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青の年代記〜山奥で仲間とひたすら修行した少年が、いつか英雄になる話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

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陽暦1490年9月〜ライデル動乱12 蒼雷剣ジンライ

 耳を(つんざ)く雷鳴。


 リョウの右手の蒼雷剣ジンライから放たれた、天を遡る青い稲妻。

 そこから電光が無数に迸り、辺り一面に降り注いだ。


「アァァァァァ!」

「ウギャァァァ!」

「ヒグッ……!」

「オオオオ……!」

 

 その場にいた傭兵たち、エステルが雷に打たれ、硬直し、その場に全員倒れた。



「……遠雷?晴れているのに……?」

 その音は遠く離れたブリッジウエスト市のアラカンダル・エラ・カリスにも聞こえた。

「……違うわ……雷が天に登った……」

 シオリが遠方を睨みつける。

「魔力……なの……?」



「エステル!」

 リョウが慌てて駆け寄る。

 抱き上げると金属鎧の端がまだ帯電してピリッとした。


 呼吸が止まっている。


「うわあぁぁ!」

 焦るリョウ。


 そのとき、蒼雷剣ジンライからもう一度軽い電撃が起こった。

 痺れるリョウの手。

 ドンッと跳ねるエステルの体。


「……ウッ!フゥゥ……」

 自発呼吸をし始めたエステル。


「!」

 涙目になるリョウ。


 目が開くエステル。


「なんだ……あんたいたの……あれ?私、なんで生きてるの……」


「無理して喋るな。傷が深い。おーい!」


 リョウが誰かを呼ぶ。


「敵は……?」


「もういねぇよ……」

 リョウは涙目になっている。

 

 エステルが周りを見回すと、焦げた弓、燃えている矢。

 呻いている傭兵たち。

 動かなくなった傭兵たち。


「……あんたがやったの?」


「……そう……だ」

 奥歯を噛み締めて苦しそうなリョウの表情。



 複数の軍靴の足音。


「頼む!出来れば、みんな助けてやってくれ!」

 

「分かった」

 

 聞き覚えのある声。

 ヤナだ。


 ヤナは黙ってエステルの腹の傷に手を当てて、治癒魔法を流し込みながら、ゆっくりと矢を引き抜いた。

「ッ!」

 少し痛そうな顔をするエステル。


「あたたかい……」

 エステルはしかしすぐに癒しの心地よさを感じて目を閉じる。


「ヤナちゃん、こっち!」

 セラがヤナを呼ぶ。


 呼吸が止まっている傭兵が複数いた。


「全員は助けられないかもしれないわ……」

 冷静に呟くヤナ。


 滅多に見ないほど動揺しているリョウが叫ぶ。


「頼む!」

 

 リョウは自らも傭兵たちの黒い鎧を脱がして心臓をマッサージしていく。

 


 ヤナがすぐ近くの傭兵の鎧を脱がし、魔力を込めて心臓を何度か叩くと、その男は「ガハッ」と息を吐いて蘇生した。


 しかし、まだ息を吹き返さない者がいる。

 間に合わないかと思えたそのとき、辺りを柔らかな煌めく風が包んでいく。

 

 その中心にいるのはセラ。

 

 ”この人たちが死ねば、リョウくんの心の傷になる“


 セラは両手を目の前で握って一心に祈り、全力で癒しの魔法を使っている。


 これまでは個人への癒しは何度も経験してきたが、多数を巻き込んだ範囲魔法はやり方が分からなかった。


 しかし、今回、戦場の空気と人の命の軽さを目の当たりにして、セラの心は静かな怒りに満ちていた。


 ”なぜ人は争い合うのか“

 ”なぜ命を粗末に扱うのか“

 ”こんなの許されない“

 ”絶対に許したくないッ!“


「全員、癒されろぉッ!」


 一際強く輝くセラの両手。

 そこから爆発的に癒しの光が渦を巻いて溢れ出す。


「……熱い……」

 エステルが呻く。



「………ゥ」

「………ッ」


 黒の傭兵2人が、息を吹き返した。


 しかし、リョウが蘇生措置を施していた男の鼓動は、蘇らなかった。


「……リョウ、もう、生命力が消えているわ……」

 胸を押し続けるリョウの肩に手を置くヤナ。


 項垂れて呆然としているリョウ。


「おい……」

 さっきまで指揮を執っていた傭兵の男が寝そべったままリョウに言う。

 涙を流しながら振り向くリョウ。


「ここは戦場だ……誰もお前の理屈に付き合っちゃくれねぇよ……そして、俺たちを、仲間を侮辱するな……。みんな死ぬ覚悟はとっくにしてるのさ……」


「……だけど!こんなのは、戦いじゃない!」


「甘ぇ……恨みの戦はもっと何でもありなんだぞ……矢に糞を塗ってよ……人間の醜さの極限なんだ……まさに、地獄なのよ……」


「それでも……俺は、いつか人と人は分かり合える、って思ってる」


「ハ!……兄ちゃん、良いやつなんだな。だがそんな奴から先に死んでいったぜ……オメェはどうかな……」

 一呼吸開ける指揮官。

 リョウの目を見つめる。


「……でも仲間を助けてくれて、ありがとうよ」

 指揮官はそう言うと、目を閉じた。

 死んではいないようだが、そのままにしておけばいずれ死ぬ可能性はある。


「……縛って壁に寄せておこう」

 顔が痙攣するリョウ。


 “動いていないと叫び出しそうだ”

 

「言いたいこと好きに言っちゃって」

 ヤナは指揮官とリョウとのやりとりにイラついていた。


 皆で男たちを縛り上げながら、壁にもたれかけさせ、癒しの魔法を再度かける。


「ヤーマス騎士団にコテンパンにされたって、一生言いふらしなさいよ」


 ヤナの軽口が今のリョウにはありがたい。


 死んだ傭兵を見おろすリョウ。


 煤けた顔。


 子供でもいそうな年齢に見える。

 ついさっきまで生きていた。


 怒鳴って、走って、必死だった。


 もう二度と喋らない。

 もう二度と笑わない。


 “この人にも名前があり、家族がある……”

 

 不意につっと頬を伝う涙。


 “俺が、殺した”


 胸の奥で、何かが壊れる音がした。


 自分の所業で人が予期せぬ形で死んだ。


 確かにここは戦場。

 自分も死ぬかもしれない、誰かを傷つけるかもしれない、それは理屈では分かっていた。

 

 しかし、どこか自分なら誰も殺さずに勝てる、そう思っていた。


 だが、結果はこの通りだ。


 ”だが、後悔は、してはならない”


 名も知らぬ戦士を討ち、自分への怒り、力への怒り、戦さへの怒りが頭に渦巻く。


 “これが……戦争……”


「あんたは、甘いままでいいの」

 リョウの蒼雷剣ジンライを鞘に戻し、ヤナはリョウの手に自分の手を重ねた。


「あんたの荷物、あたしたちが一緒に背負ってあげるわ」

 そう言って優しい眼差しをリョウに向けた。

 


 

 

 

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