに何かあるんですか?確かライデル伯爵家だったと思いますが」


 邸内の窓から外を見ていた使用人の年配の女性が、リョウたちを見て急にカーテンを閉めた。

 リョウには、一瞬その女性の目に諦めや虚しさのような感情が見えた。


「アルマ、君は王都の生まれでは無いのに、詳しいな?」


「いえ、貴族を把握するのが好きなだけですので、別に詳しくはありません」


「ふふん、変わったヤツだな君は。実は、ここギニウス・ライデル伯爵家で一昨日から使用人の女性が1人行方不明になっているのだ。しかし、その届け出を伯爵家が出さない。そもそもそんな人物はいなかったとまで言っている。上に報告してあるが、決定打がないので捜査するかどうかの結論は出ていない」


「何があったんでしょうか?」


「目撃者はいない。人の争う声が複数人に聞かれ、靴が片方遺留されていた。まだ生きていれば良いが」


「エリー先輩、調べましょう」

 リョウがあまり深く考えず提案する。


「……お前結末まで持っていく気あるか?」

 エリーももちろんリョウの模擬戦を見ていたので、この若手がとんでもない武人である事は承知している。

 何となく荒事になる予感がしていた。


「もちろん!」


「納得いく結果にならないかも知れないぞ?」


「その女性、まだ生きてるかも知れないんでしょ。なら、迷いはないです」

 リョウの真っ直ぐとした目を見てセラは同期生ながら戸惑いつつ感心する。


「……よし、ならば上に報告しよう」


 4人は詰所に戻って分隊長に報告し、さらに騎士団長の指揮を仰ぐこととなった。



 



 




 

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