陽暦1491年10月〜国際武闘大会①
「おう、仕上げてきたなリョウ!」
剣を交えた後、ウーツァン指南役はリョウに言った。
リョウの手には蒼雷剣ジンライが握られている。
ウーツァン指南役の金属製の大剣は両断されていた。
切断面が溶けている。
「……コイツは、過ぎたる力です」
殊勝な顔のリョウ。
「ガハハ、そう言うな。よくぞモノにした……さて……」
ウーツァン指南役はリョウに言う。
「半年の期限を切ったのは、お前を国際武闘大会に出すためだ」
「国際武闘大会?」
「毎年この時期、諸国持ち回りで開催している武闘大会よ。今年はスリャ国の首都サンカラで開催される」
「へぇ?」
「もう申し込んでいるぞ。謎の戦士リョウとしてな」
「謎の戦士!?」
「謎の戦士ゼルダンもな。引率は無し。明日からお前ら2人で行け」
「え、もう逃げられないヤツ?」
「逃げるのか?」
懐から招待状を取り出し、ヒラヒラさせてニヤッと笑うウーツァン。
「むふー!」
鼻息で否定するリョウ。
招待状に手を伸ばして受け取る。
「……でもさすがにいきなり過ぎません?」
「つべこべ言うな。謎の戦士だが、大会には30歳までという年齢制限があってな?これは各国とも表向きは武闘大会と言っとる、だが実際は若い世代の力比べ……国の威信をかけた模擬戦争よ」
驚いた表情のリョウ。
「手紙にはワシの名前が添えてあるから、主催者にはお前らがヤーマスの若手代表だと分かっておるぞ」
「もしかして責任重い?」
「負けたら……ボーナスに影響する」
「なぁんだ、ってオイー!」
「負けなきゃいいんだ。負けねぇだろ?」
「……そりゃ同世代には負ける気はしねぇです」
「世界は広いから分からんぞ?だが、どうあれ、お前らにとって絶対に為になる。実は俺も昔、出場したことがあるのだ」
「どうなったんですか?」
「もちろん優勝……と言いたいが、決勝で負けた」
「えぇっ!」
信じられないという表情のリョウ。
セキサイと互角のウーツァンを倒すとは。
「いろんな奴がいる。相性もある。戦いの中でそれを学べ」
「はい!ウォォォ……燃えてきたぁ!」
「ちなみに優勝者には一つ魔道具が贈られるぞ。今年それが何かは知らんが」
「そっちはあんまり興味ないです」
「だいたい売れば金貨1000枚は下らないようなヤツばかりだ」
「大金持ち!」
「贈った国の名誉を汚すから売れねぇけどな」
「そらそうか」
「……ってな話だ。旅支度しなゼルダン」
寮に戻ってゼルダンの部屋。
「分かった」
「やけに物分かりが良いな?」
「実は国際武闘大会のことは以前から聞かされていた。“時が来た”くらいの感想だ。まあ、明日出発とは思わなかったが」
「じゃあ、明日から旅行だな」
「決勝で待ってるぞ」
荷物を詰めながら口角が上がるゼルダン。
「お前、それは俺のセリフだってぇの」
翌朝、リョウとゼルダンは“文化の道”を西に向かう馬車の中にいた。
ヤーマス騎士団の鎧は置いてきて、代わりに自前のウォーベアの鎧を着ているリョウ。
ゼルダンも革鎧の戦士風の出立だ。
2日かけてアパンに到着。
そこからさらに2日かけて急足でスリャ国に着いた。
異国情緒あふれた土塀の国境の壁。
聞きなれない言葉。
見慣れない服装。
国境警備兵が2人をじろじろ見てくる。
「入国目的を」
2人とも招待状を見せる。
「おお!武闘大会の参加者ですか!」
目の色が変わる警備兵。
「頑張って!」
にこやかに送り出す警備兵。
「歓迎されてるな」
「そうだな」
2人はそのまま馬車で首都サンカラまで進んだ。
道中はほぼ砂、砂、砂。
時折、水辺の町を経由する。
基本的に乾いている空気。
「なんか違うなー!外国って感じ」
どこからともなく聞こえてくる耳慣れない旋律。
漂ってくるスパイシーな香り。
市場の喧騒。
背中にコブのある見慣れない動物が荷物を運ばされている。
”国際武闘大会“の看板があちこちに掲げてある。
街は祭りの様相を呈していた。
他国からの見物人も多いようだ。
「買わないか」
肉の串焼きを押し付けてくる男。
ちょっと高いと思って買わないリョウ。
「お兄さんたち、どう?」
水の入った瓶を売りにくる女。
ちょっと高い気がしてやっぱり買わないリョウ。
「本当に国を挙げた一大イベントなんだなぁ!」
リョウは街を見て実感していた。
「お前結構しっかりしてるな」
ゼルダンがリョウの横顔を見ながら言う。
「宿はあれだ」
相当な大きさの格式の高いホテル。
屋根が半球状のドームで覆われている。
招待状を見せるとすんなりチェックイン出来た。
「お部屋をご案内します」
入るとそこは広くて豪華な部屋だった。
瓶入りの飲み水が置いてある。
「飲んで良いのかな?」
リョウが栓を抜こうとする。
「待て」
「なんで?」
「こんな時、他国代表を弱らせる薬が入っていることがあるそうだ」
「はぁ!?」
「試合は明日からだ。用心するに越したことはない」
「せちがれぇなぁ」
恨めしそうに瓶を見るリョウ。
ロビーに下りた2人。
広間に明らかに強そうな奴が何人かいる。
「あっちは……オーロ帝国代表か……向こうはケドニア……かな。リアっぽい服装の奴らもいるぞ」
ゼルダンがリョウに耳打ちする。
各国の民族衣装の博覧会かのような多様な服装の男たち。
そんな中、どこかで見たことのある二人組がソファに座っている。
背の高い金髪の、まるで彫刻のようなガッチリした男。
顔の上半分を銀色の仮面で隠している黒髪の女。
リョウたちとお互いに視線がぶつかる。
「……あ!」
仮面の女がリョウに指を差す。
リョウは少し考える。
どこかで見たことのある2人。
「ヤーマスの騎士!」
仮面の女、シオリがアラカンダルに向かって言う。
リョウは思い出した。
ライデル動乱の際にブリッジウエスト市の入口を封鎖していた傭兵たち、の先頭にいた馬上の2人。
リョウは、前回初めて目の前の金髪男と会った時に、不思議な感覚に陥ったことを思い出した。
「あの時の……」
思わず口にする。
仮面の女が近づいて話しかけてきた。
「覚えてるようね。私はシオリ。あっちのアラカンダルは、武闘大会でエラディア国の代表。アンタたちも出るの?」
「ああ。俺はリョウ」
「ゼルダンだ」
「チーム謎の戦士だ」
「そういうのはいいから」
シオリはリョウの耳に近づいて小声で囁く。
「……ねぇ……アンタ、もしかして転生者?」
ギョッとするリョウ。
「なんで分かる?」
「分かるのよ。私も、ね」
分かる理由は言わないシオリ。
ため息を吐くリョウ。
別に隠している訳ではないが、奇異な目で見られるのは嫌なので自ら話すことは無い話題だ。
「そうらしい。だが記憶はほぼ無い。たまに風景なんか見て切なくなったりするだけだ。私も、ってことは、あんたも転生者かシオリさん?」
「そうよ。私は前世の記憶がしっかりあるわ。てっきり顔の作りとか目の色なんかで同郷だと思ってたわ」
「もしかしてあんた、アパンゆかりの人か?」
「アパンじゃなくてジャパンだけどね。日本よ。まったくこっちはふざけた世界ね」
リョウは何がふざけているのかは分からないが、シオリの言うことに嘘はなさそうだと感じていた。
アラカンダルが近づいてくる。
まとっている周りの空気が違う。
まるで知性の高い猛獣がそこにいるような違和感。
“デカいヤツだな。そして半端なく強ぇ”
長身のジンより頭一つデカい。
身のこなしから得体の知れない強さが漂っている。
まったく底が知れない。
同世代でこれ程の圧は初めて感じる。
「俺はアラカンダル。リョウと言ったな。いい試合をしよう」
手を差し出してくる。
必ずどこかで戦うことを確信しているようだ。
リョウはアラカンダルの手を握った。
大きくて分厚い手だ。
強めに握ると同じ力で返してきた。
「ああ」
微笑むリョウ。
隠しているシマーが思わず溢れ出してしまう。
”アラカンダル、この男とは何か縁がある“
リョウはアラカンダルの目を見ながらそう思っていた。




