陽暦1491年10月〜国際武闘大会③
試合場を下りたリョウの前にゼルダンが立っている。
「使いこなせているようだな」
「もう手に馴染んでるよ。ちょっとズルしてる気分だけど」
「ソイツを持っていること自体が実力なんだ。気にするな」
「まあ、そういうことにしとくか。次はゼルダンの試合だろ」
「ああ、相手はヤンホァの戦士だ。どんな武術なのか知らないが」
「本気で行けよ」
「そうだな。どいつもこいつも油断ならない相手ばかりのようだ」
周囲を見回す2人。
特にリョウに注目が集まっている。
「変な視線も感じる。油断すんなよ」
「分かった」
試合場に向かうゼルダン。
「ウェイ・ロン対ゼルダン、試合、始め!」
審判が試合開始を宣言する。
ウェイ・ロンは、短髪で白い腰の下まである長い上着、黒い動きやすそうなズボンを履いている。
武器は両手に嵌めた小手と金属製の脛当て。
格闘主体の武術のようだ。
両手を広げた姿勢でゼルダンの前に低く構えて立つ。
対するゼルダンは少し短めのロングソードを顔の横で平たくして雄牛の構え。
互いに様子見をしている。
“強い!”
ウェイもゼルダンも同時に相手の強さを感じ取っていた。
多少位置取りを変えて試すが、隙という隙が見当たらない。
どうやら身体操作は互角のようだとゼルダンは直感する。
“そうなれば、一気に叩く!”
いきなり完全にシマーを発動。
光り輝くゼルダン。
同時にウェイ・ロンの体も黄色く輝いた。
「何っ!」
お互いに発する驚きの声。
全開の超速でぶつかり合う2人。
ウェイの全力の飛び蹴りを最短距離の移動で躱し、すれ違いざまに切り払うゼルダン。
それを小手で弾くウェイ・ロン。
「うぉぉぉ!」
「すげぇぞこの二人!」
興奮する大観衆。
「おお!速ぇぞ!」
リョウも驚きの速度。
「ウェイ・ロンの“気”を発動後の蹴りを初見で躱すか……ヤーマス、油断ならん国……」
リョウの横で腕組みしながら見ている長身の男。
ヤンホァ風の格好。
一瞬だけリョウをチラッと見て、すぐに視線を試合場に戻す。
“なんだコイツ……!“
リョウは試合に注目しながらも隣の男が気になってしまう。
”バケモンだらけかよ……世界……“
ゾクゾクっと身震いするリョウ。
「おお、あんた強ぇなぁ!」
ウェイ・ロンは距離を取りつつ構え直す。
「フ、お前もな。本気でいくぞ」
一段と輝きを増すゼルダン。
その体の光が内側に沈んでいく。
真っ直ぐにウェイ・ロンを見据えるゼルダン。
突然、雄牛の構えの剣の先端から、光の筋が放たれた。
ウェイ・ロンの右肩に直撃し、そこで軽く爆ぜた。
「ウォォッ!」
苦悶の表情のウェイ・ロン。
次々に放たれる光閃刺。
“なんだ!技に全く起こりがねぇ!”
ウェイ・ロンは驚愕していた。
体のあちこちに被弾し、シマーを破られることは無いものの、次々に重なっていく全身のダメージ。
リョウとの敗北以来、磨き続けてきた一撃。
今では筋肉の収縮なく技を出せるようになっている。
ウェイ・ロンは小手で重要器官をカバーしながら超速で突進した。
”被弾覚悟で重いヤツをかます!”
ジグザグに移動しながら加速してくるウェイ・ロン。
“分身!?”
残像を残しながらウェイ・ロンは近づき、一斉に飛びながら回転蹴りを放ってきた。
足先が燃えるように揺らいでいる。
「連環蹴撃!」
視界全部を覆うようなウェイロンの回転蹴り。
「破ァ!」
ゼルダンの体から爆発的な光が放たれる。
残像が消し飛ばされた。
空中に一つ残るウェイ・ロンの本体。
それでもゼルダンに必中の勢い。
「光盾!」
ゼルダンの剣の横に光の盾が現れ、燃えるようなウェイ・ロンの回転蹴りを受け止め、いなした。
空中でバランスを崩すウェイ・ロン。
そのままゼルダンは回転し、輝く剣の腹でウェイ・ロンの後頭部を叩いた。
地面に叩きつけられて昏倒するウェイ・ロン。
唸ったまま立ち上がれない。
「勝者!ゼルダン!」
審判が両手を交差させて試合を止めた。
「ウォォォォォ!あいつすげぇぞ!」
「魔法剣士!」
「ヤーマスどうなってやがる!」
「誰に賭けたら良いんだ?」
「今年、レベル高すぎるぞ」
大歓声の観衆。
盛大に宙を舞うハズレ券の紙吹雪。
「魔法剣士として恐るべき完成度……しかし……」
リョウの横に立つ男はそう呟き、立ち去った。
「どう?アラカンダル」
シオリがつついてくる。
「ああ、凄い遣い手だな」
無表情のアラカンダル。
「勝てる?」
「相手の技の威力次第だ」
「……すごいわねヤーマス騎士団」
「ああ。戦場でも見かけないレベルだ。この大会に出て良かったと思う」
「あんたにそこまで言わせるなんて思ってなかったわ」
「世界中に広がっている果てしない上を目指す武の道。その頂点に立つのは誰か……」
「それはあんたよ」
「そうでありたいと思う」
シオリを優しく見つめるアラカンダル。
“ちょ、もう、そんな目で見ないでよ”
仮面を背けるシオリ。
「どうした?」
「どうした?じゃないわ。いや、なんでもないわ。次の試合頑張んなさいよ!」
「分かった」
「次の試合、アラカンダル・エラ・カリス対シグルド・ルーンへイム!」
「アイツ!“暁月”の切込隊長だぞ!」
「最強の傭兵団の!?」
「デケェ!、いや、相手もデケェ!」
観客のボルテージが嫌が応にも高まっていく。
長大な剣を握りしめながら試合場に向かうアラカンダル。
逆光の中で舞台に向かうその姿。
シオリの目には神話を描いた一幅の絵画のように見えた。
“あんたは世界最強……なんだから、いつか世界に名を轟かせる人なんだからね!”
仮面越しから垣間見えるアラカンダルへの全幅の信頼。
まだ誰も知らない。
この大会が後世の歴史書に刻まれることを。




