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青の年代記〜山奥でひたすら修行した少年が、いつか英雄になる話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

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陽暦1490年10月〜同期生たち⑤ 100km行軍 生と死の狭間で

 街道を10分ほど進んで、ふとセラが立ち止まる。

 目の前のリョウたちは遠く霞んでいる。


「おかしいわ。ヤナちゃんが追いついて来ない」

 セラが振るが、後ろから誰も来ていない。


「なんかあったかも?」

 アルマも嫌な気がしていた。


「よし、引き返すぞ!」


「おーい!」

 全力で声をかけるが、リョウたちには届かない。


「俺が走って2人を呼んでくる。班長たちは向かってて!」

 一番疲れているはずのアルマが頑張って駆け出していく。


 セラとファルクは来た道を駆け足で戻り始めた。


 分岐の看板まで戻ると、不審な5人ほどの集団。


 ファルクたちに気づくと散り散りに別れて消えた。


「なんだ?」

 ファルクが看板を見ると、向きがおかしい。

「さっきの奴らの仕業か?」


「ヤナこっちに行ってるぞ。行こう!」


「はい!」

 一気に心配になる2人。

 森への小道に向かって全力で走り出す。


「不気味な道だ……」

 そろそろ陽が落ちてきそうな時刻。


 やがて、遠くに古い大きな廃屋が見えてきた。


 と思っていたら、ヤナが廃屋の前で倒れていた。


 傷だらけで、意識がない。


 辺りは血塗れで、見ると何十体も腐った死体が散らばっている。


「セラ!」


「ヤナちゃん!」

 ヤナの呼吸は長く、途切れ途切れ、時々しゃくりあげるようだ。

 シマーが消えかけている。


「死戦期呼吸……!」

 ファルクが動転する。


 だが、セラは先のライデル動乱でこの状態の兵士を助けたことを思い出した。


「死なないで!」

 全力で癒しの魔法をかける。


「うおっ!」

 ファルクも驚くほどの癒しの熱量、ついでに自分の疲労感が失せていくほどだ。


 しかしヤナの呼吸は戻らない。


「どうして!……ああ!」

 セラは以前、魔力が枯渇して死にかけたゼルダンをヤナが助けた時のことを思い出した。


「魔力を補充しなきゃ!魂が死ぬ!」

 

 ”全部あげる!“


 セラの手がヤナの胸と頭を押さえる。

 両手から溢れる光がヤナの体の中に吸い込まれていく。


「痛ゥッ!」

 様子を見守っていたファルク班長の肩に、短い矢が刺さった。


 振り向くと、先刻の不審なローブを被った人間が3人立っている。


 顔は見えない。


 一人が弓を構えて再び狙いをつけ始めている。

 他の2人はダガーを構えて回り込もうとしている。


 ”盗賊?”

 “コイツらがヤナを罠に嵌めたのか!”


 ファルク班長は、猛烈な怒りに駆られていた。


「お前ら、タダで済むと思うなよぉ……」

 

 3人同時に視界に捉え、怒りで高まった魔力を冷静に集中して準備する。


 真ん中のヤツが弓を放った。

 矢はセラに向かっている。


「炎よ!」 

 

 ファルクが叫び、拳を突き出すと、そこから4本の炎の矢が勢いよく飛び出した。

 そのうち一本が飛んでくる矢を焼き尽くす。


「うぐわァァァ!」

「グゥぉぉ!」

「ギャァァ!」


 残りはそれぞれローブの人間たちに命中して、服などを焼き焦がす。

 そいつらはバタバタと消火しながら、恐慌をきたして森の奥に逃げ去っていった。


「ヤナは!」

 振り向くファルク班長。


「大丈……夫……です……」

 セラがファルク班長に微笑みかけて、横倒しになる。


「班長……すごかった……」

 そう言うとセラは目を閉じて気を失ってしまった。


「魔力が切れたのか……」

 ファルク班長も疲労で頭痛がする。

 

 

「班長ー!」

 数分後、リョウとジンが走ってきた。

 アルマも息も絶え絶えについてきていた。


「うおっ!なんだこりゃ!ヤナ!」

 リョウが辺りの惨状に驚愕する。


 ヤナに自分の顔を近づけて、手首を握ってジンは冷静に容態を観察した。

「大丈夫なようだ……よ。呼吸も脈も安定している」


 ホッと胸を撫で下ろす面々。



 ファルク班長が状況を説明した。


「……絶対に許さねぇ。いつか落とし前つけさせてもらうぜ……」

 リョウは久しぶりに激怒していた。


「そうだね……ヤナに手を出したこと、後悔させなきゃね……」 

 ジンがこんな顔をするのか、とアルマは思った。



「……は!」

 心地よい揺れを感じてセラが気付いた時、リョウの背中の上だった。


「わ!わ!下ろして!」

 辺りはすっかり暗くなっていた。


 目の前にアルフレッド市の城門が見える。

 城門の中で煌煌と街の灯が輝いている。


「もうちょい休んどけよ」

 アルマが横から優しく言うが、本人は足を引きずっている。


 “広い背中……あったかい……”


 セラは心地よさを感じていた。

 リョウがしっかり捕まえているので、ものすごく安定している。

 下ろすつもりも無いようだ。


「ヤナちゃんは?」


 見るとジンの背中にヤナは乗せられていた。

 寝ているようだ。


「そのうち目覚めるだろう。起きなきゃ、起こすけど」

 アルマが言う。


「……大変だったね。でも良かった……誰も死なないで……」


 セラがリョウの背中でそう呟くと、皆頷いた。



 城門の前では、教官たちが待ち構えていた。


「お前ら、どうした!なんだその傷は」

 

 ボンゾ教官に状況を説明するファルク班長。


「そうだったのか……」


 苦い顔をする教官たち。


「とにかく隊舎でゆっくり休め」


 案内され、アルフレッド市の中を通る。


 楽しそうな人々。

 喧騒と営み。

 仕事帰り、一杯ひっかけて酔った中年。


 いつもの街並み。


 そんな中をヘトヘトになって歩くファルクたち。


 

 それを遠巻きに眺めている2班のグスタフ・ノーグルとマリア・サイファー。

 うっすらと笑みを浮かべていた。

 


 

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