陽暦1491年10月〜決勝トーナメント②
「……おい、どーすんの?」
シオリがアラカンダルの二の腕を掴みながら聞いてくる。
「俺は、これまでこの剣で世界を獲れると思っていたが……」
長年連れ添った相棒のバスタードソードを撫でるアラカンダル。
「……結果がどうあれ、旅に出ようと思う」
「もちろん付き合うわよ」
即答するシオリ。
「この世から戦乱を無くすまで……だな」
「その後までよ」
仮面の下でいたずらっぽく笑うシオリ。
いまだざわついたままの会場。
掲示されている各選手、とりわけリョウのオッズが激変していく。
アッバーク国王が取り巻きに指示を出す。
慌ただしく動き出す黒服たち。
「次戦、タケル・シラヌイ対ラージャン・ヴァルマ!」
ラージャンが試合場に飛び上がる。
相変わらず飄々と舞台に上がるタケル。
しかし最後の階段でつまづきそうになった。
"む……"
先刻のリョウの姿が目に焼き付いて離れない。
天変地異の嵐の如き戦い。
頬を伝う汗。
ふと思い出す父タスクの教え。
"剣を握らば、水鏡の如き心で己に向き合え"
目を閉じ、立禅を始めるタケル。
少しずつ観客席の声が小さくなっていく。
「ほんとにマイペースね」
包帯を巻いたアヤメが会場で苦笑する。
タケルは落ち着いて試合場の前に進んだ。
お辞儀する。
「始め!」
審判が合図を出す。
「……落ち着いたか若きサムライよ」
ラージャンは腕を組みながら、タケルを見据えて言う。
ラージャン・ヴァルマは草原の国タジの戦士。
矢筒を背負い、長身の細身を露出多めの皮鎧で包んで、長い黒髪を編み込んで後ろに垂らしている。
短い弓に腰には長めの曲がったナイフ。
「万全にござる」
三歩前に出ながらアパン刀を抜く仕草に一切の淀みはない。
お互いの間合いはまだ15メートル以上。
「フ……」
背中から矢を複数取り出し、いきなり頭上に複数放つ。
放たれた矢は遥か上空に飛び上がり、落ちてこない。
「なんだ!?」
「何してる?」
観客がざわめく。
"後手に回ると危険だ!"
タケルは全速で踏み込む。
地面を滑るようにジグザグに駆け抜ける。
途中でラージャンが次々と矢を放ってくる。
"避けるまでもないが……何かある"
目を凝らし矢を見ると、何かキラッと光るものが続いている。
"糸!?"
「ジンみてぇな奴だ!」
リョウが驚く。
気づいたタケルが飛来する矢を切り払いながら進むが、すでに辺りには邪魔な糸が張り巡らせられていた。
腕や足に絡みつく粘着性の糸。
刀を持つ右手が取られる。
その時、頭上から襲いかかってくる最初に放たれた複数の矢。
動きを取られたタケルに振り注ぐ。
"最初から狙っていた!?“
その時、タケルの目が見開かれ、シマーが色濃く輝いた。
左手が霞み、腰の脇差が鞘を走る。
「本気を出したか」
ゼルダンが呟く。
タケルは脇差し一閃。
頭上の矢を斬りはらい、そのまま一瞬のうちに身体にまとわりつく糸をバラバラにした。
周りの動きを置き去りにするような異常な速度。
その二刀流のまま神速の踏み込み。
二歩でラージャンの前に到達。
ラージャンは既にナイフを抜き放って目の前で構えている。
「いざ参らん!」
タケルの両手が霞む。
「四神天翔!」
タケルの異常な速度で残像が4つに別れて見える。
その残像は四方からラージャンを斜めに斬り上げつつ飛び上がり、斜め空中から再び斬りながら下降する。
驚き、為す術なく防御姿勢のラージャン。
全身から出血する。
だが、ラージャンはまだ目が死んでいない。
タケルは己を研ぎ澄まし集中した。
頭上から微かに風を切る音がする。
その音を頼りに、前を向いたまま右手を振り上げ、時間差で振ってきた最後の矢を切り飛ばした。
それを見て驚愕するラージャン。
目の光が戦意を失っていく。
「初見で受け切るとは……」
膝から崩れ落ちるラージャン。
「勝者、タケル・シラヌイ!」
審判が合図を出し、救護班が駆け付ける。
ふぅ、と一息つきながら舞台を下りるタケル。
視線の先にリョウがいる。
目が輝き、拳を突きだしている。
次の準決勝の相手。
タケルも拳を突き出す。
互いの視線が交錯する。
もう二人の間に言葉は要らなかった。
「次戦、ゼルダン・クレスト対リン・シュエフォン!」
場内アナウンスに観客が沸き立つ。
「魔法剣士とクンフーマスター、どっちが勝つんだ……」
「この試合、分からん……」
「賭けられなかった」
リン・シュエフォンはいつもの丈の長い服に黒いズボンだが、今は金属製の胸当て肩当てと小手、脛当てを装着していた。
“この姿で戦うのはいつ振りか……”
リンの表情はいつになく厳しい。
予選でウェイ・ロンを圧倒した相手、万全の体勢で挑む。
ゼルダンは革鎧にショートソードのいつものスタイル。
いつもの冷静な表情だ。
「ダンマ流をかじっているようだが、本家の華林武術の真髄、貴様に見切れるか」
目の前で右拳を左手で包み、礼を示しながらゼルダンを見据えるリン。
ダンマ流と聞くと父から“倒すべき相手”として教えられてきたゼルダンには複雑な思いが交錯する。
確かに騎士団入団後は武技指南役ウーツァンから手ほどきは受けているが、動きからそこまで分かるのかという驚きがある。
「誰が相手だろうと、やれる事をやるだけ」
ゼルダンは剣を正眼に構える。
「フン、そうだな。強い方が勝つ。それだけだ」
リンは一度ジャンプ。
全身脱力して前に出る。
“いつでも来い”
二人の気持ちが重なった。
審判が両手を上げ、交錯するように振り下ろした。
「始め!」




