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青の年代記〜山奥の少年が、いつか世界を変える話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

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陽暦1491年10月〜決勝トーナメント③ ゼルダン対リン

 輝く小手を前に、半身の姿勢で前に出てくるリン・シュエフォン。


 独特の足捌きで少しずつ体がブレるように見えながら前に出てくる。


 ”狙いがつけられない“


 ゼルダンはリンの歩法に舌を巻く。


「どうした、光魔法を撃つんじゃないのか」

 あっという間に間合いを詰めるリン。


「魔法だけだと思うのは間違いだ」

 ゼルダンはすでに全身に光のシマーを巡らせ、身体能力をブーストしている。


 足元の輝きが増す。

 最短距離で最速の体当たりのような突き。


「ヌォッ!」

 突く前から避け始めていたリン。

 疾風の如きゼルダンの踏み込み速度に驚く。


 ゼルダンは以前のリョウとの戦いで戦闘持久力の無さを自覚し、ここ2年間、魔力発動効率の改善に全力を上げてきた。


 避けられてもすぐに向き直り、何度も突きを繰り出す。


 だがリンは全て避ける。


 距離を取るゼルダン。


「恐ろしいほどの”観の目“だな」


「幼少期から目隠しで戦っているからな」

 油断なくゼルダンを見据えながら動き続けるリン。


「とは言え貴様のように隙がないヤツはなかなかいない……本気を出させてもらう」

 リンはそう言うと、動きながら呼吸を整える。


 シュッと呼吸を吐くと全身に紫色のシマーを巡らせ始めた。


「フゥゥゥゥ……」

 全身に巡らせたシマーの輝きが増していく。

 そして体内にそれが収束していく。


 その時ゼルダンの剣先から光の熱線が放たれた。


 リンは輝く鏡面仕上げの小手でそれを後方に逸らす。

 観客席の前の壁に当たり、そこで小さな爆発が起こった。


「ひぇぇ!」

 飛び退く一部の観客。


「真っ直ぐ当てねば直撃とはならんぞ」

 ニヤリとするリン。


「準備万端だな」

 ゼルダンは小さな光線を続けざまに放つ。


 しかし、リンはそこにはもういない。


 全身に”気“を巡らせた状態。


 信じられない速度で舞台を縦横無尽に駆け巡る。


 ”"無間“に迫る速度!”


 だがゼルダンはリョウとの手合わせで幾度も経験した速さ。

 

 “ウーツァン指南役より速いということはない!“


 魔力でブーストしたゼルダンより一段階上の速さだが、くらいつける。


「猛虎爪撃!」

 

 その刹那、リンの速度が急激に増した。


 まさに虎が襲いかかるかの如く、紫に輝く両手で暴風のように掴みかかるリン。


 光魔法で残像を作り、避け続けるゼルダン。


 何度躱されても直後、反対側からしなやかに飛びかかり続けるリン。


 体勢を整えて切り払う隙が無いほどの猛攻。


 "リョウを相手にしてるみたいだ!"


 ゼルダンの肩をリンの右手が捉えた。


 革鎧の肩当てをむしり取る一撃。

 肩が裂け、血が噴き出した。


 すぐに反対側から迫るリン。

 ゼルダンの右手の剣を掴んで跳ね飛ばした。


 闘技場の端まで転がっていく小剣。

 体勢が崩れたゼルダン。


「虎口伏地!」

 眼前に立つリンが両手を振り下ろしてきた。


 刹那、蘇るウーツァン指南役との組手。

 いつの間にか地面に投げつけられていた記憶が蘇る。


 "これは投げ技!"


咄嗟に両腕で受けるゼルダン。

 両腕が痺れる。


「なにっ!?」


 距離を取るリン。


「師匠が良いんでね」

 こちらも距離を取るゼルダン。



「ダンマ流め……」


「なぜそんなに恨む?」


「秘伝を奪われ、それを勝手に広められたからだ」


「そうか」


 "肩の傷が深い……"


 ズキズキする肩の痛みに耐えているゼルダン。


「奥の手を出させてもらう」

 ゼルダンは覚悟を決めた。


 精神を集中して体を取り巻く魔力を物理的なものに変換するイメージ。


 ゼルダンの頭、肩、胸、小手、足に光が集まっていく。


「なんだアレは……」

「光の……鎧……」

 観客たちが固唾を飲む。


「ついに完成させたか……」

 リョウが呟き見つめるゼルダンのその姿。


 蒼雷剣ジンライを破る、という思いで日々特訓を重ねていたゼルダンの成長の証。


光輝鎧シャイニングアーマー


 ゼルダンはそう呟き、踏み込んだ。


 光の軌跡を残しながら、滑らかに地上を滑る。


 異常な速度。


 リンは咄嗟に前蹴りを放つが、光の小手で下段に払う。


 丸太で殴られたような衝撃に驚くリン。


「まだ上があったとは!?」

 

 全身にまとった空気が揺らぎ続けるリンと、光の鎧をまとって立つゼルダン。



「これは現実か……」

「神話の再現か……」

 観客たちは呆然と見つめている。


 両者、恐れずに前に出て突き、蹴りを繰り出す。

 お互いに重い攻撃が何度も当たる。


「ウグッ!」

「グオッ!」


 壮絶な技の応酬。

 血しぶきと汗が飛び散る。


 見えないほどの拳と蹴り、体捌きでお互いに入れ替わりながら何度もぶつかり合う。


 お互いの表情が少しずつ柔らかくなっていく。


 "分かるぞ……お前の武を積み重ねた日々が、ゼルダン"


"リン・シュエフォン……お前の拳の重さ、俺は生涯忘れない"


拳を交え、分かり合う二人。


 少しずつゼルダンの動きが鈍り始める。


 "魔力を……使い過ぎた……"


頭がズキズキと痛み始めたゼルダン。


 "まだやれる……!"


どうなってもいい……。

 力が欲しい……。


 心のリミッターの扉を開けそうになるゼルダン。


 "生命力を魔力に変えないで、死ぬわよ"


 不意にかつてのヤナの忠告が頭をよぎった。


 "ここは死ぬ場面か、否!"


ゼルダンは力への渇望を抑える。


 見るとリンのダメージも相当に蓄積している。


 "お互い次が最後の攻撃……"


リンも荒くなった呼吸がどうしても戻らない。


 "あの鎧を突き破る最高の一撃を"


一瞬立ち止まるリン。

 その直後、陽炎のようにゆらめき、起こりのない一挙動で前に倒れながら両手で掌打を突き出した。


「渦旋浸透掌!」


 ゼルダンの反応速度を上回る速さ。

 リンの両手の掌がゼルダンの光の胸当てに吸い込まれる。


「ウグッ……!」


 吐血と同時にゼルダンの右手が光る。

 振り上げた右手の眩しいほどの輝き。

 ジジジッと鳴っている。


「光よ!」

 前のめりに倒れ込みつつ振り下ろす光をまとった手刀。


 リンの胸当てを深く切り裂いた。


「ゴアッ!」


 目を見開くリン。

 大量に血飛沫を撒き散らし吹っ飛ぶ。

 地面に倒れ、立とうと上半身をもたげるが、力尽きて崩れ落ちた。


 膝をつくゼルダン。


 柔らかな表情で顔を上げる。


 だか、その直後、体の中で起こっていた渦と波がぶつかり合い、内臓が激しく揺さぶられ損傷した。


 大量に吐血して前のめりに倒れた。



 審判が倒れた二人の顔を見て慌てて両手を振る。


「両者、敗退!」


 絶叫する観客たち。


「救護班、早く!二人ともだ!」



 騒然となる闘技場。




 

 

 

 


 


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