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青の年代記〜山奥で仲間とひたすら修行した少年が、いつか英雄になる話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

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陽暦1490年5月〜班の団結会

 班の団結会の集合場所である焼き肉屋「地龍庵」は貴族街と一般人街の境い目辺りにあった。

 

 横に長い敷地の店舗で、看板は出ていない。黒い木造二階建ての渋い外観に、低い引き戸の狭い玄関。

 長身のジンは入るとき頭をぶつけそうになる。


 建物内はうってかわって広く、女将さんと女中さんが皆の履物を預かってくれた。


 全体的に間接照明を多用して薄暗い中、黒光りするツヤツヤの廊下を歩いていく。


 田舎者だと思われたくないので無駄口を叩かずついていくテオ村の3人。


 店の高級感に高まる期待感。


 女中さんの案内で3人は奥の個室に通された。 

 掘りごたつ式のテーブルに炭火の炉が2つ設置されている。


「よお!来てたぞ!」


「こ、こんにちは!」

 何故かバルガン騎士団長が上座に座っており、その近くに座っているサイ教官が「ゴメンね」という表情でこちらを見てくる。


「邪魔とは思ったがサイに無理を言って来させてもらった。お詫びと言ってはなんだが、ここはワシが持つから安心して腹一杯食ってくれ」


 ファルク班長、アルマ、セラはすっかり恐縮して縮こまっている。


「他人のおごりで食べる焼き肉ほど旨いもんはないから、ありがたいっす」

 こんなときリョウは遠慮をしらない。


「おう!文字通りこの店は地竜も食えるからな。楽しみにしとけよ」


「すげえ」

 職場で一番の上司がいる中であっても食べたことのない料理が出てくるのは嬉しい。


団長が女中に合図を出すと、炭火が運ばれて来て炉に入れられる。

 

「皆未成年だったな?ワシとサイは麦酒。他の者は好きなものを飲め」


 ファルク班長が団長に一言挨拶をと願うが「そんなのはいらん。ひたすら食え」と一蹴されてしまった。


「特級黒毛アパン牛の盛り合わせです」

 女中たちが大皿に色々な肉を盛り合わせて運んでくるが、それぞれ肉の名称を書いた紙が置いてあり、焼き加減のおすすめを教えてくれる。


 赤身と脂がバランスよく入った肉片たちが綺麗に盛り付けられているが、差はよく分からない。


 そんな中バルガン団長は自ら肉を並べ、その場を仕切り始めた。

 焼けたかどうか分からないまだ赤いようなヤツをささっとピックアップして若者の皿に置いていく。


 ニンニクと唐辛子の効いたアパン国風の甘辛いタレと肉が絶妙にマッチしており、いくらでも食える。


「なんだコリャ、口の中で溶けるぞ」


「脂が甘いのよ!」


 頼んでもいないのに白ご飯が投入されてくる。


「どうせ普段から運動してるんだから米も食っとけ!ガハハ!」

 団長はそう言いながらも自らはあまり食べておらず、専ら焼き係しながら酒を飲んでいる。



 焼き網が少し焦げてくると女中さんがすかさず交換してくれるので、全くのストレスフリーで食事が楽しめる。

 

 お冷が減ると気付いたら注いでくれるし、気配り目配りが行き届いている。



「長期氷温熟成ブラッディ・ムースのカルビです」

 女将さんが一際大きな皿に少し紫色がかった肉片を持ってきてくれた。

 ブラッディ・ムースはヴァイオレント・ムースの進化種で、ドルガ山脈でもオーロ帝国側にしか住んでおらず、狩りを生業にしているジンの一家でも見たことすらない、幻のモンスターだ。


 ジンが見たことのない勢いで皿を注視する。

「これが…父さんの憧れの…」


 この獲物を仕留めるのに誰の、どんなドラマがあったろうか。

 どうやってここまで流通してきたのだろう等とさまざまな思いが去来し、不意に涙ぐむジン。


 その肉は焼き始めても脂がそこまで出ず、煙も立たない。 

 リョウも肉を氷室で熟成すると味が良くなることは知っているが、静かにヂリヂリと焼けていくその肉を見守る様子はさながら宗教的な儀式を彷彿とさせた。

 

 セラやアルマ、ファルク班長はテオ村3人の神妙な様子に気付いていたが、黙っている。


「そろそろ良いぞ」

 団長の声で我に返り、皆でブラッディ・ムースの肉を取り、箸で口に入れる。


 およそクセのない肉だが、味が濃い。

 熱々のところ、タレを着けずに塩で食べてみると、噛んだ瞬間に肉の香ばしさと炭火で燻された複雑な香味があり、直後、旨味がはち切れてジュワッと押し寄せてきた。

 溶けるような脂身は少ないが、確かにあり、歯応えもありつつ柔らかく、しかし、噛めば噛むほど肉の旨味と滋養が溢れ出て、鼻腔と口腔内に幸せが押し寄せてくる。


「なんだこの肉は!?」

 

「明らかにこれまで食べたもので1番旨い!」


「爺ちゃんに食わせたい」


「ゴメン……父さん……」



 団長は若手見習い騎士たちのそんな様子を満足そうに見やると、女将さんに耳打ちする。


「分かりました」



「みんな初任騎士科程の生活はどうだ?慣れたか?」

 バルガン団長がちびちび飲みながら周りに聞く。


「休み時間が移動でバタバタするのさえなければ」


「女性寮の生活に不自由は無いかね?」


「別にありませんけど……?セラなんかある?」


「うーん、言う程じゃないかもだけど、名のある名家の方々から当たりがキツいというか……」


「あら、やりやすい子と思ってんのね。任せといて。悪いようにはしない」


「えぇ……穏便にお願いします」



「リョウ、シーツァイ殿は息災か?」


「こないだの手紙では元気そうでした。夏にはアパンに旅行するって。俺もなんもなければその時期に休暇を頂ければと考えています」


「おお!そうか!もちろん良いぞ!娘さんに会いに行かれるのかな。シーツァイ殿は以前騎士団の名誉を守ってくれた偉大な指南役だったのだよ……」



「お待ちかね〜。地竜の腿ロースです」

 女将さんがさらに大きな皿を持ってきた。


「二か月前にはるか西の国で討伐された個体が、文化の道を通ってきたものになります」

 

 皆が一斉に皿の上の肉を注視する。


 肌色ともピンクとも赤とも言えないような肉が、うっすら脂身をまとって、さながら宝石のように輝いている。


「これが……地竜」


 リョウとジンは顔を見合わせ、笑った。


 “あのときジンライ食っとけば良かったな”


「なんだお前ら?」


「いえ、旨そうだと思って」



 焼いてみたところ、デカい爬虫類と哺乳類を足して二で割った味という感じだ。

 あっさりした淡白な味わいに絡み合った脂質、多めの肉汁。

 歯ごたえは程よい柔らかさで、これまた噛めば噛むほど肉の味が出る。


「これが、竜」


「どこかで狩ったら焼いて食おうぜ!」


「この個体は金級冒険者が3パーティでやっつけたそうです」


「そりゃなかなかタフだ」

 団長も相槌をうつ。



 デザートのアイスの盛り合わせを食べながら、団長が言う。

「どうだ、お前ら腹一杯になったか」


「もちろんです」


「それは良かった。俺は、若手騎士の諸君には期待しているのだ。時に、ファルク班長よ、この第276期生の班編成をどう思う?」


「なるべくしてなっている班だと」


「正直、第一班と第二班には、ワシの力が及ばないところがある。特に二班のノーグル家よ……。ワシには騎士団長という将軍並みの権限と、伯爵級の貴族と同等の地位があるが、それでも思い通りになるのは身の回りのことだけよ」


 バルガン団長の表情がやや曇る。


「……」


「リョウよ、騎士とはなんだ?」


「……人々の安全と安心を守る人?」


「その通りだ!お前らは、ぶれず、そのまま、まっすぐ進め。人々のための騎士となってくれ」


「はい!」


「ワシはこれからサイと野暮用があるから、帰るね。お前らまだ、しばらくゆっくりしといていいぞ。女将さん、請求書いつものやつで」


「わかりました」


 サイ教官は少しふらつくバルガン団長に肩を貸しながら、生徒たちに目配せする。



 2人は外で待っていた馬車に乗り込むと、貴族街の方向に消えていった。



「コーヒーのお代わり飲んでいかれると良いわ。団長さんあなた達に期待なさってるのねぇ~」


 腹一杯でぼーっとしている若手たちに女将さんが声をかける。

 せっかくなので甘えることにした。


 とても非日常的な時間だったと若手たちは感じていた、が、ジンがこっそり女将さんに幾らだったか尋ね聞いたところ、自分らの給料一か月分より多かったので現実に引き戻された。


 明日からまた訓練の日々が再開する。


 しかし、団長の期待に添えるべく努力しようと思う三班のメンバーたちであった。




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