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青の年代記〜山奥の少年が、いつか世界を変える話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

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陽暦1491年10月〜国際武闘大会⑤

「あいつ、なんであんなに殺気が無いんだ……?」

 リョウは試合場に立つタケルの自然体に注目していた。


 横にいるゼルダンも目を凝らしている。

 タケルの体は薄い水色のシマーに柔らかく包まれている。

「シマーが全く揺らいでいない……こんなのは初めて見る……」

 

 "まるで森の中で散歩でもしてるみてぇだ"

 唾を飲み込むリョウ。



「始めぃ!」

 審判が掛け声を上げた。

 大歓声の観衆。


 開催国スリャの若き英雄ハーリド。

 昨年、羊を無数に食い荒らしたアビスバイパーという巨大ヘビを単独討伐して名を上げた男。


 195センチを超えるハガネのような体。

 浅黒い肌、半裸に金色の腕輪、肩当て。

 丈の短い腰布に動きやすい麻の編み靴。

 長い弯曲刀を持って盾を持たないスタイル。

 

 観衆は期待を込めて拳を突き出しながら応援している。


「やっちまえ!」

「半殺しだ!」 


 すっ、と前に出ながら腰に提げているアパン刀を抜くタケル。

 流れるような美しい所作。

 一切の無駄がない滑らかさで正眼に構える。



 ハーリドとタケルの距離が縮まる。

 

 ハーリドは弯曲刀を片手上段に構えている。

 

 タケルは正眼の構えのままスッと近寄る。


 "この男、全く気負いが無い……"


 ハーリドは不思議な気分だった。

 どんな相手でも殺気にはそれなりに反応する筈だが、目の前の男は周囲の空気と同化しているかのようだ。


 やがてハーリドの間合い。

 相手は目立つ動きなし。

 

 "最速で肩口を切りつける。やつが下がれば体当たり"


「ガアァァッ!」

 裂帛の気合いとともに最短距離を走る弯曲刀。


 タケルは静かに一歩前に出た。

 右手を上にあげ、刀でハーリドの湾曲刀を受ける動き。


 "あんな軽い剣!へし折ってやる!"

 ハーリドの腕に力がこもる。


 互いの刀がぶつかった、と思えた刹那、ハーリドの弯曲刀はタケルの刃の上を滑るように流されてしまった。


 "力が、ぶつからない!?"


 予想だにしない剣の挙動に驚くハーリド。


いなされてハーリドの体が流れた一瞬、タケルの姿が揺らぐように消えた、かのように見えた。

 次の瞬間、タケルはハーリドの後ろで、剣を下げたまま背中を向けて立っていた。


 "あ……?"

 腹部に熱いものを感じ、見るハーリド。

 わき腹に小さな傷。

 それが少しずつ開いていく。

 

 直後、血しぶきを上げ、一歩前に出て膝から崩れ落ちるハーリド。


 悲鳴を上げる女性の観客。


「早く彼の手当てを」


 タケルは刀をそのまま鞘に納めた。


 "返り血が着いてねぇだと!?"

リョウは愕然となった。


 審判がハーリドを見る。

 内臓がこぼれそうなのを押さえている。


「勝者タケル!救護、早く!」

 試合を止める審判。


 慌てて救護班が上がり、ハーリドに回復魔法を使う。


 誰一人声を上げる者はいない。

 静まり返った観客席。


 誰の目にも実力差が明らかで、どうにも勝敗に文句の付けようがなかった。

 ため息と共にハズレ券が破り捨てられていく。


 アッバーク国王が苦虫を噛み潰したかのような表情。


 

「……見えたか?」

 ゼルダンがリョウに尋ねる。


「……剣筋か?見えなかった」

 リョウはもちろん過集中の状態で2人の動きを見ていたが、それでもタケルの剣閃を捉えることができなかった。


「……あいつは剣と共に生きてる」

 リョウは血が冷える思いがしていた。



「やったねタケルちゃん!」

 アヤメがタケルに声をかける。


「……ああ」


「なに、そんな浮かない顔して、どした?」


「受けが甘かった」


「は?あれで?」


「……手に感覚が残るようではまだまだだ」

 悔しそうなタケル。


「御免」


 タケルはそう言うと、そのまま控え室に向かって行った。


 黙って見送るアヤメ。



「今の見た?」

 シオリがアラカンダルの腕を叩く。


「ああ。恐ろしい技の冴え。ヤツはどんな剛剣も受け流すだろう」

 腕に力が入るアラカンダル。

 

「あんたのそんな顔、久しぶりに見たわ」


「つくづく世界は広いと感じる」


「まずは予選を勝ち上がらないとね」


「ああ、同じリーグに気になる相手がいる」


「あのアヤメって女でしょ?」


「分かるか」


「シマーの輝きが他のヤツらとは違うもの」


「油断ならない相手だ」

 2人はタケルと話しているアヤメを見ていた。



「ああ、次は隣でレオン・ヴァイスの試合だわ」

 ふと向かいの試合場を見てシオリが言う。


「あいつもグループを勝ち抜くだろう」

 アラカンダルは真顔で言った。


「エラディア騎士団の指南役だもんね」


「魔法剣士として相当な高みにいる」


「決勝で会うかもね」


「その可能性は高い」


 アラカンダルとシオリは、隣の会場で目を瞑って精神集中しているレオンを見ていた。



「レオン・ヴァイス対アーサー・グレイウス!両者、前へ!」

 審判が高らかに呼び出しの声を上げる。


 レオン・ヴァイスは長身、茶色のやや長めの髪。

 ショートソードに小盾、革鎧の軽装備。

 

 笑顔で試合場に上がる。


「やつは魔法剣士だ。白いシマーの輝きが強い。かなりやりそうだ」

 ゼルダンがリョウに告げる。


「ああ、周りの空気が揺らいで見える」

 リョウも同じような印象を受けた。



 対するアーサー・グレイウスはディリア国の代表で騎士然とした姿。

 長身、さらさらとした金髪の爽やかな雰囲気の男。

 金属の胸当て、小手、脛当て。

 腰に長剣を提げている。


「お、あっちの男もやりそうだな」 


「確かに……いや、何だ?あの剣……鞘から魔力が漏れている……?」


 ゼルダンがそう言ったとき、アーサー・グレイウスは鞘から剣を引き抜いた。


 アーサーが抜いたその剣。

 白い刀身の真ん中に見たことの無い文字の列が青く浮かび上がった。

 うっすら白く光を放つ長剣。


「また魔剣だ!」

「今年の出場者はなんだ!」

「相手は魔法剣士らしいぞ」

「どうなっちまうんだ」



 "バカな!なんだあの剣の魔力量は……!"


レオン・ヴァイスはアーサーが手に持った魔剣の輝きを見て、得も言われぬ威圧感を覚えていた。

 

 



 

 




 


 

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