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青の年代記〜山奥で仲間とひたすら修行した少年が、いつか英雄になる話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

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陽暦1490年9月〜ライデル動乱11 蒼雷剣ジンライ

 北門がサイ教官の魔法により破壊された後、エステル・フォン・カーミラは城砦の中を目指して衝動的に駆け出していた。


 “カーミラ家のために武功を上げる!あんな田舎娘には負けられない“


 エステルは、ジェイナス王子派閥でも特に有力なカーミラ伯爵家の娘として周囲から期待され、豪華な家庭教師陣から国内有数の高等教育を施されてきた。

 武術では幼少期から、天才ゼルダンの兄で騎士団の武術指導者のリンキン・クレストからみっちりと指導を受けてきた。

 そのため、エステルにはそこら辺の騎士などより強い、ついでに美しいという自負があり、それが自惚れではないことは他者も認めるところだった。


 2年前、あの家名すらない田舎娘ヤナが現れるまでは。


 ヤナたちと最初会ったのは王都騎士団隊舎の資料室。

 ゼルダンたちと一緒にいた時、その3人組は現れた。


 一見して田舎者と分かったので自分は相手しなかったが、ヘルムートは鼻の下を伸ばし、天才ゼルダンが特にリョウとヤナを異様にライバル視していたのが悔しく、強烈に記憶に刻まれた。


 その後、入団試験や初任騎士科程でのヤナの立ち振る舞いや陰での人気ぶり、実習における活躍を見ているうちに、いつの間にか強烈な嫉妬心が湧いてくるようになった。

 

 ヤナが普段の訓練では本気を出していないのが分かったとき、怒りが湧いてきて、自分も発奮するように訓練強度を上げてきた。

 

 それでも、ヤナの凜とした美貌や恐れのない自然体、自信に満ちた姿を見ていると、自分が矮小な存在なのではないかという嫌な気持ちが頭をもたげてくる。

 自信家エステルのこれまで誰にも言えなかった気持ち。


 ”私は、私を取り戻す!“



 エステルは小楯とショートソードを構えながら、敵陣目掛けて走った。

 近くにライデルの小高い居城が見えてきた。


 この辺りは周りに目隠しの壁が立っていて、見通しは良くない。


「思ったより敵が少ない?」


 エステルがそう思った矢先、壁の横から突然、槍を持った兵士が飛び出してきてエステル目掛けて突いてきた。


「遅いわ!」


 エステルはその突いてくる兵士の槍を小楯で逸らし、ガラ空きの腹を軍靴で蹴り上げる。

 吹っ飛び悶絶する兵士。


「次!」


 少し進むと、壁の後ろから黒い鎧の兵士が盾と小剣を構えて眼前に現れた。


「威勢のいいヤツ!」

 徴兵農民より遥かに戦い慣れた雰囲気の男。


 ”傭兵!でも!”


 黒の傭兵は、エステルの動きを見て用心深く構えている。

 エステルが前に出ると後ろに下がったり、サークリングで回ったりして距離を取ってくる。


 “私の方が速い!”


 エステルは下がる傭兵の動きを見切り、それ以上の速度で突進し、盾で体当たりした。


「うぉっ!」


 傭兵にバランスを崩して隙ができた。


「でやぁッ!」

 そこにエステルの渾身の2段片手突き。

 一撃目が黒の傭兵団の男の兜を弾き飛ばし、二撃目が肩口に突き刺さる。


「うぐぉ!」


 男は出血した肩を押さえながらも全力で下がる。

 

 “コイツはもう戦えないはず。私は、やれる!強い!“


「……次!」


 エステルが周囲を見ると、いつの間にか、黒い鎧の男たちが集まり始めていた。


 “1、2、3……合計7人!うそ……突出しすぎた!?”

 漠然とした恐怖がエステルを襲う。


「取り囲め!」

 

 小隊を指揮する傭兵が、慎重に兵士をバラけさせ、円形に距離を詰めてくる。


 “逃げ場がない!“


 周りを見回しても味方はいないようだ。


 “一か八か、アイツを倒して包囲を破るしかない!“

 目指すは自分の後方に回りつつある若い傭兵。


「死角から矢を放て!」

 しかし指揮官の命令が早かった。


 エステルが振り向き、小剣で矢を2本弾いたが、多勢に無勢、間に合わず、鎧の隙間に矢が吸い込まれるように刺さっていく。


「ウワァッ!」


 エステルの右の太腿、左腕、右脇腹に矢が突き刺さり、そこから流血し始めた。


「……ううぅ」


 それでも倒れず、ショートソードを正眼に構えたまま、気丈に相手を睨みつけ続けるエステル。


「あの目、追い詰められてからしぶといタイプだ。油断するな!第二射準備!」


 指揮官は冷静に指示を出す。

 ジリジリと包囲網を完成させつつある弓兵たち。


 エステルは血の気が引いて、気が遠くなってきている。


 “私は……こんなところで……死ぬのか!?”


 下がろうとするが矢の深く刺さった右足が動かない。


 踏み込もうにとしても体が言うことを聞かない。


 脇腹の矢傷、深い。


 知らず知らず歯の根が合わなくなって、全身に震えが走ってくる。


 指先が冷たい。


 目の前の景色が揺れ始めた。



 傭兵たちが弓を引き絞る。


「終わりだ」


 指揮官が冷酷に告げた。



 そのとき、リョウは全力でエステルの方に向かっていた。

 淡く青い輝きを放ち始めているリョウの体。


 スローモーションの世界。

 見て一瞬にして悟る。

 すでに絶体絶命の状況下のエステル。


 “槍!?間に合わねぇ!”


 リョウの全身から青いゆらめきが大きく立ち上り始めた。


 腰の蒼雷剣ジンライがガタガタと鳴っている。


 鞘の中で暴れるように。


 今にも飛び出しそうなほど、激しく、狂おしく。


「クッソォ!」



「撃て!」

 指揮官の命令。


 弓弦が鳴る音。


 エステルは反射的に目を閉じた。


 ”まだ……死にたくない……!“

 頭の中で刹那に浮かぶ両親、友人ら、そしてヤナの顔。


 迫り来る死。


 その瞬間。


 世界が青く輝いた。


 

 ーーゴオォォォォォン!


 雷鳴。


 空ではない。


 それは、地上から天に突き抜けるような轟音だった。






 

 


 


 

 



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