陽暦1490年10月〜同期生たち⑧ 対立
男たちを縛ったまま荷車に乗せて馬で引き、アルフレッド市まで連行した。
事前にサイ教官を通じてアルフレッド市の騎士団には予鈴を入れてあったが、いざ実際に実習生たちが死体漁りの追い剥ぎ団を連れてきて門衛たちは驚いた。
「ここ数年、街道の不審死が増えていたのは、コイツらの仕業だったのか……!」
荷台の上で不貞腐れている追い剥ぎども。
騒然となるアルフレッド市の騎士団員たち。
「逮捕手続書はさっき書いてきました。どうぞ」
そう言ってジンは書類を渡す。
小屋の中であっという間に作成した文書。
同じ班の面々は今更驚かないが、異常に早いジンの文書作成能力。
「はぁ!?まあ、ちょっと隊に寄って上司に説明していってくれないか」
「チッ、分かりました」
ジンは一瞬嫌な顔をしたが、真顔に戻った。
”説明の時間が省きたくて文書をつくったのに“と思っている。
「今、君、舌打ちした?」
「いいえ。気のせいです」
ヒヤヒヤするファルク班長。
”ジンやっぱやべぇ“
「……と言うわけです」
一から経緯を説明するジンとファルク班長。
前もってサイ教官が書面を送っていたので、説明を聞いた後、アルフレッド市騎士団の副団長は納得した。
「お手柄だったな諸君、もう遅いから隊舎に泊まって行きなさい」
常識的な副団長の声掛け。
「いえ、急ぎ確認すべき事がありますので、これで失礼します。追い剥ぎ団のこと、後はお任せいたします」
ジンはアルマの驚愕の顔をよそに、言い切った。
”えーっ!?“
これにはファルク班長もアルマもびっくりだ。
「分かった。だが、流石に馬車を出そう」
「お心遣い感謝致します」
ジンも即答する。
”助かった……“
胸を撫で下ろす2人。
一行を乗せた馬車は王都には翌日の朝方に到着した。
「揺れたけどギリギリ寝れた……」
隊舎に戻ると入り口にサイ教官が立っていた。
「風話器で聞いたよ。お手柄だったね」
「教官、それどころではありません……実は……」
ファルク班長が一部始終を説明した。
「そうか……。バルドが……やはりと言うか、昨日、ジンから頼まれた通り、2班の動きを監視していたんだけど、キミたちが王都から外出したと知って、2班も動き出したんだ」
「彼らは何を?」
「全員でグスタフ班長の別邸に籠って出てこなくなったよ」
「おそらく、アルフレッド市の様子を風話器で探っていたのでしょう」
ジンが推測を口に出す。
「直接の証拠は、無い。相手もそれは分かっている、と。さあどうしようか」
サイ教官が思案する。
「もうすでに1、3班対2、4、5班の敵対関係が決定的になってしまっています。しかし……彼らが何を考えているのか、知りたいです」
ジンが正直に言うと、3班の面々は頷く。
「分かったよ。善後策を団長たちと協議するね」
とりあえずサイ教官はこの情報を組織に乗せることとした。
とりあえず固まっておいた方がいいと思い、夕方の自主トレーニングの時間、3班全員で隊庭に集まり、円く座って情報を共有する。
ヤナはじっと聞いていた。
悲しそうに膝を抱えている。
「……そうだったの」
「ヤナが個人的に狙われた訳じゃないと分かったけど、事態は複雑で深刻だよ」
ジンも軽口を言う元気はない。
その時、夕日を背にして、2班の面々が近寄って来た。
「ヤナ女史が大変だったらしいね」
グスタフ・ノーグルが声をかけて来た。
ヤナがビクッとする。
ファルク班長とリョウが怒りの表情で立ちあがろうとするのをジンが手で制した。
「そうだよ。大量の死霊に襲われてあわや死ぬところさ」
「それは災難だったね」
「災難?人災だったよ。犯人は昨日捕まえて引き渡した」
「ほう、犯人は何者?」
「追い剥ぎ集団さ……指示役がいたみたいだけどね」
「どんなヤツなんだ?」
「まだ捜査中らしい」
「アルマの精神感応で分からなかったのかい?」
普通の口調でグスタフは聞いてきた。
「アルマの魔法は万能じゃないからね。だってアルマだよ?」
この返答は肝だと思い、ジンは何気ないふうの演技で誤魔化した。
唾を飲み込むリョウ。
「おい」
アルマも今は言いたいことは言わずにいる。
「……ふぅん。ところで、ジン。君は俺と似たタイプだと思っているのだけれど、この先、誰が王位に就くべきか、考えを聞かせてくれないか?」
グスタフは真っ直ぐに聞いて来た。
「さぁ?普通に考えたら長子のジェイナス王子じゃない?」
「そのような考え方では国が滅ぶよ、ジン」
「その口ぶり、ジェイナス王子に何か言いたい事がありそうだね」
「そうさ。彼は、目先の欲ばかりの人間さ。彼の領内では税率が毎年のように上がっている。民は疲弊し、汚職が横行している」
「そうなんだ?」
「君たちも知っているだろう、王都ヤーマスの混迷ぶりを。この都市だけで6箇所もスラム街があるだろう。これはジェイナス統治下で急に出来たのさ……」
「それは、知らなかった」
「そして恐怖政治。首を横に振る者は全て粛清対象。現にバルド・ハーケンの父君は反ジェイナス運動を掲げた罪に問われ、子爵位から平民に落とされた」
「良い機会だから聞くけど、なぜあの兄弟はいがみ合ってるの?」
「……本当のところを聞きたいかい?」
「ぜひ知りたいね」
「ジェイナス王子が小さい頃から弟たちを虐げて来たからさ。全員母親が違うから、それはもう徹底的にね」
「そんな事があるのか?」
リョウが口を挟む。
「レオニード公は幼い頃から聡明で、ジェイナス王子の理不尽に反抗していたんだが、母君は不審死を遂げ、レオニード公も虐待を受けて、王都を離れざるを得なかった」
「そうなのか」
「それで、レオニード公は貧しいテリスイースト州に公爵として追いやられたが、領土の再開発と政治改革を進め、今に至ると言う訳だ」
グスタフの弁は淀みなく、聞く者は説得力を感じていた。
「君たちはレオニード公の治める土地を見たことはあるか?」
「いや……無いね」
皆の顔を見て、代表してファルク班長が答える。
「一度でもいい。見てくれれば分かるはずだ」
「グスタフ班長の主張は分かった。ただ、だからと言って、今後、内戦で国を割るなら余計に民は苦しむぞ」
ファルク班長も口を開く。
「ジェイナスが王になれば、遅かれ早かれ破滅だよ。他国に滅ぼされ、そこからみんな奴隷さ」
「……勝つためには、何をやっても良いのかい?」
一歩踏み込んでファルクが聞く。
「少なくとも、必要な犠牲というものはある、と思っている」
「同期生の絆を割ることもか」
「そうだ。我々は天地が逆さまになっても、ヴィクトル総代とは相容れない」
「ウチの班のことはどう思っているんだ?」
これもファルク班長。
「すでにジェイナス派だと思っているよ」
「それは誤解だよ、グスタフ」
ジンが言う。
「そう言うならば、ジン、ファルク班長。君たちがレオニード公の下に来い。一緒に公の下で世の中を良くしよう」
「……グスタフ、感情と理性、人はどちらで動くと思う?」
ジンは低い声でポツリと言った。
「なに?」
怪訝な表情のグスタフ。
「僕は、人の感情は無視できない、大事なものだと思っている」
ジンは真っ直ぐグスタフを見て言った。
「それはそうだが、上に立つ者は、理性で己を律し、民を導かねばならない。そうでなければ、民が感情に支配されたとき、世の秩序は保てない」
「だが、僕たちのこれまでの行動原理は、既に感情に根ざして来たのさ。上に立つ者とやらでは無いのでね」
ジンはハッキリと言い放った。
「君たちほどの才をして、そのような事を言うのか。それならば我々とは相容れないかも知れないな」
「残念な部分もあるけどね。話せて良かったよグスタフ」
「ああ、俺もだよ、ジン」
そう言うとグスタフは2班の面々を従えて、踵を返した。
ヤナはずっと両膝を抱えて無言のままだった。
死霊に囲まれたあの日を思い出す。
怖かった。
苦しかった。
死ぬかも知れなかった。
だけど、あの出来事が同期生の争いの一部だったかもしれないと知った今の方が、胸が痛む。
「……どうして、こうなっちゃったんだろう……」
その呟きに答えられる者はいなかった。




