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青の年代記〜山奥でひたすら修行した少年が、いつか英雄になる話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

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陽暦1490年10月〜同期生たち⑥ 疑心

 100キロ行軍の晩、エステル・フォン・カーミラは、アルフレッド市の騎士団隊舎、女性寮の一室にいた。


 その部屋のベッドに寝かされているのはヤナ。

 一時的に意識不明の重体になっていたという。


 看護役のセラが無理して倒れそうなのを見て、エステルが交替を買って出た。


 ベッドの脇にある椅子に座りながら、ヤナの寝顔を見つめているエステル。


 "同性から見ても見惚れるくらい美人ね..."

 

 "貴女一体何を持ちあわせていないと言うのよ。人外みたいに強いし……"


 "そんな貴女でも死にかけるなんて……"



 布団の下から出ているヤナの手。

 よく見ると傷だらけで、皮の厚みがある。

 

 エステルは自分の整えられた指先と見比べた。


 "どんだけ鍛錬してきたのよ......"


「いつまで寝てんの……」


 眉がピクリと動いたヤナ。


 目がうっすら開いた。


「………あれ?……エステル……あなたも死んだの……?」

 弱々しい口調のヤナ。


「何言ってるのよ。貴女、生きてるのよ」


「……え……アタシ絶対死んだと思ってた……」


 ヤナは天井を見つめた。


「……もうダメって思ったの」


 微かに笑うヤナ。


「ほとんど死んでた貴女を、ファルク班長とセラが助けたみたいよ」


「……そう………で、なんでエステルがここに?」


「看病よ?セラが倒れそうだったから代わりにね」

 ヤナの目を見つめて言うエステル。


「……そう………………ゥッ……」

 目を閉じるヤナ。


 少しして仰向けのヤナの瞳の端から一筋、光る雫。

 驚くエステル。


「……貴女も泣くのね……」


「……ううっ……グスッ………ぅぅ……」

 声を殺しながらも感情が揺さぶられているヤナ。


 エステルはヤナの頭にそっと自分の手を置いて、優しく撫でた。

「いろいろあって疲れたでしょう。たまには素直に泣けばいいわ」


 エステルの言葉でヤナの嗚咽が少し大きくなったが、だんだんと落ち着いていく。


「……グスッ……怖かったの……まだ生きていたいって……思ったわ……」


「貴女でも弱音を吐くのね」

 まだエステルはヤナの頭を撫でている。


「……アタシを何だと思ってたの?」


「孤高の人」


「それはアタシじゃないわ……」

 ヤナは誰かのことを考えていそうだった。


「あ、そう?」


 ヤナが沈黙したので、それからエステルは黙っていた。

 

 しばらく様子を見ていると、ヤナが再び寝息を立て始めたので、エステルは椅子にもたれながら、自分も目を閉じた。



 リョウとジンは、サイ教官の部屋にいた。


「今回の件、僕らで調査します」

 ジンが静かに、サイの目を見てハッキリと言った。


 “止めても無駄だねコレ”

 長い付き合いで直感するサイ。


「今度の週末休みにやるので、騎士団には迷惑をかけません」


「そこまで言うなら、止めないよ。具体的にはどうするんだい?」


「3班男子で張り込んで、捕まえて、話を聞きます。主にアルマが」


「みんな乗り気なの?」


「班長とアルマには有無を言わせませんよ」

「嫌がったら荷車に乗せて連れてくよ」

 ジンとリョウの力強い声。


「分かった。ボクもいくよ。今回の件、責任あるしね……」


「いえ、先生には、その日、違うことを頼みたいと思ってて……」 

 ジンはサイ教官に顔を近づけ、小声で話した。


 頷くサイ。



 週末。

 まだ日も出ていない暗い早朝。

「…………はぁぁぁ……」

 アルマが盛大なため息を吐いた。

 ちょっと冷んやりしている空気。


 王都から再び街道をアルフレッド市に向けて歩き始める3班男子たち。

 ヤナとセラには黙って出てきた。

 あからさまにファルク班長とアルマの表情が暗く足取りは重い。


「まあまあ、今度美味しいご飯奢るから!」

 ジンが朗らかに言う。


 “目的地は80キロ先かよ……二週続けて100キロ行軍とか正気じゃねぇよ”


「また魔力制御の練習出来るじゃん」

 どこまでも本気のリョウ。


「………はぁぁぁ……」

 ヤナのために真相を知りたいのはアルマも同じ。

 悪者も捕まえなきゃいけないと思っている。

 ただ、他人がやってくれてもいいんじゃないと思っている。


「疲れたらおんぶしてやるよ」

 リョウがニヤッと笑う。


「くっそぉ」

 


 先週より少しだけ日差しが和らいでいて歩きやすい。


 リョウとジンは、歩きながらひたすらに古流歩法の稽古をしている。


 アルマとファルクもそれを見ているうちに、ただ歩いてもしょうがないと思い、結局、魔力による身体制御の練習をしながら歩くことになった。


 前回ヤナから指摘されたことを思い出しながら2人は歩いた。

 魔力を使いすぎないよう注意する。


「あれ、なんか前回より疲れてない……かも?」

 50キロを越えたあたりでアルマが呟く。


「慣れてきた感じはあるな……」

 ファルク班長も同意する。



「さて、この辺りから注意して行きましょう」

 正午をずいぶんと超えたあたり。

 ジンが問題の看板まで500メートルあたりで、街道を避けて木々の間に入った。

 雑草が茂っており、虫なども多い。


「えっ、こっち通るの?」

 アルマが嫌そうな顔で草の中に進む


「じゃないと見つかっちゃうでしょ?移動は静かにね……」

 何言ってんの?と言わんばかりの表情のジン。

 ジンもリョウもびっくりするくらい静かに木々や雑草の間をすいすい歩いていく。


「そうですね……」

 諦め顔で出来るだけ2人の通った道を後追いするアルマとファルク。


 “俺、都会っ子なんだぞ”と心の中で愚痴るアルマ。


 

 段違いの疲労度を経て、目的の看板が見える木陰に忍ぶ4人。

 

「……今日はいないんじゃない?」

 早く帰りたいと言わんばかりのアルマ。


「アルマお前……忍耐力どっか捨てて来た?もう少し待つぞ」

 苦笑するファルク。


「シッ」

 ジンが指で制する。

 無駄な動きは一切しない。


 しばらく見ていたが、全然人が通らない。


 退屈してきたアルマとファルクに対して、指と口で“座って休憩してて”と告げるジン。


 そのまま陽が傾いてきた。

 アルマとファルクはいつの間にか居眠りをしている。


 そのとき、問題の案内板のあたりに複数の人影が現れた。

 皆ローブを被っている。


 リョウが足でつついてファルク班長を起こす。

 寝起きの目を擦って、見ると、ファルクの表情が険しくなった。


「ヤツらだ、間違いない……」


 

 


 

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