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青の年代記〜山奥で仲間とひたすら修行した少年が、いつか英雄になる話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

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陽暦1490年9月〜ライデル動乱⑩ 荘園の戦い

「なんだあの女騎士!砂刃を切ったぞ!」

 カザンが叫ぶ。


「魔法剣士だ!かなり強ぇぞ!」

 バドゥルが再び連続して砂刃を放つ。

 さっきよりかなり数を増やしている。


 だが、ヤナの魔力でブーストした視覚にはその魔法がはっきり見える。


 ヤナのショートソードの剣先が軽く触れるたびに砂刃が分断されていく。

 どうやらカザンの風も剣で切り裂いて避けられるようだ。


 ただ、分断された砂刃の欠片がヤナの頬や肩を掠め、血が滴っている。

 だが、どういう理屈か、その傷もついた端からうっすら煙を上げ治っていっているように見える。


「魔力の無駄だ。撃つな」

 ムキになるバドゥルをカザンが制する。


 その時、カザンの頬を掠めて矢が飛んでいった。


「うおっ!」

 仰け反って身を低くするカザン。


「当たらなかったけど、まあ大丈夫」

 ジンが遠方から大弓で狙撃していた。


「くっそぉ、なんて精度だ……あんな距離から……」

 石の隙間から覗くと150メートルは離れた場所からの狙撃だった。

 もう一本の矢が頭上を通り抜けていく。


「カザン、やばい!あのデカい猫が来る!」

 バドゥルが叫ぶ。


 見るとさっきの素早い小僧がまた魔獣の台になるところだ。


「させるか!て、うおっ!」

 カザンが突風を起こすべく立ちあがろうとするが、何か頭上に引っかかって立てない。


「糸!?」

 キラッと光る糸が見えた。


 その時城砦の上を援軍が駆けつけてきた。

「おう!苦戦してんなぁ!」

 “砂狼”のザハル団長が側近5人と共に現れた。


「団長!奴ら、なかなかやるぞ!」

 カザンが頭上の糸を手で払いながら、団長に大声で報告する。

 

 その時、守備隊の一部が悲鳴を上げた。

 ザハル団長とカザンがそちらを向くと、大きな猫科の猛獣が城壁の上まで飛び乗ってきていた。


 胴体を守るように矢避けのマントが着せられている。

 こちらを睨んで唸り声を上げ、近づいてくる。


「ウワアア!」


 徴兵農民の一部が恐慌を来して持ち場を放棄し始めた。

 すかさずザハル団長が前に出て止める。


「おい!大丈夫だ!逃げんな!なんとかする!」

 そして、ハクヤの前に槍を構えて出る。


 強烈な威圧感を感じてハクヤが止まる。

 その時、ハクヤの背に結び付けられていたロープを手繰って、リョウが城壁を蜘蛛のような速度で上がってきた。


 そこに一本の槍が螺旋状に回転し、しなりながら唸りを上げて飛んで来た。

「ウワッ!」

 身を捩ってギリギリ躱すリョウ、だが躱しきれず肩先が一部切り裂かれ、血が出る。


「チッ!」

 ザハルが次の槍を側近から受け取る。


「主力か!」

 リョウが前を見ると、魔法使いが2人、指揮官で凄まじい手練れの槍使いが一人に、なかなかの佇まいの兵士が5人いる。

 肩の傷から流れた血の量を指先で確かめて、それを舐める。

 爛々と輝くリョウの目。

 “いつでも来い!”

 

「射殺せ!」

 ザハルの号令で数人が弓を構え、発射した。


 リョウはその間落ち着いて、背中に担いでいた槍を前に構えた。

 

 猛烈な勢いで飛来する複数の矢を最小限の動きで逸らす。

 

 側近が二人同時、矢の発射に呼応して突進し、湾曲刀と長剣で切り掛かったが、リョウは冷静に小さくステップして避け、槍の尻でその男らの顎と側頭部を突き上げて気絶させてしまった。


「ダグとゾーダンが!」

 バドゥルが叫ぶ。

 動揺が走る側近たち。


「……うかつに近づくな」

 ザハルは一歩も退かず、槍を構えたまま、即座に指示を出す。


 ハクヤが風と砂に対抗すべく、再び魔力を展開し始めた。


 “このオッサン、強え”

 リョウはザハルの構えに一部の隙も見出せない。


 お互いに膠着し、睨み合っている。



 サイは頭上からの矢が激減したのを見計らって、ヤナと一緒に北門に取り付いた。


 “リョウは上手くやってるようだ”


 飛んでくる矢はヤナに任せて、自分は闇魔法の準備に入る。


 “これを使うのは久しぶりだな。時間かかるんだよね“


 北門に向けて集中し、拳を突き出す。


 北門の扉全体を闇魔法で覆い、目を閉じて厚みや素材を感じる。

 そして、一気に魔力を扉の中心部に収縮した。

「黒孔」

 サイはそう呟いて、拳を握り締め、極限まで圧縮したところで魔力を爆発的に解放した。

 

 ドゴオォォォ……ンという轟音が戦場に響き渡る。


 北門の分厚い木製の扉は中心部に大穴を開けて、内側に吹き飛んでいた。


 伸ばした手を下ろし、少しふらつくサイ。

 額に汗が滲み、太腿を両手で押さえて肩で息をしている。


 そこにビョウっと音を立てて一本の矢が飛んできた。


「危ない!」

 慌てて矢を剣で弾き飛ばすヤナ。


「あ……助かったよヤナ……」

 顔を上げるサイ。



「なんだ!」

 ザハル団長たちが一斉に城壁の上から北門を覗き込む。

 信じられない光景。


「騎士団にこんな強力な魔法使いがいたのか!」

 歯軋りするザハル団長。

 部下たちに動揺が伝播する。


 下を見ると、かつての仲間だったフォン・バルドが手を振りながら挨拶して、門の中に消えていった。


「あのヤロウ!」

 怒るやら苦笑するやらのザハル団長。


 “門が破られちまった以上、もう終わりだ”


「まだやんの?」

 リョウが構えを解いて、遠方から声をかけてくる。


「……いや。もうやらねぇ。お前ら潮時だ」

 ふう、と一息吐いて緊張を緩めるザハル団長。


「団長!まだ、アンタなら!」

 血の気の多いカザンがイキリ立つ。


「あのバケモンら相手に無駄死にしてぇのか!?」

 見ると、サイとヤナ、ゼルダンが北門の登り口から城壁の上に辿り着いていた。


「命までは取らない」

 サイ教官が降伏勧告すると、ザハル団長は槍を捨てた。


「処遇良く扱ってくれよ?」


「心配ご無用」


「ならば、おーい!”砂狼“は投降だ!武器を捨てて、抵抗するな!」

 ザハル団長の号令で傭兵団”砂狼“の団員は次々に武装解除していく。


 近場の一部の徴兵農民たちもついでに戦いを止める。


「英断に感謝する」


「さっさと縛って日影にでも集めておいててくれ」


「物分かりが良くて助かるよ」

 部下を集めるサイ。


「……死ななきゃ、勝ちなのさ。俺たち傭兵はな」


 

 北門周辺の戦闘は落ち着いているが、新たな戦闘の音が城砦の中から聞こえてくる。


「いかん、誰か突出してる?」

 サイが城壁の上から見下ろすが、遠くで誰かが戦っているようだ。


 間髪入れず階段を駆け下るリョウ。


 黒い鎧を着込んだ傭兵団が何人かいる。


 その先で戦っているのは、エステル・フォン・カーミラだった。



 

 





 


 

 


 

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