陽暦1491年10月〜国際武闘大会②
その日、闘技場にエントリーに行くリョウとゼルダン。
受付には数人がエントリーの列をなしていた。
振り返ってこちらを見る袴姿の少女。
「あーっ!リョウちん!あんたも出るの!?」
「アヤメ!久しぶり!出るのか」
「ふっふーん、そうよ」
腰に手を当てて反り返るアヤメ。
「アヤメ殿、そちらは?」
アヤメの前に並んでいる上下黒の袴姿の男。
少し伸びた髪を頭の上にまとめ上げて結んでいる。
「いとこみたいな?リョウちんです」
「ふむ?私はタケルと申します。リョウちんどの、お見知り置きを」
「はい。よろしくタケルさん。ちんは要りません」
「タケルちゃん固いよ……ハッ!」
アヤメがゼルダンに気付いた。
「イケメン……!……どちらさま?」
「私はゼルダン・クレスト。よろしく」
「クール系……よろしくねゼルちゃん」
なんだかもじもじしているアヤメ。
「リョウ」
ゼルダンがリョウに言う。
「なんだ?」
「アパン代表、強いな」
「ああ……なんだあのタケルってのは。隠してても分かるぜあの気は」
「エラディアの彼と同じで、頭ひとつ抜けている感じだ」
「他にもウヨウヨ気になるのがいるねぇ。明日が楽しみだ」
翌朝、闘技場。
眩しい太陽。
満員の観客席。
各国の来賓席も埋まっている。
国際武闘大会は、吹奏楽の演奏で幕を開けた。
耳をつんざくような大歓声。
万単位の観客がいる。
もちろん、勝敗は全て賭けの対象となっているので、巨額の金が動く。
“すげぇ観客!”
リョウは昨日までどこか他人事のように感じていたが、実際の場になって武者震いがしてきた。
“ジンライの出番……”
柄を握る手が湿っている。
大陸各国から集まってきた若い戦士たち、17カ国の総勢36名が6人ずつ並んでいた。
開催国スリャが4人、その他各国2人ずつエントリーしている。
予選で6人の6グループが総当たり戦を行い、各グループ1人、プラスワイルドカード2人の合計8人が決勝トーナメントに進む。
グループ編成はスリャ国に一任されており、各国代表がお互いに予選で潰しあわないようあらかじめ組分けしてある。
「さあ、若き戦士たちよ!その新時代の力、存分に示すがいい!」
宝飾品の付いたフードを被っているスリャ国王アッバーク。
今、声高らかに大会の開幕を宣言した。
「さあ、ヤーマスの騎士魂を見せてやろうぜゼルダン」
「ああ。様子見は無しだ」
いやが応にも高まる2人の戦意。
今予選会は、闘技場を2つに分けて、一度に2試合ずつ開催されていく。
武器、魔法の使用はなんでも有りで、降参又は戦闘不能により勝敗が決する。
相手を死亡させた場合は即座に失格となり、当該国は向こう5年間出場禁止となる。
負傷者は魔法治療班が即座に治療を行うが、程度の重い外傷などは不戦敗となりグループを離脱する。
リョウはグループ1。
ゼルダンはグループ5。
今日の予選で戦うことは無い。
「予選会、開始!」
グループ1の第一試合はいきなりリョウの出番だ。
相手はファランス国の代表、レイム・ベルナール。
ファランス流の貴族ファッションに、突き主体の細身の剣。
リョウと同じくらいの背丈だが、明るい茶色の髪を長く伸ばしており、貴公子といった風情の男だ。
互いに礼をして試合場の中ほどまで進む。
「レイム・ベルナール対リョウ、始め!」
審判が試合開始の合図を出す。
レイムが細身の剣を抜いて半身に構える。
リョウは少しぎこちない動き。
まだ剣の柄に手をかけたままだ。
「どうした……リョウとやら。抜かないのか?」
構えたままレイムが話しかける。
「あ、ああ。抜いていいんだったなコイツを」
”本番は約一年振りか“
そう言いつつ、慎重にリョウは蒼雷剣ジンライを鞘から抜いた。
うっすら青い光に包まれている。
どよめく観客。
「……魔剣!」
「反則じゃないのか……?」
「あいつのオッズ、どうなってる?」
「なんだその剣は。光るだけか?」
レイムが挑発するが、全く油断はしておらず、目の色は最大限の警戒の光を湛えている。
見たところ年若い小僧のようだが、ヤーマスの代表には違いない。
レイムは細身の剣を僅かに握り直した。
ただ、剣が多少良かろうが、当たらなければ負けないのだ。
「いや。まあ、いろいろだ」
リョウは蒼雷剣ジンライを正眼に構えた。
“堂に入っている”
レイムは直感した。
“強い”
互いの距離は一足一刀の間合いより少し遠い。
リョウは少し当惑していた。
蒼雷剣ジンライを構えているこの心強さは、これまで感じたことのないものだ。
どんな攻撃をされようとも問題がない気がする。
「攻めてこないのか?」
今度はリョウがレイムに言う。
レイムはリョウからの謎の圧力に、前に出られずにいる。
「それじゃ、こっちから行くぜ!」
リョウは、一気にシマーを身体中に巡らせた。
“なんだ!?“
一瞬にしてリョウから感じる圧力が増大する。
レイムの脳が最大の警鐘を鳴らす。
と同時にリョウは全力で踏み込んだ。
”遠い!前に避けざまに足を突く!“
レイムの脳裏に閃いたビジョン。
しかし、リョウの踏み込み速度が予想より速すぎた。
かろうじて前に避けようとするが、突きにいける体勢にならない。
そこでリョウは前に出ながらもこちらに向き直っており、青く光る剣を払ってきた。
”速い!……だが、軽い!受けられる!“
レイムが手元に剣を上げる。
ガキッ、と嫌に軽い音が響いた。
リョウの軽く払ったような一撃で、レイムの細身の剣は、手元の辺りから一刀両断されてしまった。
「バカな!」
目を疑うレイム。
審判。
観客。
リョウは呆気に取られたレイムの剣を蹴り上げて、弾き飛ばした。
「続けるか?」
剣を突きつけているリョウ。
シン……となる試合場。
目の前が歪むレイム。
現実をうまく受け入れられない。
「……降参だ」
やっとのことでその一言を絞り出すレイム。
「勝者!リョウ!」
少しずつ声を出し始める観客席。
いつの間にか大歓声と怒号になっていた。
「なんだアイツは!」
「あの武器、汚ねぇぞ!」
「ヤーマス代表だ!」
「オッズが……激動する!」
「誰か、情報をくれ!」
貴賓席もどよめいている。
スリャ国王アッバークが側近に何やら耳打ちをしている。
頷く黒服の側近。
”なんだ……この不快な感じは……誰だ“
殺気が体中にまとわりつく。
リョウは試合場を下りるまで、ずっと殺気のこもった視線を感じていた。




