表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青の年代記〜山奥でひたすら修行した少年が、いつか英雄になる話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
123/160

陽暦1490年12月〜同期生たち⑨ 年末

 年の瀬の押し迫ったある朝、王都は、昨夜降った雪のため、珍しくすっかり雪化粧に包まれていた。


 初任騎士科程の第276期生たちは、束の間の冬休みに入っていた。


 実家が遠い者などを除いて、多数が里帰りしているため、寮に残っている者は少ない。

 教官たちも当直以外はおらず、通常よりもがらんとしていて隊舎内はもの寂しい雰囲気だ。


 リョウたちテオ村出身の3人は遠いのでもちろん里帰りせず、隊でいつものように過ごしている。


 3人とも高山出身なので寒さには慣れているし、むしろ雪景色が懐かしく、テンションが上がっている。

 

 今は大はしゃぎのハクヤと一緒に隊庭を駆け回ってトレーニング中だ。


「……寒ぅ……あなたたち、ホントに元気ね」

 2班の紅一点、マリア・サイファーが腕を組んでさすりながら隊庭に出て来て、声をかけてきた。

 マリア・サイファーはグスタフ・ノーグルといつもつるんでいるレオニード派の急先鋒だ。

 長身、金髪で巻毛の美女。

 魔力持ちで入団当初から優秀な成績を修めている。


「あら珍しい。どういう風の吹き回し?」

 ヤナは2班の面々には並々ならぬ不信感がある。


「ご挨拶ね。雪を見たくなったから来たのだけれど。お邪魔だったかしら」

 マリアはそう言いながらも、視線はハクヤを追っている。

 

「ハクヤ、マリアにご挨拶」

 リョウが気づいて、ハクヤを呼んだ。


 ハクヤはマリアを一目見て、すぐに近寄っていき、足のまわりに擦り寄り始めた。


「ひゃぁぁぁ……」

 普段のクールなマリアから思わぬような高い声が出る。

 おっかなびっくりかつ大胆にハクヤの背中を撫でるマリア。


 “猫好きなんだ……”

 3人とも思った。



「なんだ、楽しそうじゃん」

「アタシも混ぜてくれよ」

 そこに4班のランドル・ゴーンと、5班のライナ・グレイスが混ざってきた。


「良いね、雪だるま作ろうぜ!」

 リョウが小さな雪玉を転がし始めた。


「でかいヤツ作ろう!」

 ライナ姉御が張り合って雪玉を転がし始める。


「子供か」

 ヤナはそう言いつつ、こっそりと足で雪の上に線を描き始めた。

 二つの陣地を分ける線を引いている。


「どうよ!」

 巨大な雪だるまが出来た。

 と同時に、ヤナがいきなりリョウに雪玉を投げてぶつける。


「うわっぷ!」

 

「はい、死んだ!外に出なさい」

 ヤナがリョウを場外に押し出す。


「げぇ、いきなり、きたねぇぞ!」


「武人に言い訳無用!……ってアタ!」

 ヤナの後頭部にジンが放った雪玉が命中する。


「強いユニットから落とすのは定石……」

 ヒットアンドアウェイで雪だるまの陰に隠れるジン。



 そこから6人で激しい雪合戦が始まった。


 ランドル・ゴーンは風魔法を駆使して雪嵐を巻き起こす。


 マリア・サイファーは魔力を全身にまとって機動力抜群に走り回っており、ハクヤが面白がってそれを追いかけ回している。


 

「楽しそうじゃないか」

 ゼルダン・クレストも現れた。


「ゼルダン!お前も残ってたのか!家すぐ近くだろ!」

 リョウは少し驚いた。


「忘れ物を取りに来ただけ……だったが、クレスト家投雪術、見せてやる」

 そう言いつつゼルダンは屈んで雪玉を丸め始めた、がヤナがその隙を見逃さず、雪だるまの頭の部分をゼルダンに落とした。


「……ぶぇへ」

 

「アッハハハ!」

 ライナ姉御のツボに入った。


「……光屈折(リフラクション)からの多重分身投げ!」

 光魔法全開で暴れ回るゼルダン。


 古流歩法でこれまた擬似的分身を作って対応するリョウ。


「やるな!リョウ!」


「ドルガ山脈育ちを舐めるなよ?」



 当直で残っていたサイ教官が、腕組みをしながらそれを微笑みながら眺めている。

 しばらく見ていたが、ふと隊舎内に引っ込んでいった。



「……ハァ…ハァ……」

 雪の上に寝転がる一同。


「あんたたち……ばっかじゃないの……ムキになっちゃって……」

 息も絶え絶えなマリア・サイファー。

 ハクヤが近寄ってマリアの顔を舐める。

「うっひゃぁぁぁぁ……」


「お腹空いたわね」

 ヤナが呟く。



「おーい!」

 皆を呼ぶ声。


「サイ先生!」


「鍋用意した!」


「ホント!天才!」

 ヤナが飛び起きる。



 一同ぞろぞろ起き上がって、隊舎内の当直室に移動していった。

 2つの鍋から湯気が上っている。


「こっち海鮮。こっち肉」


「まじか、2種類も!って先生、飲んでるの!?」


「いいんだよあと8時間で勤務終了だから」


「悪いよこの人……」

 ランドルがちょっと引いた顔。


 

 皆んなで鍋を囲んで他愛もない雑談をする。


「貴族も平民も関係なく同じ鍋を囲むなんて、初めてさね」

 ライナの姉御が蟹の足を折りながら呟く。


「わたし、とっても楽しいわ」

 マリア・サイファーが女性陣の目を見ながら言う。

 ついでにハクヤに煮えた魚をフーフーしながら食べさせている。


「エステルも呼べばよかったな」

 ゼルダンが呟く。


「ほんとね、もっと多くのみんなとも遊びたかったわ」

 ヤナが言うと少ししんみりとなった。



「ちょっと……」

 皆の食べるペースが落ちた頃、ライナの姉御が席を外す。


「麦酒なら、あっちだよ?」

 ジンが言う。


「飲まねぇっつーの。アタシは未成年だ!」


「えっ」

「えっ」

 わざとらしい顔をするリョウとランドル。



 しばらくするとライナの姉御は6本弦の楽器を手に戻ってきた。


 切なげなメロディーを弾き始め、合わせて歌い始める。


 ハスキーな声で歌う西方訛りの歌。


 皆しんみりと聞いている。


 終わったと同時に盛大な拍手。


「お前らも歌えよ、知ってる曲なら弾いてやるからさ」


 思わぬライナの特技。


 ランドルが王都で流行っていた曲をリクエストする。


 爪弾き始めるライナ。


 最初は小声で口ずさむ面々。


 ライナが大きな声で歌い出すと、いつしか合唱になっている。



 笑い声と歌声が響く隊舎。

 しばらく後、雑魚寝し始めた男ども。


「あ、また降り始めた……」

 ヤナが窓の外を見ると、また雪が降り始めていた。


「わたし、何か誤解していたかも知れない……」

 マリアが独り言のように言う。


「こんなふうに、ずっと楽しい時間が続けばいいのにね……」

 ヤナの言葉。


「来年も、こうして皆で鍋を囲めるかしら」

 マリアが雪を眺めている。


 ヤナが少し口を開きかけて、俯いた。


 誰も答えないまま、雪だけがしんしんと降り続いていた。


 


 




 


 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ