陽暦1491年7月〜リョウと神遺武装①
7月の暑い日、リョウは連日訓練場で悩んでいた。
蒼雷剣ジンライのコントロール方法がなかなか上手くいっていない。
春からゼルダン・クレストと共に武術指導者見習いとしてウーツァン指南役の下に配属されてから、ずっと取り組んでいる。
リョウはジンライを両手で握って構えながら目を閉じている。
「シマーの移動が早過ぎる。もっと、もっと繊細に扱うんだ」
シマーが見えるゼルダンが、連日リョウにつきっきりで指導している。
「ぬぬぬぬ……」
剣をうっすら青い光が包み始める。
「その感じだ……ウッ!」
迸った電流がゼルダンの肩に当たった。
「すまねぇ!」
「大丈夫だ!集中を切らすな」
一瞬苦悶の表情を浮かべたゼルダン。
しかしすぐ指導に戻る。
リョウは再び慎重にシマーを剣に纏わせる。
「そのままだ……あと5分持続しろ……」
額にうっすら汗をかきながら、微動だにしないリョウ。
“……リョウは我慢強い、なんてもんじゃないな。異常とも言える“
ゼルダンは心の中でリョウの辛抱強さに舌を巻いていた。
4月に蒼雷剣ジンライの制御を始めたばかりの頃は、リョウは一日何百回も剣を暴発させた。
5月に入り暴発の回数が半減。
6月になると多少の事では暴発しなくなってきて、リョウのシマー総量も増え始めた。
「リョウ、お前の力、全体的に増えてきているぞ」
「やっぱそうなのか?」
「ああ、そして少しずつ操作が進歩してきている」
「おう。手応えは少ししかないけど。頑張るよ」
今、落ち着いたリョウは剣に青い光を纏わせた状態を持続している。
”実際のところこの訓練は、いきなり魔術師になれ、というようなことを要求しているようなものだ……”
ゼルダンが2歳の時に魔力があると分かってから、父親はゼルダンの家庭教師として魔法研究院の者を雇い、異常な執着を持って指導させてきた。
ゼルダンが今のレベルの魔力操作が出来るようになるまで10年以上の訓練を要しているのだ。
夕刻、その日の訓練が終了した。
リョウはゼルダンと食堂で一緒に食事をとっている。
食堂の中は、今年入団した277期生たちも一斉に食事を取っており、ガヤガヤしている。
リョウは納得のいっていない表情。
「あと一歩、何かが足りない気がする……」
「すまん。俺とは違うやり方だから的確なアドバイスが出来ていない」
「お前のせいじゃねぇよ……何か視点を変えられないかなぁ……」
「……魔法研究院に行ってみるか?何か分かるかも知れんぞ」
ゼルダンは自分の経験を思い出していた。
「そうだな……気分転換がてら行ってみるか」
翌朝、ウーツァン指南役から許可を得てリョウとゼルダンの2人は魔法研究院の前にいた。
門衛に説明して中に入ろうとする2人。
施設の中から爆発音。
「なんだ!」
慌てるリョウとゼルダン。
「大丈夫です。ここでは日常茶飯事です」
門衛が冷静に言う。
通されて施設の方に向かうと、庭園の広場でへたばっているファルクを見つけた。
髪の毛が一部焦げている。
「班長!」
駆け寄ろうとするリョウ。
「……おお、リョウ、とゼルダン……どうした?」
顔だけこっちに向けるファルク。
「どうしたはこっちのセリフなんだけど」
苦笑するリョウ。
「なんだお前らは?……そっちは……見たことあるな。クレスト家の坊ちゃんか」
ファルクの傍らに立っている背の高い白いローブ姿の男。
レオンハルト・ヴァイスだ。
近寄ってくるレオンハルト。
「約10年前に屋敷でご挨拶を。ヴァイス師」
「誰?」
小声でゼルダンに聞くリョウ。
「レオンハルト・ヴァイス師。狂乱のアークメイジと呼ばれている方だ」
囁くゼルダン。
「待て待て待て……なんだお前の腰に下げている剣は!抜くなよ」
驚いた表情でじろじろ見るレオンハルト。
「神遺武装……か?お前は?」
「俺はリョウ。騎士団の武術指導者見習いです。……これは蒼雷剣ジンライって呼んでますけど、神遺武装?ってなんですか?」
「お前、もしかして雷鳴竜ジンライを……討伐したのか……?」
「そうっす」
「……そうか。なるほど。興味深いぞリョウとやら。神遺武装はな、世界各地にいるネームドモンスターを倒して得られる武具のことだ。世界中でも数えられるほどしか確認されていない」
「珍しいんすね」
「国宝級よ。ほら、あの、お前らの先輩にいるだろラヴェル・アストレアってのが。あいつが持っている炎の剣もその一つ”緋炎剣ガルム“。火を吐く魔犬ガルムから生まれた神遺武装だ。もっとも、ラヴェル自身が討伐したんじゃなく、地下格闘場で優勝して手に入れたらしいが」
「ああ!あの燃える剣!そんな謂れが」
「神遺武装には分かっていないことが多い。使い手を選ぶとも」
「そうみたいですね。この剣も俺しか使えないみたいで。しかも扱いが難しくて。何かアドバイスが貰えないかと思ってここにきたんです」
「そうか。それは良かったな。俺に会えて」
不敵な笑みを浮かべるレオンハルト。
苦い顔をするファルク。
「ちょっと貸してみろ」
リョウは蒼雷剣をレオンハルトに渡す。
魔力を込めるレオンハルト。
「む?拒絶された?ウォォォ……!」
ムキになって集中するレオンハルト。
10秒ほど全力で魔力を込める。
周囲に魔力が暴走して突風が吹き荒れ始める。
「ウワァァ!」
小石や草などが吹き散らされる顔を押さえるリョウたち。
収束していく。
「……ハァ……ハァ……駄目だ……どうやっても魔力が拒まれる」
そう言うとレオンハルトは剣をリョウに返す。
「やって見せろ」
リョウは穏やかに剣に力を込め始める。
うっすら青く輝く蒼雷剣。
「おおお!……これは……!」
レオンハルトの目の色が変わる。
”この男、魔力持ちではないが、シマーを操っている。そして、この剣がそれを受け入れている……魔法ではない、だが、結果だけ見ればキーンソード以上の強化効果を生んでいる……!“
「よし、念のためだ。神遺武装は何をしでかすか分からん。周囲に結界を張る。安心して全力でやって見せろ!」
そう言うと、レオンハルトは杖をかざし、リョウの周囲にドーム状の力場を形成させた。
「……良いんすね……いきますよ!」
リョウは深呼吸する。
奥義”無間“を発動する要領で、剣にシマーを集中させた。
「ウオォォォォオオ!」
“バリバリッ”と轟音が弾け、結界の中で激しく、強烈に吹き荒れる青い雷光の嵐。
リョウの髪が逆立ち、皮膚の一部がめくれ血が滲み出す。
結界の中の地面の草が燃え始め、消滅していく。
「うわぁ!」
「なんと!」
ファルクとゼルダンも顔の前に手を出して眩しさに耐えている。
「……は?」
ピシッ。
結界に一本の亀裂が走る。
「うぉぉ!?もういい!もうやめろ!ストップ!」
杖と手振りでやめさせるレオンハルト。
「ハァ……ハァ……」
項垂れて肩で息をしているリョウ。
時々まだバチっと小さな電光が弾ける。
体のあちこちから煙が燻っている。
「俺の作った結界を破るとは、全くとんでもない威力だ。結界で覆っていなかったら、ここら一帯全滅よ」
呆れたように言うレオンハルト。
「だが、今ので分かったぜ。お前のやり方には誤りがある」




