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青の年代記〜山奥の少年が、いつか世界を変える話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

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陽暦1491年7月〜リョウと神遺武装②

「間違って……ますか……」

 体を起こしながらリョウは言う。


「そうだ。お前とその剣が魔力的に繋がっていない」

 レオンハルトは真っ直ぐ指摘した。


「……それは、どういうことなんです?」


「お前の心が剣と一体になれていないってことだ」


 そう言われて、リョウは“ハッ”とした。


 確かに、リョウはこの蒼雷剣ジンライをどこか信用していない。


 この剣には、かつてお互いに殺し合った雷鳴竜の思念が残っているのではないかという疑念。

 そして、昨年のライデル動乱の際には、暴発させて見ず知らずの敵兵を殺してしまったこと、同時に仲間のエステルを死なせそうになってしまった過去。


 それが、この剣を用いる際、心の奥底に小さな棘のように刺さったまま抜けない。


「そうですか……納得がいきます」


「いいか、そいつは、もう雷鳴竜ジンライじゃない。神遺武装。いわば武器。お前ら武術家は、鍛錬によって武器を体の一部にするんだろ。それと同じことだ」


 レオンハルトの言葉にゼルダンは納得していた。

 それがリョウの無駄な力みの原因かと。


「確かにそいつからは思念を感じる。しかし、それはもう昔の竜ジンライの思念ではない。神遺武装としての思念よ」


 リョウは手に握ったままの蒼雷剣をじっと見た。


 これは自分に突き刺さったこともあり、恐怖の象徴だった。


「リョウ、そいつを、ただの木刀だと思って振ってみろ」

 ゼルダンがリョウに言う。


「そうだな……」

 リョウは蒼雷剣を正眼に構えてみた。


 イメージを集中して、木刀だと思うことにする。


 そのうちに視界がぐにゃりと曲がってくるような感じがしてきた。


「くっ」

 

 まだどこか心の奥底で暴発するんじゃないかといううっすらした疑念が晴れない。

 考えれば考えるほど、その思いが消えてくれない。


 “くっそぉ、どうすれば……!”


「子供の頃、棒っきれで遊んでいたことでも思い出してみろ」

 レオンハルトの何気ない一言。


 リョウは再びイメージの世界に集中する。


 目の前にはイメージのセキサイがぼんやり浮かび上がってきた。

 木刀を構えている。


 “よいかリョウ。武器は、体の一部になるまで扱って慣れるんじゃ。さすれば裏切らん。お主の手足、裏切らんじゃろ?“


 イメージのセキサイがかつて教えた言葉を投げかけてくる。


 ”そうだったなジイちゃん“


 ふう、と一息吐くと、リョウは全身を一度脱力させた。


「よし!」


 再び正眼に構える。


「おお……」

 ゼルダンは嘆息した。

 

 ”力みのない凄まじい安定感。リョウ本来の身体操作か……“


「そこでシマーを集めてみろ」

 レオンハルトが指示をする。


 リョウは蒼雷剣にシマーを集め始めた。


 うっすら青く輝く蒼雷剣。

 

「ここからだ。結界は張らねぇ。もっと入れろ」

 レオンハルトは両手を広げてリョウの前に立った。


 暴発すればただでは済まない距離。


 ゼルダンもその横に立つ。


 ファルクも、キョロキョロしながら、自らも師匠の横に立つ。

 覚悟を決めた表情。


「……危ねぇぞ」

 リョウの表情が揺らぐ。


「ぼ、木刀なんだろ、危なくねぇよ」

 ファルクは歯の根が合っていないが、はっきりそう言った。


 ”みんな、ありがとう“


 リョウはさらにシマーを剣に集める。


 より一層強く輝き始める蒼雷剣ジンライ。


 剣からの青い輝きはだんだんと強くなっていく。


 ”キィィィィ……ン“という微かな音がし始めた。


 

「……なんと強力な神遺武装……」

 先刻の雷鳴から尖塔の窓から外を見下ろしていたナディア・カーン院長。


 ”……シマーの流れがスムーズになったようね”


 院長の口角が上がる。


「ヤーマス騎士団……よい拾い物をしたわね」


 窓を閉めて執務に戻る。



 “済まなかったな蒼雷剣ジンライ。俺、お前のこと、怖がっていた”


 剣を握ったまま、リョウは心の中から蒼雷剣に呼びかける。


 “お前にかつての竜の意思があるんじゃないかって、ビビってたんだ”


 “暴発させてしまっていたのは、俺の心の弱さのせいだ”


 眩しいほどに青く輝く蒼雷剣。


 ”俺、もうビビらねぇからな。その力を貸してくれ……!”

 

 「キィィィィン!」という音がさらに大きくなり、「バッ、ババッ」と剣の周りに電光が纏わりつき始める。


「こ、これ大丈夫なんすか?」

 あまりの剣の迫力に、ファルクが隣のレオンハルトを横目で見ながら言う。


「知らね」

 レオンハルトは素っ気なく答える。

 ただ、その目はリョウのシマーのスムーズな流れを捉えていた。

 ニヤッとする。



 『ようやく我を見たな』


 リョウに伝わる蒼雷剣ジンライの意思。


 『共に戦おう。我はそのために有る』


 リョウの脳内に流れ込んでくる言葉。


 ”ああ、よろしくな、ジンライ“


 リョウは、これまでで最大の集中をもって剣に力を注いだ。

 

 正眼に構えたままのリョウの剣の輝きが収束していった。

 鳴り響いていた高周波音も止んだ。


「ふぅ……」

 構えを解くリョウ。


「やったみたいだな」

 ゼルダンが声をかける。


「ああ」

 リョウは憑き物が落ちたかのような表情。


「見せてみろ」

 レオンハルトが差し出された剣を手に取って見る。

 微かな青い光に包まれ続けている。


「もう大丈夫のようだな。あとは慣れるまで振り続けな」


「ありがとうございました!」

 深々と頭を下げて立ち去るリョウ。

 途中で振り向いて頭を下げるゼルダン。



「ファルクよ。お前の同期生、おもしれぇな」


「そうでしょう!」


「じゃあ、お前の魔力五重発動の訓練再開!」


「うげぇ……」

 

 


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