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青の年代記〜山奥でひたすら修行した少年が、いつか英雄になる話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

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陽暦1491年5月〜魔法研究院

 魔法研究院に出向し、1ヶ月が過ぎた頃、ファルク・リンデルはすでに疲れ果てていた。


「おい、ファルク!部屋片付けておけよ!終わったら論文の清書な」

「今から多重属性発動訓練な!とりあえず2重が発動出来なきゃ飯抜き!」

「実験体のジャイアント・フロッグ10匹捕まえるまで帰ってくるな」


など、毎日、基礎訓練と同時に雑用を死ぬほどやらされているからだ。


「騎士団からの出向者は根性があるからやり甲斐があるぜ」


 レオンハルトはへばって草に這いつくばっているファルクを見て笑いながら言う。

 今日も基礎訓練で、無理やり何度も魔法を出し尽くさせられている。


「……死ぬ……」


「死なねぇよ。魔力総量は、空っけつになって初めて増えるんだって言ったよなぁ。お前のそのバケツくらいの魔力総量を25メートルプール並みに増やしてやろうってんだ。もっと有り難がれ」

 レオンハルトはそう言うと、杖の先をファルクの頭に押し当てた。

「アタ!」

 そこから魔力を無理やりに補充する。

「うげぇー!」


「さぁ!やれ!今すぐやれ!水と火!同時発動!」

 笑いながらファルクを杖で起こそうとする。

 反抗して寝そべったままのファルク。


「ぎゃぁ!冷てぇ!」

 寝ている地面を凍らされて飛び起きるファルク。


「無駄な時間を使わせるな。最速でお前を仕上げる気なんだこっちは」


「師匠、せっかち過ぎます」

 ぶつくさ言いつつ、右手に火魔法、左手に水魔法を発生させるファルク。

 

「サマになってきたな。じゃあ、逆の手でやってみろ」


「え!」

 混乱して制御が乱れるファルク。


「それが雑!っつってんだろ。頭で考えるのは最初だけ。後は反復練習によるイメージでいつでも出せるようになれ。マッスルメモリーの脳みそバージョンよ」


 レオンハルトが何を言っているのかちょっとだけ分かるのが頭の痛いポイントだ。


 この男はファルクに対して、一切の妥協なく常に毎秒限界を引き出させるやり方を強いてくる。


 おかげで1ヶ月前には全く出来なかった魔法の2重発動が出来るようになってしまっていた。



「……師匠はなんでそこまでしてくれるんですか」

 訓練中、仰向けに倒れたままファルクは聞いてみた。


「フン。そらぁお前、人が無理やりやってどこまで伸びるのか、お前には論文の材料になってもらうためさ!」


「は!?」


「よく聞け、俺の考えでは、魔力ってのは10万人に1人の才能ってのは嘘だね!誰しもが秘めている可能性がある。そいつを、俺は、世界に知らしめ、魔法革命を起こすんだ!」


「げぇ、人体実験の材料としか思ってねぇ!」


「戦略的な互恵関係ってヤツだろ?」

 そう言いながらもファルクに魔力を補充し続けるレオンハルト。


「なんか違う!植物でも水をやり過ぎると死にますよ?」


「まだ大丈夫……死にそうになったら、聖女アルシアに癒して貰えばいいから。ホレ、立て」


 “くっそぉ……”

 仕事なので言われるがまま基礎訓練に励むファルク。


 だが、辛いとき、騎士団で一緒に訓練をしていたリョウたちの顔を思い出すと、不思議と辛くなかった。


 “アイツらも絶対に頑張ってるはずだ!俺も負けらんねぇ!”


 そう思うとファルクの気力が枯れることは無かった。


 

「意外に続くわねあの子」

 魔法研究院の尖塔からファルクの訓練光景を見下ろす年配の女性。

 魔法研究院の院長ナディア・カーン。

 長身の女性。

 黒いローブを羽織っており、白髪混じりの白髪を後ろで束ねている。

 “千術の魔女”と呼ばれている。


「報告では、すでに2重魔法を発動し、3重に手が届きそうだとも」

 肩までの黒髪を真ん中で分けて、眼鏡をかけた女性が資料を見ながら言う。


「あら!研究員でも3重発動出来るものは一握りよ」

 遠くでバタバタしている師弟を見ながらナディア院長は呟く。


「興味が出てきたわ」

 そう言って、窓を開け、空中を滑空しながら2人の下に降りたった。

 相変わらず倒れているファルク。


「げっ、バ……院長!」

 レオンハルトが珍しく動揺する。

 そのレオンハルトの耳を引っ張るナディア院長。


「あんまり無理させ過ぎるもんじゃないよ。そしてババァ呼ばわりは許さん」


「ぐ……!」


 ファルクはナディア院長に赴任時、一度だけ挨拶したことがあるが、その時は全く会話など出来なかった。

 騎士団の魔法学のアレサ・カーン教官の母親と聞かされているが確かに面影がある。


「院長、こんにちは」

 起き上がり、挨拶する。


「あなたが頑張っていると聞いて、見にきました。さあ、続けてご覧なさい」


「は、はい。で、何を?」


「やってみろ、3重。そろそろ出来んだろ」


 “無理だろ”


 心の中でそうファルクは思ったが、院長の前で無様を晒したくない。


「ぬぬぬぬ……!」

 

 ファルクの右手と左手にそれぞれ火と水の玉が浮かぶ。

 

 “ここから……全身と脳内感覚のブースト!”

 

 ファルクの全身にシマーが巡る。


「おおっ!?」

 レオンハルトとナディア院長が同時に驚く。


「うぉぉぉぉぉ!」


 ファルクの頭上に徐々に魔法陣が形成されていく。


 そして、そこから風が渦巻き、竜巻が形成され始めた。

 しかしその竜巻はすぐにかき消えた。


 目の前が暗くなって膝から崩れ落ちるファルク。

 気絶してしまった。


「……今のは、魔法戦士の魔力制御方法……報告以上ね」


「こいつどこでそんなの覚えたんだ……院長、やらねぇぞ?」


「これからは時々様子を見にきます。壊したらダメよ、レオ」


「けっ」

 斜めを見て不貞腐れるレオンハルト。



 

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