陽暦1491年10月〜国際武闘大会⑧ 夜
夜、ホテルに戻ったリョウとゼルダン。
お互いに無敗、無傷のまま決勝の舞台に進んだ。
部屋に戻るが、室内に何か違和感を感じる。
何かあるわけでは無いが、誰かの視線を感じるような気がする。
「根拠はないが、監視されているようだ」
「やっぱそうか」
「特にその剣は常に持ち歩いた方が良いな」
「分かった」
他の決勝進出者の様子はどうか気になり、ホテル内をうろついてみる。
アヤメの部屋の前にタケルが立っていた。
「おお、リョウどの、ゼルダンどの。明日はお互い頑張りましょうぞ」
タケルも決勝の舞台に進んでいる。
「ああ。アヤメの具合はどうだい?」
「今は癒しの魔法により、良いみたいですぞ。ぐっすりと寝ておるようです」
「技では優っていたけど、惜しかったね」
「技もさることなれど、体格も武器も全て実力だと思っています。修行あるのみです」
「そうだな。あんたはどうしてここに?」
「……ふむ。実は部屋にいても誰かに見られているようで落ち着かず……」
「あんたもそうか」
リョウもゼルダンも頷く。
「これは単なる憶測だが、誰か魔道具か何かで監視しているのではないだろうか」
ゼルダンが口にする。
「油断すると寝首をかかれかねないな」
リョウが最悪の予想をする。
「明日も試合だって言うのにこれでは落ち着きません。そうだ。話でもして交替しながら休みますか」
タケルが提案する。
「それは良い。せっかくなので他の顔見知りにも声をかけてみよう」
ゼルダンがそう言うと、廊下を歩き始めた。
ロビーには、アラカンダルとシオリがソファに座っていた。
アラカンダルはバスタードソードを抱き抱えている。
「よう」
リョウが挨拶する。
「ふふ、お前たちも落ち着かない様子だな」
顔を上げて微笑むアラカンダル。
「明らかに見られているわ。嫌がらせね」
シオリが腕組みしてあちこちを見回す。
「せっかくだから一緒の部屋で交替で休憩しながら警戒しないか?」
ゼルダンが提案する。
「良いのか?俺たちは明日戦う相手だぞ?」
「お前たちはなぜか分からないけど、信頼できるよ。絶対に姑息な真似しなさそう」
リョウがそう言うと、ゼルダンもタケルも頷く。
「アンタたち、甘いわね。でもこっちはその見立て通りよ。ワタシは違うけど」
シオリがアラカンダルを指差す。
「お互いの安眠のために協力しようじゃない」
シオリが立ち上がるとアラカンダルもついてくる。
一向は、アヤメが寝ている部屋に移動した。
奥まっていて広いという理由。
「あどけない寝顔ね。あんなに強いのに」
シオリが言う。
「ああ。練武の積み重ねを感じた」
アラカンダルも頷く。
「寝る前に泣きながら“今度は手首を切り飛ばす”って息巻いてましたぞ」
タケルが笑いながらアラカンダルに言う。
「……そうでなくてはな」
口の端が笑っているアラカンダル。
「何が面白いのよ」
仮面を被っているが表情豊かなシオリ。
隣の部屋で車座になってゆっくり座っている一同。
穏やかな沈黙が流れる。
「……俺は、お前たちがなぜそこまで強くなっているのか、とても気になっている」
不意にアラカンダルが口を開く。
ぽつぽつと話し始める。
「……俺は、幼き頃から傭兵団に拾われ、生活の活計として戦うしかなかった。隣国との100年続く戦争。生き延びるため毎日戦い抜いてきて今に至る。今は戦乱の世を終わらせたいと思っている」
“珍しい!自分語りしてる!”
シオリは驚いていた。
“この人、共感しちゃってんのね。強者相手に仲間意識芽生えてんじゃん”
口元がニヤつく。
「何かおかしいかシオリ?」
「いえ別に」
「私はアパン国の剣術道場の息子。子供の頃、気がついたら木剣を握っており、今に至ります。寝ておるアヤメどのとは幼馴染の間柄。お互いの家を行き来しながら互いの流派を学んでおります」
「明日はその技、学ばせてもらおう」
「技を学ぶ点においては、いつか我が道場に足を運んで、父と会ってみて欲しい。きっと面白いと思うでしょう」
「親父さんはあんたより強いのかい?」
リョウが気になって聞いてみる。
「私など足元にも及びませぬ」
「はぁー……」
「それはぜひ一度お会いしたいものだ」
アラカンダルが言う。
「今度こそアパン逗留ね!長くいるわよ!」
テンションが上がるシオリ。
ゼルダンが口を開く。
「俺はヤーマスの武の家系に生まれて、父の妄執により、このリョウの祖父を討つために鍛えられた。まあ、少し説明不足だが、そんな異常な環境で育ったのに間違いない」
「……なに?」
「いろいろあって、それが父の逆恨みからきたものだと分かり、今は楽しく暮らしている」
「そうか……何となく合点がいった」
最後にリョウが口を開く。
「俺は、山奥で爺ちゃんに拾われ、村で暮らしていた。シオリさんと同じように別の所で生きて、そして死んで転生したみてぇだがよく分からない。強くなりたい気持ちが強くて、爺ちゃんが強くしてくれた」
何と言って良いのか分からないような表情のリョウ。
「お前の祖父も強いのか?」
アラカンダルがリョウに聞く。
「今のところ、知ってる人間じゃ一番強い」
言葉を選ぶリョウ。
「それは間違いない」
ゼルダンも保証する。
「なるほど。やはり世界は広かった。俺の知らないところを見て回りたい」
「傭兵辞めるの?」
「それもいいかと思い始めた」
「いい頃合いかもね……ところでリョウ、あんた、苗字はあるの?ワタシは前世で神崎詩織って名前だったんだけど。本名はカンザキ・シオリって言うの」
「え?わかんねぇ。村じゃみんな苗字なんて呼ばなかったけど、平民でもみんなそんなのが有るのか?」
この話題から少し頭痛がし始めるリョウ。
眉をしかめる。
「有るわよ。忘れちゃってるのね」
具合が悪くなりそうなリョウを見る。
「まあいいわ。山奥の村のリョウだから、さしずめヤマムラ・リョウって感じね。フフフ」
何気ないシオリの一言。
「ヤマ……ムラ……リョウ……?」
初めて聞くはずのその音の響きが、信じられないほど懐かしい。
その言葉が胸の奥の奥にある扉を叩く。
「ウッ、グググ……!」
強烈な頭痛がリョウを襲う。
頭を抱えてうずくまるリョウ。
額から汗が滲み出ている。
「どうしたの!」
「リョウ、大丈夫か!?」




