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青の年代記〜山奥で仲間とひたすら修行した少年が、いつか英雄になる話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

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陽暦1490年9月〜ライデル動乱⑥

 シン……と静まり返った練武場。


 ウーツァン指南役が練武場の上階、観覧席の出口を凝視している。

 誰かが廊下を歩いてくるコツコツという音が聞こえてくる。


「ぬぅ……なに奴……」

 ウーツァン指南役が練武場の中に進み出る。


 その直後、廊下の出口から飛び出してくる一陣の赤黒い影。

 それは上階から一気に練武場の中ほどまで跳躍し、着地点で盛大に砂埃を上げた。


 “やり過ぎですよ……!”

 リック騎士、目を疑うような光景。


「誰だ!」

 すでに臨戦態勢のウーツァン指南役。

 稽古していた騎士たちは気圧されてジリジリと場外に出て行く。


「誰だとはご挨拶よのぅ」

 砂埃が少しずつ晴れて行く。


「……ま、まさか」

 わずかに声が掠れるウーツァン。


「久しいの、ウーツァン」

 セキサイは後ろで手を組んで、そこに立っていた。


 数瞬の間。

 ウーツァン指南役が口を開く。

「シーツァイ兄!」

 ウーツァンの目が見開かれ、セキサイを凝視している。

 その立ち姿、迫力。かつての記憶の中のダンマ・シーツァイとダブる。


 思い出す修行の日々。

 若かりしウーツァンが畏れつつ憧れたその姿。


「近くまで来ておったのでな、挨拶に寄らせてもらったぞ」

 ニヤッと笑う。


「……魔人でも攻めてきたかと思ったぞ、兄ぃ」

 

「懐かしい稽古の音にちょっと嬉しくなってイタズラしたんじゃ」

 そう言いながらもセキサイの体の周りの空気は歪み続けている。


 周囲の騎士たちがざわつき始める。


「誰だ、あの爺さん……」

「指南役がいつもと違う……」


 ワイラー戦略部長とリック騎士が現れた。

 

「あの方は、“鬼槍”。手の空いている騎士たち集めてきてくれ、直ちにだ!おそらく滅多に見られないものが見られるはず……」

 ワイラー部長は手早く複数人に指示を出す。


 満足気に頷くセキサイ。


「“鬼槍”……聞いたことがある……かつての王国最強……」


「王国最強などではない」


「え?」


「あの頃の世界最強だ……おそらくな」

 


 ウーツァンとセキサイは互いに距離を取ったまま、世間話を続けている。

 和やかな雰囲気だが、なぜか剣呑な空気が周囲に立ち込めている。


 周囲の騎士たちは皆、推移を見守っている。


 呼ばれて腕の立つ騎士たちが集まってくる。

 サイ教官、ジン、ヤナ、ゼルダン、フェリクス、ライリー副団長などが駆けつけた。

 見るとアルマやフォン・バルド、ライナ・グレイスやガロン・ツェルクなど、276期生も集まってきている。

「あれがリョウの祖父……」


 休憩中だったリョウも来た。

「爺ちゃん!……やる気だ」


「セキサイ先生……」

 ジンもヤナも、サイもこれからの流れを予想して言葉が少ない。


「……ダンマ・シーツァイ……」

 父の片目を奪った男。

 ゼルダンは父からセキサイを怨敵として憎むよう育てられたが、自分の目で見ても話に聞いていたような凶悪な印象を受けなかった。

 それどころか、老いて今なお纏う強者の風格に、尊敬の念すら生まれ始める。


「あの方がサイの師匠か……どうりでサイの腕が上がったわけだ」

 フェリクス騎士がサイに向けて呟く。


「先生の直弟子は他にもいるしねぇ。ほんとすごい先生よ」

 サイはチラッとリョウたちを見る。

 


 ワイラー戦略部長が息子ライリー副団長に言う。

「目に焼き付けておけ。世界最強クラスの戦いを」



「シーツァイ先生!」

 バルガン団長が練武場に駆け込んできた。


「おう!バルガン、久しぶり。リョウが世話になっとるの」

 手を挙げて挨拶するセキサイ。


「兄ぃ、積もる話もあるが、頃合いだ。そろそろダンマ流の挨拶といくか」


「会わなかった時間、さて、お互いどう過ごしていたかな」


 ウーツァンとセキサイから立ち昇る歪んだ空気が、一層激しくなる。

 二人の周囲の砂が上昇気流で円形にふわっと浮き上がり始める。


 二人の体が、うっすら赤黒く光っているように見える。

「な、なにが起こっている!?」


「目に見えるほどの“気”。信じられん……」

 リック騎士とフェリクス騎士は目が釘付けだ。

 


「年寄りの冷や水とならなければ良いが」

 両手を上げて大きく構えるウーツァン。


「デカくなっただけのかつての鼻垂れ小僧が、抜かしおる」

 自然体に半身になるセキサイ。



「フン、問答無用なり」

 前のめりになるウーツァン。


「全力で来い。死ぬなよ」

 少し膝を曲げるセキサイ。


 お互いの間でせめぎ合っていた周囲の空気が、不意に二人の体の中に吸い込まれていった。


 リョウは、練武場の柵を握りしめて二人を凝視している。

 柵の木に指が食い込む。


 “これが、爺ちゃんの本気……!“


 “俺はまだあの領域には立てない……死ぬ!”



 誰かが唾を飲み込んだ音。

 観衆の呼吸が止まる。


「いくぞ」


「応」


 その瞬間ーー。



 





 

 

 


 

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