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青の年代記〜山奥でひたすら修行した少年が、いつか英雄になる話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

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陽暦1491年5月〜オーロ帝国行①

 ジンは、旅のローブ姿で“文化の道”を東に行く馬車に乗っていた。


 軍略科の秘匿任務でオーロ帝国に出張するためだ。


 “オーロ帝国軍に悟られないようにしなければ”

 

 今回の旅の目的は、諜報用の“風話器”をオーロ帝国に設置することにある。


 旅を共にするのは同期のカルラ・デ・ブラン女史と、グラハム・ドルゴス騎士だ。


 グラハムは背が高く、日焼けした精悍な30代。

 銀髪の騎士で、ヤーマス王国北東の辺境ラール県に住むシッチ部族の出身者だ。

 シッチは騎馬の民で、弓や剣の戦いに長けており、優秀な傭兵として各地で雇われている。

 

 グラハムは軍略科に所属している訳ではないが、かつてオーロ帝国に何度か赴いたことがあり、現地の情勢に通じているため今回の引率として選ばれた。


 “この青年がカイゼル公のお気に入り……どの程度のものか“


 グラハムはじっとジンの立ち振る舞いを見ている。


 見られていることにすぐ気付いて微笑み返すジン。


 ”抜け目はなさそうだ“



 テリス海大橋を渡り、南北街道を馬車で3日かけて北進。

 テリスノース州の州都トロイト通過して更に1日。

 ラール県の県都ラールに着いた。

 

 そこから更に東進してリア国の国境に入る。


 リア国とヤーマスは友好国であるので、お互いに面倒な手続きは少なく、身分証と査証の呈示を持って国境を越えることが出来る。


 そこから1日北進し、当面の目的地であるリア国のツィア村に到着した。


 ここはオーロ帝国とリア国の国境の街であり、ルプ峠の入り口だ。


 ここからルプ峠を越えてオーロ帝国のオストク市に入るのが一般的なルートだ。

 ルプ峠は標高3000メートルでまだ雪が残っている。

 峠道以外に道は無く、道を外れるとウォーベアなどの危険なモンスターがいる可能性が高いので、誰も道を外れる者はいない。



「……本当に遠かった……」

 国境のツィア村、安宿の一室で、ベッドに腰掛けながらカルラは心底疲れた表情で呟いた。


「これからが本番だよ」

 ジンは背伸びしながら言った。

 背嚢から荷物を取り出して中の風話器を確認する。


「ルプ峠はオーロ側の審査が厳しく、風話器なんかを持ち込むことは厳しく制限されていて不可能だが……まだ雪が残る中、計画通りやるのか?」

 グラハムが心配そうにジンに向けて言う。


「はい。問題ありません。明日決行します」

 ジンは弓を手入れしながら言った。



 翌日、一行はルプ峠を登り、夕刻、国境の門が見える場所まで着いた。

 国境を越える人の群れが列をなしている。

 警備兵の数はリア国、オーロ帝国共に相当な数がいて、無理やりに超えることは不可能だと思えた。


 カルラとグラハムは商家の令嬢と護衛といった出立ちに偽装している。

 

 ジンは目隠しして完全な白装束に背嚢、弓、小剣といった物騒な姿。

 警備兵に見られたら一発で不審者扱いだ。


「では、手筈通りに」

 ジンは2人にそれだけ言うと、峠道を外れ、まだ雪が残る山の中へ1人で消えていった。


「あいついつもあんななのか?本当に大丈夫か?」

 グラハムはカルラに聞く。


「はい。本人が大丈夫って言ってるので、大丈夫だと思います」

 カルラはジンが訓練中に疲れた様子を一度も見せなかったことを思い出していた。

 テオ村出身の3人は、どんな長距離を、鎧を着てハイペースで走っても疲れた素ぶりすら見せなかった。


「しかし、オストクまで10キロはあるんだぞ……」

 そう言いながら、グラハムはカルラと2人で国境の門に向けて歩き始めた。



 ジンは暗くなるまで木の陰に隠れていた。

 そこから山を歩き始める。


「この辺りの植生も、テオ村とあまり変わんないな」

 少し残念そうなジンの呟き。

 そう言いながらも小走りくらいの速度で急な斜面を手を使いながらスタスタと登って行く。



 ジンは急ぎながらも、辺りを見回しながら危険なモンスターの棲息域ではないか、慎重に見極めている。


 ”おっ、ウォーベアの爪痕……足跡は……あっちか“


 ”こっちはグレートウルフの糞……小規模の群れだ……“


 狩人の目線で危険な道をどんどん避けて行く。



 そこから1時間ほど進んだ後、20メートルほど先に、一頭の大きな生物の死骸を発見した。

 雪の上に広がる赤黒い血が広がっている。


 “群れを離れた雄のソードディア……食い散らかされている。そんなに古くない”


 雪に残るまだ新しい足跡はジンがまだ見たことの無いものだ。

 それがいきなり消えている。


 “大型の猛獣タイプにやられてそうだ“


 ジンは手袋を外し、背中から弓と矢を取り出して、いつでも放てる心の準備をしながら、慎重に開けた場所を目指して歩く。


 あまり音のしないスノーブーツを履いているが、それでも”シャッ、シャッ“と足音がする。


 ”見えない……けど、近くにいる気がする……見られてる“


 月明かりを雪が反射して、ほの明るい中、周囲の音が止んだ。


 ”鳥の声が止んだ……おかしい”


 ジンは弓を構え、全身全霊をもって周囲の気配を探る。


 “静まれ、鼓動”


 深呼吸すると、緊張で早くなっていた心臓の鼓動がおさまっていく。


 近くの木の枝から雪がサラッと落ちる音。


 ジンが振り向く。


 カラマツの木の上から、月をバックに飛びかかってくる巨大な影。


 ”速い!けど、見える……!“

 ジンの脳は、過集中で、世界はスローモーションに見えていた。

 

 一歩斜めに飛び避けつつ、ソイツに向かって弓を放つ。

 左の肩口に刺さった。


 前転受け身をしながら見たその姿。


 ジンの目が大きく見開かれる。


 馬より大きいその姿。

 白銀の毛並み。

 小剣のようなその犬歯と爪。


 “ゴルルル……“という重低音の唸り声。


「オーロタイガー……!」


 


 

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